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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『獣人族の戦士』

 森の入り口を抜け、街へと戻る道。


 昨日までは恐怖でいっぱいだったその道が、今は少しだけ明るく感じられた。


 横にはリリィがいて、軽口を叩いている。それだけで、森のざわめきさえ違って聞こえる。


「ねぇ迅、次はさ、もうちょい難しい依頼いってみようよ!」


「……はえぇよ。今日やっと三体倒したばっかだぞ」


「いいじゃん、勢いって大事!」


 リリィは無邪気に笑いながら杖を振り回す。


 迅は苦笑しながらその横顔を見る。昨日の夜には考えられなかった――誰かと笑いながら歩くなんて。



 ギルドへ戻ると、昼時のざわめきが広がっていた。

 酒場スペースでは筋骨隆々の男たちが酒をあおり、ローブ姿の魔法使いが談笑している。

 その中で、一際目立つ巨体があった。


 漆黒の毛並み、金色の瞳、背に大きな戦斧。

 人間よりもひとまわり以上大きい――獣人族の戦士だった。


「……なんか、目立つやついるな」


「ガルドだよ」


「知ってるのか?」


「うん、有名人。まだCランクだけど、“一人で”中級のオーガを倒したらしいよ」


「一人で……?」


 迅は思わず目を見開いた。


 この世界で“ひとり”の戦闘がどれほど危険か、身をもって知っている。だからこそ、その言葉の重みがわかった。


 そのとき――そのガルドと目が合った。


 鋭い金色の瞳が、一瞬だけこちらを射抜くように見た。

 無言のまま立ち上がり、ギルドを出ていく。


「……なんか怖ぇな」


「実はあの人、話すの苦手なんだって」


「え?」


「昔から“獣人だから”ってバカにされてたらしいよ。だから、強くなるしかなかったんだって」


 リリィの言葉が、やけに静かに胸に落ちた。


 嘲笑、孤独、戦うことでしか自分を証明できない――それは、どこか自分と似たものを感じた。



 その日の午後。


 二人で再び依頼掲示板を見ていると、森の外れの警備兵が慌てた様子でギルドに飛び込んできた。


「ゴ、ゴブリンの群れだ! 荷馬車が襲われてる!!」


「また……!?」


 周囲の冒険者たちがざわめき立つ。

 オークやオーガほどではないが、数がまとまればゴブリンは危険な存在になる。


「迅、行く?」


「もちろん」


 返事は早かった。昨日だったら迷っていた。でも今は違う。

 リリィと、少しの自信がある。



 森の手前の街道。


 荷馬車が転倒し、周囲を十数体のゴブリンが囲んでいた。

 叫ぶ商人。泣きじゃくる少年。焦げ臭い匂いがあたりに立ち込めている。


「数が……多い」


「十体くらいかな。ちょっとキツいかも」


 そのとき――

 地面を踏みしめる重たい音が響いた。


「……退け」


 低く、唸るような声。


 振り向くと、そこには――あの獣人戦士、ガルドがいた。

 巨大な戦斧を肩に担ぎ、まっすぐゴブリンたちを見据えている。


「ガルドさん……!」


 ギルドの誰かが名を呼ぶ。

 だが、彼は誰にも目を向けず、一歩、また一歩と前に出ていく。


「迅……」


「わかってる。俺たちも行こう」



 戦いは一瞬で激化した。


 ガルドが前線で大斧を振るい、二体、三体とゴブリンをまとめて叩き潰す。

 その迫力は、まるで嵐のようだった。


「すげぇ……!」


「ボサッとしてないで、こっちもやるよ!」


「お、おう!」


 リリィが炎の弾丸を放ち、迅が側面から切り込む。


 ガルドの圧倒的な破壊力に気を取られていたゴブリンたちは防御も追いつかない。

 二人と一人――不器用だが、自然と“連携”が生まれていた。


「右、三体!」


「任せろ!」


 ガルドの低い声に、迅が即座に反応する。

 短剣で一体の腕を切り裂き、リリィが魔法で残りを焼き払う。

 動きはぎこちない。でも、不思議と噛み合っていた。



 やがて、地面には倒れたゴブリンが散乱していた。


 荒い息を吐きながら、迅は短剣を下ろした。


 リリィも杖を支えに息を切らしている。


「……なんとかなったな」


 戦場の真ん中で、ガルドは無言のまま斧を振り払った。


 その金色の瞳が、静かに迅を見た。


「……お前、弱いな」


「……は?」


「けど、悪くない。足が止まらなかった」


 それだけ言って、ガルドは踵を返す。

 無愛想で、褒めているのかどうかもわからない。

 でも、不思議と胸の奥が熱くなった。


「……へんな奴」


「ね。でも、ああいう人……嫌いじゃないな」



 ギルドへ戻る途中。

 リリィが杖をくるくると回しながら言った。


「ねぇ、迅」


「なんだ」


「あのガルドさん、パーティー組んだことほとんどないんだって。獣人だからって嫌われてるし、本人も人と組むの苦手らしいよ」


「……なんか、わかる気がする」


「ふふ、同族嫌悪?」


「うるせぇ」


 二人の笑い声が、夕暮れの街道に響く。

 昨日まで感じた重苦しい世界の空気が、ほんの少し軽くなっていた。



 ギルドに戻ると、淡い光が迅の前に浮かび上がった。


【経験値を獲得しました】

【レベルが3 → 4に上がりました】


「……レベル4か」


「やっぱり群れ相手は経験値も多いよね!」


 リリィが笑顔を向ける。

 そしてその後ろで、ギルドの壁にもたれたガルドが、無言でこちらを一瞥した。


「……また戦うなら、もう少し強くなれ」


「……おう」


 それは誘いでも、命令でもなかった。

 ただ、戦士としての真っすぐな言葉。


 ――この瞬間、迅の世界にもう一人、仲間の“影”が灯った。

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