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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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102/149

それぞれの午前

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌朝。

結局ジジはルナリスを連れて、エルフ居住区の児童所を訪れていた。


「着いた?」


「着いた」


ルナリスは朝からずっと機嫌がいい。

ルナリスの希望、居住区の結界の変化を加味し預けることにした。


毎日来るかどうかはまだ決めていないが、まずは午前中だけ、

他の子供たちと一緒に過ごしてみることになった。


扉を開けると、子供たちの声が聞こえてくる。


「いっぱい居る!」


声を聞きつけたのか、奥からアグラディアが出てきた。


「おはよう、ルナリス」


「アグラディア!」


「おはよう、ジジ」


「おはよ」


ルナリスが声の方へ顔を向ける。


「ララノアいる?」


「いるよ。今は庭にいる」


「お花?」


「今日は薬草を見るって言ってたかな」


「行きたい!」


「もう少ししたらみんなで行くから、その時だね」


「うん!」


完全に馴染む気でいる。

ジジはそんなルナリスを見てから、アグラディアへ顔を向けた。


「昼くらいに迎え来ればいい?」


「あ、そのことなんだけど」


「何?」


「迎えは夕方でいいよ」


「夕方?」


「うん。児童所が終わったら、そのまま僕がシャイアの診療所へ連れていく」


ジジが少し眉を寄せる。


「お前が?」


「近いからね。

 わざわざジジが一度迎えに来て、また診療所まで連れていく必要もないでしょ?」


「まあ……そうだけど」


「お昼もここでみんなと食べればいいし」


「ルナ、ここで食べる!」


「食う気満々じゃん」


「みんなと食べたい!」


アグラディアが笑う。


「じゃあ、そうしようか」


「うん!」


ジジは少し考える。


「診療所まで歩かせんの?」


「もちろん様子を見ながらね。シャイアとも話してあるよ」


「疲れてたら?」


「無理には歩かせない」


「途中で脚痛くなったら?」


「すぐ休ませる」


「昼の薬は?」


「それもシャイアから聞いてる」


「……そうか」


次々確認するジジに、アグラディアは一つずつ答えていく。


「暫く歩行訓練にも僕は一緒にいるつもりだから」


「そこも?」


「うん」


「児童所終わったら、お前の仕事終わりじゃねぇの?」


「所長の仕事はそれだけじゃないんだよ」


「じゃあ仕事あんじゃん」


「あるよ」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫」


あっさり返される。


「千里眼のこともあるからね。何か変化があった時は、僕も近くで確認したい」


「……ああ」


「何度も言うようだけど、無理に何かさせるつもりはないからね」


「それは分かってる」


「なら大丈夫」


アグラディアはいつも通り穏やかだった。


「夕方まで僕とシャイアがいるから、安心して仕事してきて」


「別に心配してねぇよ」


「そう?」


「確認してただけ」


「うん。分かってるよ」


「その顔やめろ」


「どの顔?」


「何でもねぇ」


ルナリスが二人の間で笑う。


「ジジ、行っていいよ」


「……お前まで」


「お仕事あるでしょ?」


「あるけど」


「ルナ大丈夫」


ジジはルナリスを見る。

その顔は嬉しそうだった。


「何かあったらアグラディアに言えよ」


「うん」


「勝手にどっか行くなよ」


「行かない」


「歩く時は――」


「ゆっくり!」


「……分かってんじゃん」


「ジジしつこい」


「うるせぇな」


ジジがルナリスの頭を軽く撫でる。


「夕方迎え来るから」


「うん!」


「じゃあな」


「いってらっしゃい!」


背中へ飛んできた声に、ジジは片手を上げた。


——————————————————————


児童所を出て。

しばらく歩いたところで、ジジは足を止めた。


「……」


午前中。

やることがなくなった。


これまではルナリスのことを中心に動いていた時間だった。


家で庭をいじったり。

歩く練習に付き合ったり。


それが今日、ぽっかり空いた。


「……暇だな」


口に出してから、昨日の会話を思い出す。


『じゃあお前、午前中暇になるな』


『午前中から来いよ』


「……」


ジジはしばらく立っていた。


「行きたくねぇな」


それでも結局、ギルドへ向かった。


——————————————————————


「来たじゃねぇか」


バルトが笑った。


「うるせぇ」


「昨日あんな嫌がってたくせに」


「暇だったんだよ」


「だから言っただろ」


執務室へ入ったジジの前に、バルトが紙の束を置く。


