『城門攻防』
王城は、沈黙していた。
厚い城壁。
巨大な城門。
その上に並ぶ、王軍と神殿の兵。
ここは王都の中心であり、
この国の“意思”が集約される場所だ。
「……来たな」
アレクは、城門前の広場に立っていた。
背後には王子軍。
数は決して多くない。
だが、誰一人として目を逸らしていない。
王城側では、神殿の旗と王軍の紋章が並び立つ。
それ自体が、威圧だった。
「ここを越えれば、もう戻れない」
近衛師団長が、低く言う。
「分かっている」
アレクは答える。
「だから、ここで止まるわけにはいかない」
城壁の上から、声が響いた。
「王命である!」
王軍の指揮官だ。
「王城に近づくことは許されない!」
「これ以上進めば――反逆とみなす!」
神殿の神官が、続ける。
「神の名の下に、ここで止まれ」
「王は、秩序だ」
その言葉に、アレクは一歩前に出た。
「秩序とは、民を守ることだ」
静かな声。
だが、確実に届く。
「恐怖で縛るものを、秩序とは呼ばない」
ざわめきが起きる。
城壁の上の兵たちの視線が、揺れた。
最初に動いたのは、王軍だった。
盾の列が前に出る。
弓兵が構える。
神殿側の魔導陣が淡く光る。
「来るぞ!」
王子軍が身構える。
「前進!」
王軍が押し寄せる。
――激突。
盾がぶつかり、
剣が交差し、
城門前の空気が、一気に張り詰めた。
アレクは前線に立つ。
剣を振るう。
だが、狙いは常に“止める”こと。
「押し返せ!」
「囲め!」
「殺すな、制圧だ!」
その声は、戦場を貫いた。
「……なぜ、退かない」
王軍の兵が、息を切らして呟く。
アレクは答えない。
代わりに、さらに一歩前へ出る。
退かない。
引かない。
それ自体が、答えだった。
神殿側が動く。
詠唱。
空気が歪む。
「神の裁きを――」
「させない」
同時に、彼女は片膝をつき、手を地面に叩きつける。
「——《黒障壁・展開》」
闇色の魔力が広がり、半球状の障壁を形成する。
直後、神殿兵の魔法が叩きつけられた。
「……通さない」
神官が息を呑む。
「悪魔族……!」
迅は、城門を見ていた。
正面突破は無理だ。
だが――
「……今だ」
彼は、横の通路へ動いた。
王城へ物資を運ぶための小門。
守りは薄いが、要所だ。
迅は一気に踏み込む。
剣を抜く。
一閃。
門番が倒れる。
命は奪わない。
「開け」
低い声。
仲間が、内側から城門の機構へ取り付く。
これは、“道を作る”一手だ。
城門前では、膠着が続いていた。
王軍は押し切れず、
王子軍は引かない。
城壁の上の兵たちは、
下を見下ろしながら、迷っている。
「……王子が、退かない」
「民を守るって……」
言葉にならない声が、広がる。
その時――
重い音が響いた。
城門の内側で、機構が動く。
「……門が」
誰かが呟く。
軋む音。
ゆっくりと、しかし確実に、
王城の城門が、開き始めた。
「なっ……!」
王軍の指揮官が叫ぶ。
「止めろ!」
「門を閉じろ!」
だが、もう遅い。
アレクは、その光景を見て、
一歩、前に出た。
「行くぞ」
声は、落ち着いている。
「城へ」
王子軍が、動く。
王軍の列が、割れる。
完全な敗走ではない。
だが、道を塞げなくなった。
城門の前。
アレクは、一度だけ振り返った。
そこには、市民の姿があった。
遠くから。
怯えながら。
だが、確かに――見ている。
「……俺は」
アレクは、城門へ向き直る。
「逃げない」
「ここで、止まらない」
城門は、完全に開いた。
それは、勝利ではない。
通行許可でもない。
アレクは、城内へ足を踏み入れる。
王城への道は、開かれた。
それは、剣でこじ開けた道ではない。
退かない意志が、開いた道だった。
迅は、後方で剣を収める。
ルシェラは、城門を見上げ、静かに呟く。
「……人は、こうやって前に進むのね」
フォルが、低く唸る。
次の障壁。
次の意思。
城門の向こうで、
王は、待っている。




