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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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南の島の味

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

診療所から帰ってきた頃だった。

玄関を叩く音に、ジジが顔を上げた。


「誰?」


「知らねぇ。待ってろ」


居間にいたルナリスへ声をかけ、玄関へ向かう。

扉を開ける手前で、甘い香りがした。


「よ」


「……ガイア」


「ガイア!」


居間からルナリスの声が飛んでくる。


「何だよ、その顔」


「いや、別に」


ガイアの片手には大きな包み。

もう片方には、小さな布袋が提げられていた。


「何それ」


「飯」


「飯?」


「前にルナと約束しただろ。南の飯作ってやるって」


「ああ」


「あと、できた」


ガイアが布袋を持ち上げる。


「何が?」


「草履」


「草履できたの!?」


ルナリスの声が大きくなる。

ジジが居間へ戻り、床に置かれていた籠を端へ寄せる。


「ルナ、こっち来ていいよ」


「うん!」


ルナリスが立ち上がる。

壁へ手を添え、足先で床を確かめながら進む。


一歩。

二歩。

三歩。


玄関に立ったまま、ガイアが黙ってその姿を見る。


「……ルナ、もうそんな一人で歩けんの?」


「いっぱい歩けるよ!」


「へぇ」


「今日もシャイアと歩いた!」


「マジか」


「もっと歩けるって言ったのに、今日はここまでって言われた」


「そりゃシャイアが正しいだろ」


「ガイアまで!」


「足生えてきたばっかなんだから当たり前だろ」


ルナリスが声の位置へ顔を上げる。


「草履!」


「分かった分かった。まず座れ」


ガイアが家へ入り、荷物を置いた。


——————————————————————


「足出せ」


「こう?」


「そう」


床へ座ったガイアの前に、ルナリスが両脚を伸ばす。


布袋から出てきたのは、小さな草履だった。

以前測った足の大きさに合わせて作られている。


ルナリスが手を伸ばす。


「触っていい?」


「いいよ」


指先で鼻緒をなぞり、編まれた底を撫でる。


「ざらざら」


「滑りにくいようになってんの」


「ガイアが作った?」


「当たり前だろ」


「ガイア何でもできるね」


「まぁな」


ガイアが鼻緒へ指を入れ、少し広げた。


「最初はちょっと硬ぇからな。痛かったら言え」


「うん」


右足から履かせる。

鼻緒の位置を確かめ、踵の収まりを見る。


続いて左。


「立てるか?」


「うん」


ジジが腕を差し出した。


「ゆっくりな」


ルナリスがつかまり、立ち上がる。


「どう?」


ガイアが聞く。

ルナリスは足を少し動かした。


「変な感じ」


「指痛くねぇ?」


「痛くない」


「じゃあちょっと歩いてみろ」


数歩進む。

途中でルナリスの足が止まった。


「どうした?」


ジジがすぐに聞く。


「音する」


一歩。

草履が床を擦る。


「ほんとだ」


「草履だからな」


もう一歩。


「好き!」


「早ぇな」


ガイアが笑う。


「外で履くなら、もうちょい慣れてからにしろよ」


「児童所にも履いてく!」


「児童所?」


ガイアがジジを見る。


「ああ。通わせることにした」


「エルフ居住区の?」


「うん」


「やった!」


ルナリスが声を上げる。


「まだ毎日とは言ってねぇからな」


「毎日行きたい!」


「それはこれから決めんの」


「何だ。結局行かせんじゃん」


「うるせぇな」


ガイアが少し笑った。


「見に行ったのか?」


「うん!お花いっぱいあった!」


「ルナはそっちか」


「ララノアもいる!」


「誰?」


「植物学の先生。ルナが気に入ってんの」


「髪にいっぱいお花ついてるの!」


ルナリスが楽しそうに続ける。


「すっごく長い髪でね、いっぱい三つ編みにしてる!」


「へぇ」


「いい匂いする!」


「俺とどっちがいい匂い?」


「ララノア!」


「おい」


ジジが吹き出した。


「張り合うなよ」


「張り合ってねぇ」


「聞いてんじゃん」


「うるせぇ」


——————————————————————


草履の確認が終わると、ガイアは持ってきた大きな包みを抱えて台所へ入った。


「お前んち、でかい葉ある?」


「何の」


「料理に使えるやつ」


「ねぇよ」


「だと思った」


包みから大きな葉が出てくる。

続いて白身魚、香草、柑橘。それから見慣れない木の実から取った乳。


「ガイア、何作るの?」


「魚。葉っぱで包んで蒸す」


「葉っぱ食べる?」


「食わねぇよ」


「何で包むの?」


「香りつけんの。あと魚が柔らかくなる」


「へぇー」


ルナリスは食卓の椅子へ座り、ガイアが料理する音を聞いていた。

ジジはその向かいへ座る。


「で」


ガイアが魚へ香草を詰めながら言った。


「何で急に児童所行かせる気になったんだよ」


「今日、アグラディアと話した」


「何を?」


「千里眼」


ガイアの手が止まる。


「……間違いねぇって?」


「ああ」


ジジが続ける。


「足戻ってから、また出始めてるかもしれねぇって」


「何か見えたのか?」


「人形」


「人形?」


「机の下にあったやつ。どこにあるか分かった」


