表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/111

『初めての連携』


「ね、緊張してる?」


 リリィがひょいと覗き込んでくる。

 彼女の赤い髪が揺れ、差し込む木漏れ日を反射してきらりと光った。


「……ちょっとな」


「ふふっ、大丈夫! 私、攻撃魔法は得意だから」


 軽い口調でそう言う彼女の横顔を見て、迅の肩から少しだけ力が抜ける。

 一人きりの夜にはなかった安心感――それは想像以上に、大きかった。



「……来た」


 昨日と同じ濁った黄色い瞳。棍棒を握り、涎を垂らしながら、じりじりと距離を詰めてくる。


 全身に緊張が走った。

 でも昨日と違うのは――震える手の横に、仲間がいること。


「リリィ……後ろは任せた」


「うん! 迅は突っ込んで注意引いて!」


「了解!」


 短剣を構え、深く息を吸い込む。

 心臓は高鳴る。でも、怖くはなかった。


 一歩、踏み出す。

 二歩目で、ゴブリンが牙をむいて突っ込んできた。


「うおおおおっ!」


 迅は低い姿勢で滑り込むように突進。

 短剣を横薙ぎに振るい、一体目の足を斬り裂く。


「ギャァッ!!」


「――《ファイア・ショット》!」


 リリィの声とともに、轟っと空気が焦げる匂いがした。

 小さな炎の弾丸が放たれ、後方のゴブリンの肩を直撃。炎が弾け、悲鳴が森に響く。


「今だ、迅!」


「任せろ!」


 迅はすかさず踏み込み、最初に傷を負わせたゴブリンの喉元に刃を突き立てた。

 刃が肉を裂き、黒い血が飛び散る。

 昨日の恐怖が、今は“動き”の中に溶けていった。



 二体目のゴブリンが怒り狂って突っ込んでくる。

 だが、迅はもう“ひとり”ではない。


「右!」


「わかってる!」


 リリィの声と同時に、迅は横に飛び退く。

 そこに――炎の矢が突き刺さった。


「ギャアアアッ!!」


 燃え上がるゴブリンが転げ回る。

 その隙に迅が距離を詰め、短剣を心臓に突き立てた。


 刃の感触は、昨日と同じ“重さ”を持っていた。

 でも――今は、怖くなかった。

 背中には、確かにリリィの存在があるからだ。



 三体目が、後ろから回り込もうとする。

 リリィの位置は固定されている。迅が一瞬で判断し、前に出る。


「うわっ、速い!」


「俺がいく!」


 短剣を逆手に持ち替え、ゴブリンの棍棒を横から叩き落とす。

 反動で肩がしびれた。だが――足は止まらなかった。


「おりゃあああああっ!!」


 怒鳴り声と共に、勢いで斬り上げる。

 ゴブリンがのけぞった隙を逃さず、渾身の一撃を首筋に叩き込んだ。


 血が飛び、短い悲鳴が森の中に消えた。



「……ふぅっ……!」


 迅は荒い息をつきながら、ゆっくりと短剣を下ろした。

 地面には三体のゴブリンが倒れている。

 昨日、あんなに必死だった相手に――今は勝てた。


「やったぁぁぁっ!!」


 リリィが両手を上げて飛び跳ねた。

 その姿があまりにも楽しそうで、思わず笑ってしまう。


「……お前、元気だな」


「当たり前じゃん! 初パーティー戦、勝利〜!」


 そう言って、無邪気に笑うリリィの顔は、朝の光よりも眩しかった。



 そのとき、目の前に淡い青い光が浮かぶ。


【ゴブリン3体を討伐しました】

【経験値を獲得しました】

【レベルが2 → 3に上がりました】


 迅の身体の奥に、ほんのわずかだが力が満ちていく感覚。

 昨日のときとは違い、それを素直に受け止められた。

 今度は――“一人じゃない”から。


「迅、レベル上がった?」


「ああ……3になった」


「おお〜っ! やっぱ一緒にやると早いね!私はレベル5!」


 リリィが笑う。その笑顔がまぶしくて、迅は小さく息を吐いた。

 戦いの中で強くなる――昨日は怖かったその感覚が、今はほんの少し“希望”に変わっていた。



 街へ戻る途中、木々の間から差し込む光が妙にやさしく感じられた。

 昨日はただ“怖い”だけだったこの森が、今は少しだけ違って見える。


「なあ、リリィ」


「ん?」


「……ありがとう」


「え、なにそれ急に」


「いや……なんていうか、お前がいなかったら、たぶん……また震えてた」


 リリィはきょとんとしたあと、ふっと笑った。


「いいよ、そういうの。だって、仲間でしょ?」


 その一言に、胸が熱くなる。


 ――仲間。


 たった一言なのに、世界の景色が変わったように感じた。



 ギルドに戻ると、受付嬢が迎えてくれた。

 昨日よりも、ほんの少しだけ胸を張って歩ける。


「おかえりなさい、迅さん! ……それに、リリィちゃんも!」


「討伐、完了です!」


 リリィが元気よく依頼書を差し出す。

 受付嬢は目を細め、柔らかく笑った。


「ふふ、お二人、とってもいいコンビですね」


「コンビか……」


 その言葉を噛みしめるように、迅は小さくつぶやいた。


 孤独と恐怖だけだったこの世界に、ほんの少し――光が灯った。

 それは小さなものだけど、確かに胸の奥で燃え続けている。


 ―最弱の冒険者、初めての“仲間”との戦いは、確かな一歩になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