「はい」


「何これ」


「仕事」


「帰っていい?」


「ダメ」


ジジは嫌そうな顔で椅子へ座った。


「何すんの」


「依頼の振り分け」


「受付がやんじゃねぇの?」


「最終的な確認は俺もやってんだよ。

 危険度が微妙なやつとか、記載されてるランクと実際の難度が合ってるかとか」


「それを俺に?」


「お前、十三年冒険者やってんだろ」


「そうだけど」


「六国回って、そこら中の魔物と戦ってる」


「まあ」


「使わねぇ方がもったいねぇだろ」


「人を道具みたいに言うなよ」


「給料出す」


「やる」


ジジは一枚目を取った。


「……東の森。灰牙狼一匹。青銅推奨」


「ああ」


「これダメ」


「早ぇな」


「一匹じゃねぇもん」


「依頼には一匹って書いてあるぞ」


「この時期は群れになってること多いんだよ。

 見つけたのが一匹だっただけだろ」


バルトが依頼書を見る。


「じゃあどうする」


「青銅だけなら四人。心配なら銀一人入れとけば?」


「理由は?」


「森ん中じゃ囲まれる。青銅だと一匹追って奥まで入るだろ」


「……なるほどな」


「何」


「いや。ちゃんと仕事できんじゃん」


「馬鹿にしてんの?」


「してねぇよ」


「顔がしてる」


次の紙を取る。


「これは?」


「川沿いの魔物討伐」


「場所どこ」


「書いてあるだろ」


「この辺、雨降った?」


「三日前にかなり」


「じゃあランク一個上げた方がいい」


「何で」


「増水した後、上流から降りてくる奴いるから」


「依頼書には――」


「書いてねぇよ。行ったことあるから知ってんの」


バルトが黙った。

ジジが顔を上げる。


「何」


「お前、意外と覚えてんだな」


「意外って何だよ」


「もっと全部力でどうにかしてきたのかと思ってた」


「死ぬわ」


「オリハルコンが?」


「昔からオリハルコンじゃねぇよ」


「ああ」


バルトが笑う。


「そうだったな」


「十五で登録した時なんか陶器だったし」


「お前、あの頃から人の言うこと聞かなかったけどな」


「聞いてたよ」


「聞いてねぇよ」


「聞いてたって」


「止めても一人で森入っただろ」


「帰ってきたじゃねぇか」


「そういう話じゃねぇ」


ジジが次の依頼書へ手を伸ばす。


「これ候補生にやらせてもいいんじゃね?」


「どれ」


「北西平原 薬草採取」


「鍛錬じゃねぇぞ」


「分かってる。でも、平原での警戒練習にはなんだろ。

 ここなら採取場所まで魔物もいねぇし」


バルトが紙を受け取る。


「……お前、教官っぽくなってきたな」


「やめろよ」


「何で嫌なんだよ」


「なんか気持ち悪い」


「褒めてんだぞ」


「いらねぇ」


そう言いながら、ジジは次の依頼書を取った。


結局。

昼近くまで、ほとんど席を立たなかった。


——————————————————————


夕方。

鍛錬所での仕事を終えたジジは、

少し早歩きでそのままエルフ居住区へ向かった。


シャイアの診療所へ入る。


「迎え来た」


「ジジ!」


奥からルナリスの声がする。


「ん」


声を頼りに歩いてくるルナリスを見ながら、

その隣にいるアグラディアへ目を向けた。


「……まだいたの?」


「いたよ、朝話してたじゃない」


アグラディアが笑いながら答えた。

シャイアが記録を書きながら口を挟む。


「邪魔はしてないわよ」


「分かってるけど」


ジジがルナリスを見る。


「どうだった?」


「いっぱい歩いた!」


「児童所は?」


「楽しかった!」


「何したんだ?」


「お花見た!あとみんなとご飯食べた!」


「何食った?」


「いっぱい!」


「分かんねぇよ」


「あとね、ララノアが――」


そこから一気に話が始まる。

ジジはルナリスの上着を取ってやりながら聞いていた。


「はいはい」


「それでね!」


「聞いてるって」


アグラディアがその様子を見て、少し笑う。


「今日は千里眼の発現はなかったよ」


ジジが顔を上げた。


「そう」


「身体の調子も問題なし」


シャイアも頷く。


「歩く距離は少しずつ伸ばしてるけど、無理はさせてないわ」


「分かった」


ジジはルナリスへ手を差し出した。


「帰るぞ」


「うん!」


ルナリスがその手を取る。


「アグラディア、明日もいる?」


「いるよ」


「シャイアも?」


「私はここにいるわよ」


「ララノアも?」


「たぶんいると思うよ」


「じゃあ明日も来る!」


「お前が決めんなって」


「だめ?」


ジジが少し黙る。


「……朝起きれたらな」


「起きる!」


「はいはい」


夕暮れの居住区を、二人はゆっくり歩いて帰った。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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