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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『初めてのパーティー戦』


 翌朝のギルドは、いつもよりざわついていた。


 冒険者たちが依頼掲示板の前に群がり、声を上げている。


 金属の鎧がこすれる音と、酒場の笑い声が混じり合うこの喧騒にも、迅はようやく少しだけ慣れてきていた。


「おはよー、迅!」


 リリィがいつもの調子で手を振ってくる。


 その明るさが、まだどこかぎこちない迅の空気をやわらげてくれる。


「おはよう。今日も依頼か?」


「もちろん! 昨日の連携、いい感じだったし、もうちょっと難しいクエストいってみよ!」


 リリィは弾むような声で依頼掲示板の前へ走っていく。

 迅もその背中を追いながら、自然と口元に笑みが浮かんだ。



 掲示板には、昨日のような低ランク討伐依頼のほかに、中級寄りのクエストも貼られている。

 その中でリリィが目を止めたのは――


【依頼内容:山道の盗賊団討伐】

【報酬:銀貨2枚】

【推奨人数:3〜5人】


「……盗賊団?」


「うん。最近、荷馬車を襲ってるらしいよ。推奨人数は3人以上だけど……」


 リリィがちらりと迅を見る。

 二人だけでは、さすがに荷が重い。

 相手は魔物ではなく、人間。初めて“知性のある敵”と戦うことになる。


「……危険だな」


「でも、いつまでも低ランクの雑魚狩りばっかじゃ、成長できないよ」


 その言葉に、迅は何も言い返せなかった。

 彼女のまっすぐな瞳が、自分の迷いを映している気がした。


「……確かに、いつかは通る道だ」


「でしょ?」


 リリィがにやっと笑う。そのとき、背後から低い声が聞こえた。


「……二人じゃ無理だ」


 振り返ると、ギルドの柱にもたれかかっていたガルドがいた。

 大きな戦斧を背負い、腕を組んだまま、こちらを見下ろしている。


「……昨日の戦いを見てた。お前らだけじゃ足りねー」


「そりゃ、まあ……そうだけど……」


 リリィが頬をかく。

 迅は少し息をのみながらも、視線をガルドに合わせた。


「じゃあ、どうすればいい?」


「……俺が行く」


 一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

 リリィが目を丸くし、迅も思わずガルドを見つめる。


「え、それって……」


「勘違いすんな。あくまで“協力”だ。」


 ガルドはぶっきらぼうにそう言い、視線をそらす。

 だが、その声はどこか不器用な優しさを含んでいた。


「ふふっ、素直じゃないんだから」


 リリィが嬉しそうに笑う。

 迅はそんな二人のやりとりに、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


「……ありがとう、ガルド」


「礼はいい。戦うなら、足を引っ張るな」


「わかってる」



 3人は簡単な準備を整え、街の北へと続く山道へ向かった。

 道は緩やかに続いているが、周囲は鬱蒼とした林に囲まれていて、盗賊が隠れるには格好の地形だ。


 鳥の鳴き声さえ遠のき、風がざわめく音だけが耳に残る。


「……空気が違うな」


「うん。魔物と違って、人間相手だからね」


 リリィが小声で呟く。

 迅は短剣の柄を握りしめた。


 ――ゴブリンを倒したときとは違う。今度は“知性ある敵”だ。


「……油断するな。相手は罠も使う」


 ガルドが短く言う。

 その声音には戦場を知る者の冷たさがあった。

 迅とリリィも自然と口を閉じ、歩調をそろえる。



 山道の先、荷馬車が横倒しになっていた。

 血の跡。矢が地面に突き刺さっている。


「伏せろ」


 ガルドが小さく呟き、手で制する。

 木陰から、三人の盗賊が現れた。

 革鎧にナイフ、手慣れた動き。――明らかに素人ではない。


「三人……いや、林の奥にも気配がある。六人だ」


「……六人……!」


 リリィの息が少し上ずる。

 迅は喉を鳴らしながらも、じっと前を見据えた。


 ――ここで逃げたら、きっと何も変わらない。


「リリィ、左を任せる。俺は正面」


「うん!」


「俺は右を潰す」


 短い言葉だけで、三人の役割が決まる。

 それは不思議な感覚だった。

 誰も何も合わせたことがないのに、まるで自然に“チーム”として動こうとしていた。



 ガルドが先陣を切る。

 戦斧を振り上げ、盗賊の一人を叩き伏せると、地響きのような音が響いた。


「うわっ……あれは反則だろ……!」


「すごっ……!」


 リリィが素早く詠唱を始める。《ファイア・ショット》。

 炎の弾丸が茂みに潜んでいた盗賊をあぶり出し、迅が短剣で一気に距離を詰める。


「うおおおっ!」


 短剣が盗賊の腕を弾き、リリィの魔法が追撃する。

 昨日までの戦いとは比べものにならない――これはもう、“一人の戦い”じゃない。



 盗賊たちは想定以上の反撃に怯み、林の奥へと退いた。

 三人は追撃せず、その場で構えを崩さなかった。

 ガルドが静かに息を吐く。


「……ふん。悪くない」


「へへ、ありがと!」


「……別に褒めてねぇ」


 ぶっきらぼうにそっぽを向くガルド。

 けれど、その声はほんの少し柔らかかった。


「迅!」


「ん?」


「三人で戦うの……悪くないね!」


 リリィの無邪気な笑顔に、迅の胸の奥が少し熱くなる。

 昨日まで一人で震えていた森が、今はまるで別の場所のように見えた。



【経験値を獲得しました】

【レベルが4 → 5に上がりました】


 迅の視界の端に、淡い青い文字が浮かぶ。

 昨日よりも確かに――世界が広がっていると感じた。


 ガルドは戦斧を肩に担ぎ、ぼそりと呟く。


「……悪くない連携だった」


「それ、褒めてるよね?」


「うるさい」


 リリィが笑い、迅もつられて笑う。

 三人の足音が、山道に並んで響いた。


 ――初めての“本格的な連携”が、確かな一歩として刻まれた。

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