『小隊の形』
いつもの朝より、少しだけギルドが賑やかに感じた。
受付のベルが鳴るたびに、人々の笑い声と装備の金属音が交錯する。
迅は掲示板の前に立ちながら、仲間たちの姿を振り返った。
「四人か……なんか、ちょっと本格的っぽくなってきたな」
「ふふっ、ね! “パーティー”って感じがしてきた!」
リリィが嬉しそうに杖をくるくると回す。
その横で、ガルドは腕を組んでそっぽを向きながらも、いつもより少しだけ柔らかい顔をしていた。
そして一歩後ろに立つ、風のように静かな少女――ルーナ。
昨日、森で出会った風の精霊族の少女は、すでに彼らの中に自然と溶け込み始めていた。
「……人間の町って、風の音が多いの。……でも、嫌じゃない」
ルーナがぽつりと呟いた。
それはまるで、仲間に受け入れられた安堵のようにも聞こえた。
ギルドの片隅、丸テーブルに4人が集まる。
今日の目的は、ただ依頼を受けることじゃない――
“パーティーとしての形”を作ることだった。
「えっと……まずはさ、ちゃんと話しといたほうがいいよね」
リリィが椅子に腰をかけながら言う。
迅も頷いて、ゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ、俺から話すよ」
視線が一斉に自分へ集まる。
胸の奥が少しだけ重くなった。
ずっと心のどこかで、仲間に“がっかりされるんじゃないか”って思っていたからだ。
「俺の固有スキルは……《レベルドロップ》って言うんだ」
「……レベルドロップ?」
ガルドが眉をひそめた。
迅は苦笑いを浮かべながら、少し俯いて続けた。
「……自分のレベルを1に戻す。ただ、それだけのスキルだよ。
攻撃力が上がるわけでも、魔法が使えるわけでもない。……正直、何の役にも立たない」
自分でも情けないと思う。
だからこそ、声が少しだけ震えた。
「……でも、それでも今まで、なんとかやってこれた。だから、これからも――頑張る」
一瞬、沈黙が落ちた。
けれど次の瞬間、リリィが小さく笑った。
「……それでも生きてるじゃん!!」
「……役に立たねぇとか言うなよ。今まで一人で生き延びてきたやつが言うセリフじゃねぇ」
ガルドがぶっきらぼうに言い放ち、鼻を鳴らす。
迅の胸の奥で、何かが少しだけ軽くなった気がした。
「……ありがとな」
「じゃあ次、私ね!」
空気を和ませるように、リリィが元気よく手を挙げた。
「私は炎属性の魔法使い! 今使えるのは《ファイア・ショット》と《フレイムバースト》。
近づかれるとちょっと弱いけど、そのぶん火力で全部燃やしちゃうからね!」
「……派手すぎる」
「ガルド、そういうのいいの!」
軽口の応酬に、ルーナがふっと微笑む。
この空気がすでに、“チーム”らしくなってきていた。
「……俺の番か」
ガルドは腕を組んだまま、低い声で言った。
「固有スキルは《獣化解放》。発動中は攻撃力と反応が上がる。ただ、長く使うと体に負担がくる。
だからここぞって時しか使わねぇ」
「かっこいいじゃん! ……ちょっとだけ羨ましい」
「羨ましがるようなもんじゃねぇよ」
照れ隠しのように顔を背けるガルドを見て、リリィと迅が小さく笑った。
「……じゃあ、私」
ルーナが静かに口を開いた。
淡い緑の髪が、窓から流れ込む風にそよぐ。
「私は、風の精霊族。固有スキルは《風渡り》。
風を操って移動を助けたり、敵の位置を探ったりできる。……あと、少しだけ、回復もできる」
「回復!?」
リリィが身を乗り出した。
「うん。《風癒》っていう小さな魔法。……大きな怪我は無理だけど、少しなら治せる」
「それ……めっちゃ助かる!」
リリィがぱっと笑顔になる。
迅も素直に心の底から「ありがたい」と思った。
これで、戦える形が見えてくる。
午後、4人はギルドの外れにある小さな森へ向かっていた。
目的は、実戦での連携練習。
中級クエストに挑む前の、いわば“チームの初陣”だ。
「ガルドは前衛。俺は側面を狙う。リリィが後衛で火力、ルーナがサポートと回復」
「了解」
「おっけー!」
木々の間から、三体のゴブリンが現れる。
いつもなら余裕の相手だが――今回は全員が“連携”を意識していた。
「行くぞ!」
ガルドが斧を構え、正面から突撃。
迅がその動きに合わせて横から滑り込み、喉元を狙う。
リリィが背後のゴブリンを炎弾で吹き飛ばし、ルーナの風が迅の足を軽く押し上げるように動きを補助する。
「《風癒》」
迅の腕にできた小さな傷が、風に撫でられるようにして消えていく。
「……すげぇな」
「ね! これなら余裕だよ!」
「……悪くねぇ」
戦闘は短く、しかし驚くほどスムーズだった。
お互いのスキルと役割が、自然に噛み合い始めている。
「これが……小隊ってやつか」
迅が呟くと、ルーナが柔らかく笑った。
「風はね、みんなで吹けば……嵐になるの」
「……詩人かよ」
「いいじゃん、かっこいいし!」
リリィの明るい声が森に響き、4人の笑いが混ざり合った。
ほんの少し前までは、迅は一人きりだった。
でも今は――背中を預けられる仲間がいる。
それは、彼らが“本当の冒険者チーム”になるための――最初の一歩だった。




