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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『初めての連携』


「ね、緊張してる?」


 リリィがひょいと覗き込んでくる。

 彼女の赤い髪が揺れ、差し込む木漏れ日を反射してきらりと光った。


「……ちょっとな」


「ふふっ、大丈夫! 私、攻撃魔法は得意だから」


 軽い口調でそう言う彼女の横顔を見て、迅の肩から少しだけ力が抜ける。

 一人きりの夜にはなかった安心感――それは想像以上に、大きかった。



「……来た」


 昨日と同じ濁った黄色い瞳。棍棒を握り、涎を垂らしながら、じりじりと距離を詰めてくる。


 全身に緊張が走った。

 でも昨日と違うのは――震える手の横に、仲間がいること。


「リリィ……後ろは任せた」


「うん! 迅は突っ込んで注意引いて!」


「了解!」


 短剣を構え、深く息を吸い込む。

 心臓は高鳴る。でも、怖くはなかった。


 一歩、踏み出す。

 二歩目で、ゴブリンが牙をむいて突っ込んできた。


「うおおおおっ!」


 迅は低い姿勢で滑り込むように突進。

 短剣を横薙ぎに振るい、一体目の足を斬り裂く。


「ギャァッ!!」


「――《ファイア・ショット》!」


 リリィの声とともに、轟っと空気が焦げる匂いがした。

 小さな炎の弾丸が放たれ、後方のゴブリンの肩を直撃。炎が弾け、悲鳴が森に響く。


「今だ、迅!」


「任せろ!」


 迅はすかさず踏み込み、最初に傷を負わせたゴブリンの喉元に刃を突き立てた。

 刃が肉を裂き、黒い血が飛び散る。

 昨日の恐怖が、今は“動き”の中に溶けていった。



 二体目のゴブリンが怒り狂って突っ込んでくる。

 だが、迅はもう“ひとり”ではない。


「右!」


「わかってる!」


 リリィの声と同時に、迅は横に飛び退く。

 そこに――炎の矢が突き刺さった。


「ギャアアアッ!!」


 燃え上がるゴブリンが転げ回る。

 その隙に迅が距離を詰め、短剣を心臓に突き立てた。


 刃の感触は、昨日と同じ“重さ”を持っていた。

 でも――今は、怖くなかった。

 背中には、確かにリリィの存在があるからだ。



 三体目が、後ろから回り込もうとする。

 リリィの位置は固定されている。迅が一瞬で判断し、前に出る。


「うわっ、速い!」


「俺がいく!」


 短剣を逆手に持ち替え、ゴブリンの棍棒を横から叩き落とす。

 反動で肩がしびれた。だが――足は止まらなかった。


「おりゃあああああっ!!」


 怒鳴り声と共に、勢いで斬り上げる。

 ゴブリンがのけぞった隙を逃さず、渾身の一撃を首筋に叩き込んだ。


 血が飛び、短い悲鳴が森の中に消えた。



「……ふぅっ……!」


 迅は荒い息をつきながら、ゆっくりと短剣を下ろした。

 地面には三体のゴブリンが倒れている。

 昨日、あんなに必死だった相手に――今は勝てた。


「やったぁぁぁっ!!」


 リリィが両手を上げて飛び跳ねた。

 その姿があまりにも楽しそうで、思わず笑ってしまう。


「……お前、元気だな」


「当たり前じゃん! 初パーティー戦、勝利〜!」


 そう言って、無邪気に笑うリリィの顔は、朝の光よりも眩しかった。



 そのとき、目の前に淡い青い光が浮かぶ。


【ゴブリン3体を討伐しました】

【経験値を獲得しました】

【レベルが2 → 3に上がりました】


 迅の身体の奥に、ほんのわずかだが力が満ちていく感覚。

 昨日のときとは違い、それを素直に受け止められた。

 今度は――“一人じゃない”から。


「迅、レベル上がった?」


「ああ……3になった」


「おお〜っ! やっぱ一緒にやると早いね!私はレベル5!」


 リリィが笑う。その笑顔がまぶしくて、迅は小さく息を吐いた。

 戦いの中で強くなる――昨日は怖かったその感覚が、今はほんの少し“希望”に変わっていた。



 街へ戻る途中、木々の間から差し込む光が妙にやさしく感じられた。

 昨日はただ“怖い”だけだったこの森が、今は少しだけ違って見える。


「なあ、リリィ」


「ん?」


「……ありがとう」


「え、なにそれ急に」


「いや……なんていうか、お前がいなかったら、たぶん……また震えてた」


 リリィはきょとんとしたあと、ふっと笑った。


「いいよ、そういうの。だって、仲間でしょ?」


 その一言に、胸が熱くなる。


 ――仲間。


 たった一言なのに、世界の景色が変わったように感じた。



 ギルドに戻ると、受付嬢が迎えてくれた。

 昨日よりも、ほんの少しだけ胸を張って歩ける。


「おかえりなさい、迅さん! ……それに、リリィちゃんも!」


「討伐、完了です!」


 リリィが元気よく依頼書を差し出す。

 受付嬢は目を細め、柔らかく笑った。


「ふふ、お二人、とってもいいコンビですね」


「コンビか……」


 その言葉を噛みしめるように、迅は小さくつぶやいた。


 孤独と恐怖だけだったこの世界に、ほんの少し――光が灯った。

 それは小さなものだけど、確かに胸の奥で燃え続けている。


 ―最弱の冒険者、初めての“仲間”との戦いは、確かな一歩になった。

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