ガイアがルナリスを見る。


「へぇ……」


「アグラディアが昔の文献調べたら、もっと色々出てきた」


「どんな?」


「遠くで起きてること見たり、隠れてるもん見たり。

 その場にいねぇのに、そこで起きてることを細かく話した奴もいたらしい」


ガイアの表情が少し変わる。


「それだけ?」


「まだある」


「何」


「未来」


「……未来?」


「まだ起きてねぇこと見たって記録もあるって」


ガイアはしばらく黙っていた。


「ルナもできんの?」


「分かんねぇって」


「そりゃそうか」


「昔そういう千里眼持ってたエルフがいたってだけ」


ガイアは葉の上へ魚を置いた。


「千里眼自体、俺も話でしか知らねぇからな」


「やっぱ珍しいんだな」


「かなりな」


ジジは少し黙ってから続ける。


「昔の千里眼持ちは、狙われることも多かったらしい」


ガイアの手が止まった。


「……まあ、そうなるだろうな」


「軍事利用とか」


「遠くの軍の動きまで見えるなら欲しがる奴はいくらでもいる」


「ああ」


ガイアがジジを見る。


「黒蛇もそれだったんだろ」


ジジは短く答えた。


「そうだな」


それ以上は誰も続けなかった。

ルナリスの足元で、小さな草履が床へ触れる。


「それで児童所?」


ガイアが聞いた。


「ああ」


「アグラディアの近くに置いとくってこと?」


「それもある」


ジジは答える。


「ルナが他の子供と過ごすのも大事だって。

 あと、エルフ居住区にはレグラスの結界が張ってある」


「あー、前行った時やべぇの張ってあると思った」


「ルナが通うなら、もっと強くしてもらうって言ってた」


「それなら悪くねぇんじゃね?」


「……まあな」


「何だよ」


「別に」


「まだ心配なの?」


 ルナリスが聞く。


「するだろ」


「大丈夫だよ」


「お前が決めんな」


「アグラディアいるよ」


「知ってる」


「ララノアもいる!」


「ララノアは護衛じゃねぇだろ」


ガイアが笑った。


「でもまあ、ジジが鍛錬所いる間ずっと気にしてるよりマシじゃね?」


「気にしてねぇよ」


「するだろ、お前」


「……うるせぇな」


ガイアはそれ以上言わず、葉を折り畳んだ。


——————————————————————


「ねぇねぇ」


ルナリスが言った。


「ガイアも見える?」


「何が?」


「遠く」


「俺?」


「うん!」


ガイアが少し考える。


「俺は千里眼じゃねぇよ」


「見えない?」


「ファルコが見てるもんなら見える」


「ファルコのお目々?」


「そう。あいつの視界を借りる」


ジジが顔を上げる。


「そういや、あれも共鳴になんの?」


「まあ……視界だけ繋いでる感じだけどな」


「鳥と?」


「ファルコはただの鳥じゃねぇよ」


「大鷹だろ」


「そうだけど」


「精霊じゃねぇじゃん」


ガイアは葉の端を折りながら、何でもないことのように言った。


「まあ……ファルコも精霊みてぇなもんだし」


「……」


ジジがガイアを見る。


「何だよ」


「いや」


「何」


「お前、たまに意味分かんねぇこと普通に言うよな」


「説明すんの面倒なんだよ」


「ファルコ、精霊なの!?」


ルナリスが身を乗り出す。


「違う」


「違うの?」


「違うけど、似たようなもん」


「ファルコ触りたい!」


「ここじゃ無理」


「なんで?」


「でけぇから」


「どれくらい?」


ガイアが少し考える。


「……ジジ十人分くらい?」


「説明になってねぇ」


「多分おっきい!」


「お前はそれで分かるのかよ」


「おっきいのは分かった!」


ルナリスが笑う。


「お庭は?」


「無理。近所が大騒ぎになる」


「じゃあどこなら触れる?」


「今度、広いとこ行ったら呼んでやるよ」


「ほんと!?」


「うん」


「約束!」


「はいはい」


「約束って言って!」


「約束」


「やった!」


——————————————————————


夕食の頃には、家の中に馴染みのない香りが満ちていた。

大きな葉を開く。

湯気と一緒に魚と香草、柑橘、それにほんのり甘い香りが広がる。


ルナリスがすぐに鼻を動かした。


「……ガイアの匂いする」


「俺は魚臭くねぇよ」


「違うよ!甘い方!」


「ココナッツか」


「それ!」


隣には香草とココナッツで炊いた米。

最後に切った果物が並ぶ。


「これがガイアのおうちのご飯?」


「こういうのはよく食うな」


「いただきます!」


「熱いから気をつけろよ」


「うん!」


ルナリスが一口食べる。

しばらく噛んだあと、顔を上げた。


「おいしい!」


「だろ」


「ジジも食べて!」


「食ってるよ」


「おいしい?」


「うん。うまい」


「だろ?」


ガイアが言う。

ジジがそちらを見る。


「何でお前がそんな得意げなんだよ」


「俺が作ったからだろうが」


「そっか」


「腹立つな、お前」


ルナリスが笑った。

ジジも少し笑う。


「ガイア」


「何」


「また作ってくれる?」


ルナリスが言った。


「気に入ったんか?」


「うん!」


「じゃあ今度は別の作ってやるよ」


「やった!」


開いた葉からは、まだ温かな湯気が上がっていた。

食卓には、南の島の甘い香りが残っていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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