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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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9/17

『小さな誇り』

 山道を抜け、街が見えたとき。


 三人の肩から、どっと力が抜けた。


「ふぅ〜……やっと、戻ってこれた〜!」


 リリィが大きく伸びをして、空を仰ぐ。

 風が吹き抜け、木々がざわめく音が耳に心地いい。

 ついさっきまで命のやり取りをしていたのが嘘みたいな、穏やかな午後だった。


「……いい風だな」


 迅も小さく呟く。


 背中にはまだ戦いの余韻が残っている。


 盗賊との戦いは、魔物相手とは違う“重さ”があった。心の奥に、妙なざらつきが残っている。


「……お前、少し顔色悪いな」


 横を歩いていたガルドが、ぽつりと声をかけてきた。


 あの無骨な戦士からそんな言葉が出るなんて、少し意外だった。


「……平気だよ。ちょっと、まだ慣れてないだけ」


「盗賊は、人間だからな」


 ガルドの声には、どこか“知っている”響きがあった。


 おそらく、彼も初めて人を斬ったとき――同じような感覚を味わったのだろう。



 街の門をくぐり、三人はそのままギルドへ向かった。


 いつもの賑やかな喧騒。酒場スペースからは笑い声とグラスの音。

 昨日までは、ここに一人で戻るのが嫌でたまらなかった。

 でも今は、隣に仲間がいる。それだけで景色が違って見えた。


「おかえりなさい、迅さん、リリィさん……それにガルドさん!」


 受付嬢が柔らかな笑みを浮かべる。


 優しい声をかけてくれるその姿に、迅の緊張が少しだけ溶ける。


「盗賊団の討伐、確認しました! ……皆さん、本当にお疲れ様です!」


「ふふん、任務完了〜!」


 リリィが胸を張って報告書を差し出す。


 受付嬢は目を細め、三人に報酬袋を渡した。


 銀貨の入った袋はずっしりと重く――迅にとっては初めて“自分の力で得た”報酬だった。


「……あのさ」


 受付を離れたあと、迅はふと立ち止まった。


 ギルドの喧騒の中で、自分の胸の奥がざわざわと騒いでいるのを感じる。


「ん、どうしたの?」


 リリィが首を傾げる。

 ガルドも無言のまま立ち止まり、迅の方を見る。


「……俺さ」


 迅は一度息を吸い、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。


「……ずっと、ビビってた。最初のゴブリン一体倒すのもやっとで……夜の森を歩くのも、怖くてしょうがなかった」


 リリィが静かに目を細める。


 ガルドは腕を組んだまま、何も言わずに聞いていた。


「でも……それでも逃げたくなかった。誰にも必要とされなくても、自分だけは“逃げない自分”でいたかった」


 拳をぎゅっと握る。


 それは、誰かに認められるような立派な話じゃない。


 でも、自分にとって――唯一守りたかった“ちっぽけな誇り”だった。


「俺が持ってるのなんて、この小さな誇りだけだ。……でも、それがあるから、俺はここに立ててるんだと思う」


 一瞬、沈黙が落ちた。

 ざわめくギルドの音が、遠くの世界のように聞こえる。


 そのとき――


「……ははっ」


 低く、乾いた音が響いた。

 驚いて顔を上げると、ガルドが――ほんの少しだけ、笑っていた。


「……お前、変なやつだな」


「は?」


「ちっぽけな誇りなんて……そんなもん、持ってる奴は少ねぇ。……バカみたいに、まっすぐだ」


 その顔は、これまでの無骨で無表情なガルドとは違っていた。

 獣人らしい鋭い瞳の奥に、ほんのわずかな優しさが滲んでいる。


「……悪くねぇ」


「え、今……笑った?」


 リリィが目を丸くする。

 ガルドは少しむっとしたように顔をそむけた。


「笑ってねぇ」


「いや、笑った!」


「笑ってたよ!」


「……うるさい」


 三人の声が、ギルドの喧騒の中に混ざっていく。

 昨日まで感じていた孤独が、どこか遠くの出来事のように思えた。




「……迅」


 しばらくして、ガルドがぽつりと声をかけてきた。

 その声音は、いつものぶっきらぼうさとは少し違う。


「俺は、長い間ずっと“ひとり”で戦ってきた。人間にも、獣人にも、仲間なんていなかった」


「……」


「でも――お前らと戦って、少し……悪くねぇと思った」


 ガルドの大きな手が、斧の柄を軽く叩いた。

 その仕草に、不器用な決意が込められているのがわかる。


「……俺も混ぜてくれ」


「え?」


「……パーティーだろ。三人で組もうぜ」


 一瞬、時間が止まったようだった。

 リリィが目を丸くして、それから――満面の笑顔になる。


「やったぁぁぁっ!! 正式なパーティーだね!!」


 迅も、胸の奥にじんわりと温かいものが広がるのを感じた。

 ずっと、ただ生きるだけだったこの世界で――初めて「仲間」ができた。


【パーティーメンバー加入:ガルド(獣人族)】

【レベル:20】



 三人は夜の街を並んで歩いていた。

 街灯がオレンジ色に石畳を照らし、酒場からは楽しげな音楽が聞こえる。


「なあ、迅」


「ん?」


「……その小さな誇り、悪くねぇぞ」


 ガルドの言葉は短く、ぶっきらぼうだった。

 けれど、その一言が胸に染みた。


「……ありがとな」


 風が吹き抜ける。

 夜空に浮かぶ二つの月が、まるで三人の新しい道を照らすように輝いていた。



 これは、たった一人の冒険者が――“仲間”を得た夜だった。

 ちっぽけな誇りが、確かに世界を変え始めていた。

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