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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『小隊の形』

いつもの朝より、少しだけギルドが賑やかに感じた。


 受付のベルが鳴るたびに、人々の笑い声と装備の金属音が交錯する。

 迅は掲示板の前に立ちながら、仲間たちの姿を振り返った。


「四人か……なんか、ちょっと本格的っぽくなってきたな」


「ふふっ、ね! “パーティー”って感じがしてきた!」


 リリィが嬉しそうに杖をくるくると回す。


 その横で、ガルドは腕を組んでそっぽを向きながらも、いつもより少しだけ柔らかい顔をしていた。


 そして一歩後ろに立つ、風のように静かな少女――ルーナ。


 昨日、森で出会った風の精霊族の少女は、すでに彼らの中に自然と溶け込み始めていた。


「……人間の町って、風の音が多いの。……でも、嫌じゃない」


 ルーナがぽつりと呟いた。


 それはまるで、仲間に受け入れられた安堵のようにも聞こえた。



 ギルドの片隅、丸テーブルに4人が集まる。


 今日の目的は、ただ依頼を受けることじゃない――


 “パーティーとしての形”を作ることだった。


「えっと……まずはさ、ちゃんと話しといたほうがいいよね」


 リリィが椅子に腰をかけながら言う。


 迅も頷いて、ゆっくりと口を開いた。


「……じゃあ、俺から話すよ」


 視線が一斉に自分へ集まる。

 胸の奥が少しだけ重くなった。


 ずっと心のどこかで、仲間に“がっかりされるんじゃないか”って思っていたからだ。


「俺の固有スキルは……《レベルドロップ》って言うんだ」


「……レベルドロップ?」


 ガルドが眉をひそめた。


 迅は苦笑いを浮かべながら、少し俯いて続けた。


「……自分のレベルを1に戻す。ただ、それだけのスキルだよ。

 攻撃力が上がるわけでも、魔法が使えるわけでもない。……正直、何の役にも立たない」


 自分でも情けないと思う。

 だからこそ、声が少しだけ震えた。


「……でも、それでも今まで、なんとかやってこれた。だから、これからも――頑張る」


 一瞬、沈黙が落ちた。

 けれど次の瞬間、リリィが小さく笑った。


「……それでも生きてるじゃん!!」


「……役に立たねぇとか言うなよ。今まで一人で生き延びてきたやつが言うセリフじゃねぇ」


 ガルドがぶっきらぼうに言い放ち、鼻を鳴らす。

 迅の胸の奥で、何かが少しだけ軽くなった気がした。


「……ありがとな」



「じゃあ次、私ね!」


 空気を和ませるように、リリィが元気よく手を挙げた。


「私は炎属性の魔法使い! 今使えるのは《ファイア・ショット》と《フレイムバースト》。

 近づかれるとちょっと弱いけど、そのぶん火力で全部燃やしちゃうからね!」


「……派手すぎる」


「ガルド、そういうのいいの!」


 軽口の応酬に、ルーナがふっと微笑む。

 この空気がすでに、“チーム”らしくなってきていた。



「……俺の番か」


 ガルドは腕を組んだまま、低い声で言った。


「固有スキルは《獣化解放》。発動中は攻撃力と反応が上がる。ただ、長く使うと体に負担がくる。

 だからここぞって時しか使わねぇ」


「かっこいいじゃん! ……ちょっとだけ羨ましい」


「羨ましがるようなもんじゃねぇよ」


 照れ隠しのように顔を背けるガルドを見て、リリィと迅が小さく笑った。



「……じゃあ、私」


 ルーナが静かに口を開いた。

 淡い緑の髪が、窓から流れ込む風にそよぐ。


「私は、風の精霊族。固有スキルは《風渡り》。

 風を操って移動を助けたり、敵の位置を探ったりできる。……あと、少しだけ、回復もできる」


「回復!?」

 リリィが身を乗り出した。


「うん。《風癒》っていう小さな魔法。……大きな怪我は無理だけど、少しなら治せる」


「それ……めっちゃ助かる!」


 リリィがぱっと笑顔になる。

 迅も素直に心の底から「ありがたい」と思った。

 これで、戦える形が見えてくる。



 午後、4人はギルドの外れにある小さな森へ向かっていた。

 目的は、実戦での連携練習。

 中級クエストに挑む前の、いわば“チームの初陣”だ。


「ガルドは前衛。俺は側面を狙う。リリィが後衛で火力、ルーナがサポートと回復」


「了解」


「おっけー!」


 木々の間から、三体のゴブリンが現れる。

 いつもなら余裕の相手だが――今回は全員が“連携”を意識していた。


「行くぞ!」


 ガルドが斧を構え、正面から突撃。


 迅がその動きに合わせて横から滑り込み、喉元を狙う。

 リリィが背後のゴブリンを炎弾で吹き飛ばし、ルーナの風が迅の足を軽く押し上げるように動きを補助する。


「《風癒》」


 迅の腕にできた小さな傷が、風に撫でられるようにして消えていく。


「……すげぇな」


「ね! これなら余裕だよ!」


「……悪くねぇ」


 戦闘は短く、しかし驚くほどスムーズだった。

 お互いのスキルと役割が、自然に噛み合い始めている。



「これが……小隊ってやつか」


 迅が呟くと、ルーナが柔らかく笑った。


「風はね、みんなで吹けば……嵐になるの」


「……詩人かよ」


「いいじゃん、かっこいいし!」


 リリィの明るい声が森に響き、4人の笑いが混ざり合った。

 ほんの少し前までは、迅は一人きりだった。

 でも今は――背中を預けられる仲間がいる。



 それは、彼らが“本当の冒険者チーム”になるための――最初の一歩だった。

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