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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『王の盾』


王の間へ続く回廊は、異様な静けさに沈んでいた。


戦闘は、すでに終わっている。

近衛騎士団は退き、道は開かれている。


それでも――

誰一人として、足を進められなかった。


「……いる」


空気が、重い。

呼吸をするたび、胸の奥が押し潰されるような感覚。


何かが前方に“在る”。


姿は見えない。

音もない。

だが、そこに近づいてはいけないと、身体が理解していた。


「……剣が、重い」


兵の一人が呟き、無意識に柄を握り直す。


恐怖だ。

理由の分からない恐怖ではない。


理解できないほど強いものに直面した時の、本能的な拒絶。


回廊の奥。

影の中から、ゆっくりと一人の男が姿を現した。


黒鉄の鎧。

装飾のない直剣。

隙のない立ち姿。


ただ立っているだけで、

この場の空気が完全に支配される。


「……王国最強騎士」


誰かが、掠れた声で呟いた。


男は止まったまま、口を開く。


「ここから先は、通さない」


低く、静かな声。


怒気も、威圧もない。

だからこそ、逆らう余地がない。


「殿下」


男の視線が、アレクに向く。


「これ以上進めば、あなたは王に刃を向けることになる」


アレクは、一歩踏み出そうとして――止まった。


(……違う)


剣の問題ではない。

覚悟の問題でもない。


ここは、自分の立つ場所ではない。


「……ヴァルグリム・エル=レオニス」


アレクが言う。


その名に、王子軍が息を呑む。


建国以来、ただ一人。

王城最奥を守り続けてきた存在。


「父の命か」


アレクが問う。


「王の意思だ」


ヴァルグリムは即答した。


「王は、この国の秩序」


「秩序を守ることが、民を守ることだ」


その言葉に、揺らぎはない。


(……完全に、信じ切っている)


アレクは理解した。


この男は、疑わなかった。

疑わないことを、強さに変えてきた。


王子軍では――止められない。


アレクは、静かに息を吐いた。


「……迅」


それだけで、伝わった。


迅は、すでに前に出ている。


「ここは、俺が行く」


短い言葉。


アレクは、何も言わずに一歩下がる。


「……頼む」


迅は、剣を抜いた。


ヴァルグリムは、初めて迅を正面から見る。


「お前は、王子ではない」

「軍を率いる者でもない」


迅は答えない。


「なぜ……ここに立っている」


「お前は、この国の人間ではない」


ヴァルグリムは続ける。


「それでも――

 この場所に立つ理由があるのか?」


迅は、剣を構える。


殺気はない。


「あるべき姿に戻すだけだ」


迅は言う。


ヴァルグリムは、静かに剣を抜いた。


次の瞬間――

ヴァルグリムが踏み込む。


重い。


迅の腕が、軋む。


力だけではない。

重ねてきた年月、選び続けた信念、そのすべてが剣に乗っている。


「……なるほど」


ヴァルグリムが言う。


「お前は、揺れていない」


迅は、正面から押し返さない。


力を流す。

角度を変える。

正面衝突を避ける。


数合。


まだ、決着はつかない。


ヴァルグリムは、わずかに息を整えながら言った。


「ならば来い」

「ここを越えられるかどうか――

 それが、お前の“選択”だ」


迅は答えない。


だが、剣の軌道が、明確に変わる。


王の間の扉が、背後で重く軋む。


お互いの想いをかけて。

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