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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『精霊の声』

森の奥に入るほど、空気がしんと静まり返っていった。


 湿った風が頬を撫で、木々がわずかに揺れている。


 葉の擦れる音と、鳥の声すら止まった不自然な静けさ――これまでの森の入口とはまるで別世界のようだった。


「……嫌な静けさだな」


 ガルドが小さく唸るように呟く。

 大斧を肩に担ぐ姿は、いつもより緊張を帯びていた。

 迅も短剣を握る手に自然と力が入る。


「今日の依頼、ちょっとキツめだもんね……」


 リリィもいつもの明るさを潜め、森の奥を見据える。


 三人が受けたのは初級クエストでも難易度が高く――森の奥で暴走している魔物の群れの討伐だった。



 霧が出始めた頃、迅の耳が何かを捉えた。


「……聞こえるか?」


「え?」


「……うっすら……」


 風に混じって、小さな鳴き声のようなものが聞こえる。

 悲鳴のようで、風のようでもある。不思議な音だった。


「……あっちだ」


 ガルドが顎で示した先、木々の隙間の向こうに黒い影が蠢いていた。

 群れをなす魔獣――ウルフだ。

 ただの狼ではない。闇色に染まった毛並みと赤く光る瞳。普通の魔物よりも凶暴性が高い。


「数は……10体以上」


「多いな」


「……でも、やるしかない!」


 リリィが杖を握りしめる。

 三人の呼吸が、自然と合っていた。



 ガルドが先頭に立ち、斧を構える。

 迅は側面に回り込み、リリィが後方で魔法の詠唱に入る。

 森の奥に低い唸り声が響き渡った。


「来る!」


 先頭のウルフが地を蹴る。素早い。

 ガルドが一歩踏み込み、渾身の力で斧を横薙ぎに振り抜いた。

 金属音と獣の叫び。地面が震える。


「《ファイア・ショット》!」


 リリィの炎弾が夜の森を照らし、二体目のウルフを撃ち落とす。

 迅は正面に割り込んだ個体の懐へ滑り込み、短剣で喉を貫いた。


「いい感じ……っ!」


「まだいるぞ!」


 木々の奥からさらに複数の影が現れる。

 その中心――地面に倒れている“何か”の姿が見えた。


「……人?」


「いや……違う」


 月明かりに照らされ、透き通るような緑髪が光っていた。

 耳の先が羽のように尖り、薄衣が風に揺れている。


「精霊族……?」


 少女だった。風の精霊族と思われるその少女は、傷を負い、倒れたままウルフたちに囲まれている。


「……助けないと!」


「おい迅、勝手に――」


 ガルドの言葉を遮って、迅は走り出していた。

 心臓が高鳴る。身体が勝手に動いた。


 ――あのときと同じだ。自分を犠牲にしても少女を守ろうとした夜と。



「うおおおおっ!」


 迅はウルフの群れの中へ滑り込み、短剣で一体の喉を切り裂く。

 後ろからガルドが援護に入り、重い斧で二体を薙ぎ払う。


「まったく……無茶しやがって!」


「《ファイア・ショット》!」


 リリィの炎が木々の隙間を抜け、群れの中央に炸裂。

 熱と光が一瞬、森を昼のように照らす。


「大丈夫か!」


 迅が少女の前に膝をつく。

 少女はうっすらと瞳を開け、かすかに口を動かした。


「……風が、あなたたちを……呼んでた」


「……?」


 その声は、まるで風のように透き通っていた。



 最後の一体がガルドの斧によって叩き伏せられ、森に静けさが戻る。

 息を切らしながら三人は立ち尽くし、互いに顔を見合わせた。


「……はぁ、きつかった〜!」


「お前が突っ込むからだ」


「うるさい!」


 そんなやり取りをしていると、少女がゆっくりと立ち上がった。

 緑色の髪が風に揺れ、瞳が夜空の光を映す。


「……助けてくれて、ありがとう」


「怪我は?」


「……平気。私は……ルーナ。この森を守る、風の精霊族」


「森を守る……?」


「魔物たちが急に荒れ始めて……抑えきれなかったの」


 その言葉に、迅は静かに手を差し出した。


「だったら、一緒に守ればいい。……俺たちと」


 ルーナは一瞬だけ迷ったあと、細い手でその手を握り返した。

 風が三人のまわりをくるりと巻き込み、柔らかく揺れた。



【パーティーメンバー加入:ルーナ(風の精霊族)】

【レベル:15】


 こうして――森の奥で出会った小さな風は、

 彼らの冒険を大きく変える四人目の仲間となった。

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