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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『冒険の日々』

 朝のギルドは、いつも活気にあふれている。


 冒険者たちが武器を背負い、仲間と笑い合いながら依頼掲示板を囲んでいる。


 数日前まで、この喧騒がただ怖く感じていた迅も――今は、少しだけ違って見えた。


「おはよう、迅! 今日もいくよ!」


 いつもの調子でリリィが駆け寄ってくる。

 元気そのものの笑顔を見ていると、不思議と肩の力が抜ける。


「……朝からテンション高いな」


「いいじゃん! 今日も依頼、バシッと決めよ!」


 その後ろでは、ガルドが大きなあくびをしながら現れた。


 いつも通りぶっきらぼうで、言葉少なめ。でも――彼がこうして一緒に立っていること自体が、なんだか嬉しい。


「……騒がしい奴らだ」


「おはよ、ガルド!」


「うるさい」


 そんな軽口のやり取りが、三人の日常になりつつあった。



「この辺の依頼ならちょうどいいかも」


 リリィが掲示板の紙を指さす。

 そこには小さな討伐依頼が並んでいた。


【畑を荒らすイノシシの討伐】

【野犬の群れの掃討】

【森の入り口の魔物駆除】


「……悪くねぇ。今の俺たちならちょうどいいだろ」


 ガルドが紙を一枚引き抜く。

 迅もそれを覗き込み、こくりと頷いた。


「派手な戦いじゃなくてもいい。少しずつ、確実にだな」


「そうそう。地道が一番!」


 こうして三人の“冒険の日々”が始まった。



 最初の依頼は、村の畑を荒らすイノシシの討伐だった。

 のんびりとした田園の空気に、リリィが思わず鼻歌を口ずさむ。


「なんか、戦いじゃなくてピクニックみたいだね!」


「油断するな。イノシシは突進力がある」


「……ガルドの説教タイムきた」


「うるさい」


 草むらの向こうから、低い鳴き声が聞こえた。

 鋭い牙を持った巨大なイノシシが姿を現すと、リリィの笑顔が一瞬で引き締まる。


「来るよ!」


「任せろ!」


 ガルドが真正面から立ちふさがり、斧を構える。

 迅は横に回り込み、リリィが詠唱を始める。


「《ファイア・ショット》!」


 炎の弾丸がイノシシの足元を弾き、突進のタイミングをずらす。

 その一瞬の隙を突いて、ガルドが大斧を振り下ろし、迅が側面から短剣で追撃。


「――よし!」


 巨体が地面に倒れると、三人は無言のまま顔を見合わせた。

 そして、同時に笑い合った。


「前よりずっとスムーズだったね!」


「……お前らのタイミングがわかってきた」


「俺も」


 それは、大きな勝利じゃない。

 でも、確かに“成長”を感じた瞬間だった。



 昼過ぎには、別の依頼――野犬の群れ退治。

 夜には、森の入口のゴブリン掃討。

 三人で息を合わせ、少しずつ戦いが自然になっていく。


「《ファイア・ショット》!」


「おらぁ!」


「今だ、迅!」


 リリィの魔法 → ガルドの力押し → 迅の追撃。


 それがまるで呼吸のように噛み合い始めていた。


 初めて出会ったあの日、ガルドはただの無口で怖い戦士だった。

 でも今は――少しだけ違う。

 戦いの合間に、ほんのわずかだけ口元が緩む瞬間がある。


「なに笑ってんだよ」


「笑ってねぇ」


「笑ってた〜!」


「うるさい」


 そんなやりとりが、戦いの緊張を和らげていく。



 夕方、ギルドに戻ると受付嬢が笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい、三人とも! 今日もたくさん依頼をこなしましたね!」


「へへっ、報酬もいっぱい!」


「調子に乗るな。まだ初級だ」


「も〜ガルドはホント素直じゃないんだから!」


 リリィが笑い、迅もつられて吹き出す。

 その光景を見て、受付嬢が楽しそうに言った。


「最近、三人の名前……ちょっとずつ聞くようになってきましたよ」


「……名前?」


「ええ、“駆け出しの三人組”って」


 リリィが「ふふん」と胸を張り、ガルドは少しだけ顔をそらす。

 迅は小さく息を吐いた。――悪くない気分だった。



 夜の街灯の下、三人は並んで歩いていた。

 リリィは疲れているのに元気いっぱいで、今日の戦いを身振り手振りで語っている。


「ね、あのイノシシの突進、ガルドが止めたとき超かっこよかったよね!」


「うるさい」


「迅もさ、前よりすごく動きよくなったよ!」


「お前がうるさいから集中できるんだよ」


「それ褒めてる? 貶してる?」


「……両方だな」


 夜風が三人の笑い声をさらっていく。

 ほんの数日前まで、迅はこの世界でただ震えていた。

 でも今は――仲間と歩いている。

 その事実が、心の奥をじんわりと温めた。



【経験値を獲得しました】

【レベル:5 → 6】


 目の前に青いウィンドウが浮かび上がる。

 それはいつものシステム表示なのに――なぜか今日は、ちょっとだけ誇らしく感じた。


「……悪くねぇな」


「なにが?」


「いや……なんでもねぇ」


 ガルドのぼそっとした言葉に、リリィが「ふふっ」と笑う。


 迅は空を見上げた。


 二つの月が静かに夜空を照らしている。


 ――“最弱”と呼ばれた少年が、小さな一歩を踏み出した。

 その歩みは、まだ小さいけれど――確かに未来へと続いていた。

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