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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『癒しの悪魔』

迅は踏み込む。


次の瞬間、剣がセイルの矢を切り裂き、身体を裂く。


「ぐ……!」


セイルが初めて息を乱す。

迅の速度が、さっきまでと違う。


理性が薄い。

選択がなく、ただ「殺す」だけになっている。


「お前が……」


迅の声が低く唸る。


「多くの民を殺しかけた」


剣が、セイルの胸を切り裂く。

血が散る。


セイルは後退し、光の壁を展開するが、迅は止まらない。


「……終わりだ」


剣先が、セイルの喉へ向かう。


セイルの目が見開かれる。


(……このまま、死ぬ)


その瞬間――


黒剣が重くなる。


「、、、、、、なっ!」


その時、、、


「ォオオッ!」


フォルが横から突進した。


体当たり。


迅の身体が弾かれ、剣筋が逸れる。


「……っ!」


迅がよろめく。

次の瞬間、世界が戻った。


自分が何をしようとしていたか、理解した。


(……俺は)


呼吸が乱れる。

手が震える。


(……殺すつもりだった)


迅は唇を噛む。


フォルが前に立ち、低く鳴く。


セイルは血を吐きながら笑った。


「……よくわからんが、」


撤退の合図を出す。


「退け!」


討伐隊は光の煙幕を撒き、壁の外へ消えていく。

セイルも最後に振り返り、ルシェラを睨む。


「大厄災の悪魔、過去は消えない」

「次は……討伐する」


そして影は消えた。


広場に残ったのは、倒れた民と、血と、静寂。


アレクが地面に横たわり、息が浅い。

顔は青白く、目が焦点を失いかけている。


「アレク……!」


迅が駆け寄るが、治療の術はない。


ルシェラが、ゆっくりと近づいた。


民が怯えた目で見る。


“悪魔”が近づく。

恐怖が、また戻りかける。


ルシェラは構わず膝をつき、アレクの胸元に手を置いた。


ルシェラの掌が淡く光る。


闇ではない。

温かい、優しい光。


「《セラフィム・グレイス》……」


光が広がり、裂けた肉がゆっくりと塞がっていく。

血が止まり、呼吸が整う。


アレクの胸が大きく上下した。


「……っ」


息を吹き返した。


広場が、凍りつく。


「……聖魔法?」

「悪魔が……?」


ルシェラは顔を背ける。


「……たまたまよ」


言い訳にもならない言い訳。


だが、その瞬間、足元に小さな影が近づいた。


さっき庇った少女だった。


少女は震えながらも、ルシェラの前に立つ。

そして、ぎゅっと拳を握りしめて言った。


「……ありがとう」


ルシェラの肩が僅かに揺れる。


「……」


返し方が分からない。


少女は続けた。


「おねえちゃん、こわかったけど……」

「でも、守ってくれた」


その言葉が、広場の空気を変えた。


怯えていた民の視線が揺らぎ、恐怖が少しずつ溶ける。

民は見ていた。

ルシェラが、傷を負っても子どもを庇ったことを。


ルシェラは立ち上がり、ふらつきながら周囲を見た。


倒れた民がいる。

泣き叫ぶ者がいる。

血を流す者がいる。


彼女は、短く息を吐き、手をかざした。


「……仕方ない」


ひどく不器用な言葉。


だが次の瞬間、光が広がる。


「《ルミナ・ヒール》」


負傷者の傷が塞がり、痛みが薄れる。

民が息を呑み、そして……膝をついた。


「……女神だ」

「女神が……ここに……」


誰かが呟き、次々と同じ言葉が広がっていく。


ルシェラの顔が真っ赤になる。


「ちょ、ちょっと……やめなさい」

「……私は、そんな……!」


恥ずかしさで視線を逸らし、耳まで赤い。

だが民は笑い始めていた。

恐怖ではなく、安堵の笑い。


その光景を、迅は少し離れた場所から見ていた。


剣を握る手が、ようやく落ち着いていく。


(……守ったな)


ルシェラが。

アレクが。

そして自分も──守ろうとして、危うく壊すところだった。


迅の口元が、少しだけ緩む。


だが、その笑みはすぐに消える。


胸の奥に、疑問が刺さった。


(……なぜ)


悪魔族が、聖魔法を使える?


迅はルシェラへ歩み寄り、静かに言った。


「ルシェラ」


ルシェラは、まだ恥ずかしそうに顔を背けたまま。


「……なによ」


迅は、真剣な目で続けた。


「君はいったい……」


言葉が途切れる。


答えが怖いわけじゃない。

だが、この先の旅が変わると直感していた。


ルシェラは、何も答えない。


ただ胸元を押さえ、目を伏せた。


そこにあるのは、かつての憎悪だけじゃない。


守った重み。

救った光。

そして、まだ言えない真実。


広場の空気が静まり、遠くで風が鳴る。





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