『王城内部戦』
王城の内部は、異様な静けさに包まれていた。
外で響いていた剣戟や怒号は、分厚い石壁に遮られ、
ここには重く冷たい空気だけが残っている。
「……進むぞ」
アレクの声が、長い回廊に反響した。
王子軍は足並みを揃え、慎重に前進する。
城門を越えたからといって、勝利ではない。
むしろ――ここからが、本当の意味での戦いだった。
迅は一歩後ろから周囲を観察していた。
天井、柱、分岐路。
すべてが防衛を前提に作られている。
フォルが低く唸る。
耳が、空気の変化を捉えている。
その直後だった。
白い法衣に身を包んだ神殿兵が、回廊の先に現れる。
複数。
詠唱陣が同時に展開された。
「神の裁きを、反逆者に――!」
光が集束する。
「下がって!」
ルシェラが叫び、前に出た。
同時に、彼女は片膝をつき、手を地面に叩きつける。
「——《黒障壁》」
轟音。
衝撃。
厚い障壁が全ての攻撃を防ぐ。
「……防がれた!?」
神殿兵が動揺する。
「神の術式を……!」
「神じゃない」
ルシェラは息を整えながら、立ち上がる。
「あなたたちが使っているのは、
恐怖で歪められた魔法よ」
彼女は片手を掲げ、指先に闇の魔力を集中させる。
「——《対魔干渉》」
術式の核を狙い、魔力を流し込む。
神殿兵の詠唱陣が、音を立てて崩壊した。
「……くっ!」
迅が、その隙を逃さない。
一気に踏み込み、関節を打つ。
急所は外す。
致命には至らせない。
「制圧完了」
アレクは一度だけルシェラを見る。
(……無理はさせられない)
「進むぞ!」
アレクは声を張り、前進を命じた。
回廊を抜けると、広い広間に出た。
そこに待っていたのは、
王直属の部隊。
重装甲。
統率された陣形。
一切の迷いがない。
「これより先は、通さない」
隊長格の騎士が剣を構える。
「殿下であろうと、
反逆者は反逆者だ」
アレクは剣を抜いた。
「ならば、通してもらう」
次の瞬間、激突。
鋼と鋼がぶつかり合う。
王直属の部隊は強い。
一人一人が精鋭だ。
アレクは最前線に立ち、剣を振るう。
「前列、交代!」
「無理に押すな、隊形を維持しろ!」
指揮と戦闘を同時にこなす。
肩に斬撃を受け、血が滲む。
それでも――退かない。
「……なぜ、そこまで」
敵の騎士が叫ぶ。
「なぜ、王に逆らうのです!」
アレクは剣を受け止め、押し返す。
息を吐き、踏み込む。
「民を守るためだ!」
後方では、ルシェラが民間人を庇っていた。
逃げ遅れた使用人。
震える文官。
彼女は両腕を広げ、再び障壁を展開する。
「——《黒障壁》」
飛んでくる流れ弾、魔法の余波。
すべてを受け止める。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟き、
それでも、決して下がらない。
誰かが、震えた声で言った。
「……悪魔族が……守ってる」
その言葉は、恐怖ではなく、
戸惑いに近かった。
戦いは、膠着する。
王直属の部隊は崩れない。
だが、押し切ることもできない。
その均衡を見極め、
迅が動いた。
側面。
隊列の要となっている騎士へ。
一瞬の踏み込み。
剣を絡め、武器を弾き落とす。
殺さない。
だが、戦線からは確実に排除する。
アレクが、その前に立った。
「——進め!」
王子軍が一気に押し出す。
王直属の部隊は、後退を選ばざるを得なかった。
「……下がれ」
隊長が、苦渋の決断を下す。
「これ以上、血を流すな」
道が、開く。
最後の回廊。
空気が、変わる。
重圧。
威圧。
理屈では説明できない存在感。
フォルが、喉を鳴らす。
迅が静かに息を吸う。
「……いる」
アレクは、剣を握り直した。
疲労。
痛み。
だが、心は折れていない。
「……進む」




