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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『王子軍、蜂起』

王都の朝は、重かった。


雲一つない空。

澄んだ空気。

だが、人々の足取りは遅い。


昨日から、王都各地で兵の数が増えている。

巡回は倍。

検問は増設。

神殿の鐘は、いつもより短い間隔で鳴っていた。


――締め付けが、始まっている。


「……時間切れだな」


アレクは、城壁近くの高台から王都を見下ろしていた。

その背後には、彼の近衛師団。

王直属ではない、アレク個人に忠義を誓った兵たち。


誰も声を出さない。

だが、迷いはもうない。


「父は、粛清を選んだ」


アレクの声は、低く、しかしよく通る。


「命令に疑問を持つ者」

「躊躇する者」

「考える者」


「……すべてを、排除しようとしている」


兵の一人が、拳を握る。


「なら、もう裏では守れない」


アレクは振り返った。


「だから――表に出る」


外套を脱ぐ。

王家の紋章が、陽光を受けて輝いた。


ざわり、と兵たちの間に空気が走る。


「俺は、アレク・レイフォード」

「聖王国第一王子だ」


その宣言は、剣よりも重い。


「今日、この場から」

「俺は王に刃を向ける」


沈黙。

だが、誰一人として膝を折らない。


「これは反逆だ」

「命を懸けることになる」


アレクは、兵一人ひとりを見る。


「それでも来る者だけ、残れ」


誰も、動かなかった。


近衛師団長が、一歩前に出る。


「殿下」

「我々は、すでに覚悟を決めています」


「王ではなく」

「あなたの背中を、守ると」


アレクは、深く息を吸った。


「……ありがとう」


それだけで、十分だった。


王都正門。


朝の光の中で、兵の隊列が動く。


王軍。

数は多い。

装備も整っている。


対するのは、王子軍。

数は劣る。

だが、動きに迷いがない。


門前に立つ王軍指揮官が、声を張り上げた。


「前進を止めよ!」

「王命により――」


「王命は、ここまでだ」


アレクが前に出る。


紋章を掲げ、名を名乗る。


「この軍は、俺が率いる」

「これ以上、民を殺させない」


王軍の列が、揺れる。


「……殿下?」

「なぜ……」


戸惑い。

躊躇。

だが、命令は命令だ。


「退け!」


指揮官が叫ぶ。


王軍が、動く。


――衝突。


剣と盾がぶつかり合い、

槍が交差する。


だが、殺気は薄い。


誰も、最初の一撃を致命にしたくない。


アレクは前線に立つ。


「押すな!」

「囲め!」

「倒すな、制圧だ!」


その声は、確かに指揮だった。


迅は、後方に立っていた。


剣に手をかけるが、抜かない。


(……今じゃない)


彼が出れば、均衡は一気に崩れる。

それは、まだ早い。


ルシェラは、市民の側に立つ。


戦場から外れた路地。

逃げ遅れた人々の前に、静かに立つ。


剣を振るわず、

威圧もせず、

ただ、ただ静かに立つ。



戦いは、拮抗していた。


王軍は数で押すが、

王子軍は連携で崩さない。


やがて、王軍の一角が動きを止める。


「……待て」


一人の兵が、剣を下ろした。


「相手は、王子だ」

「民を守ると言っている」


別の兵が、歯を食いしばる。


「だが、命令は――」


「命令が、正しいとは限らない」


その言葉が、裂け目を広げる。


王軍の指揮官が、叫ぶ。


「惑わされるな!」

「王に逆らう者は――」


「……誰が、王を裏切っている」


アレクの声が、戦場に響く。


「民を縛り、声を奪い」

「疑問を持つ者を消す」


「それが、王のやり方だ」


沈黙。


誰も、即座に否定できない。


戦場の端で、

迅はフォルの様子を見た。


耳が立ち、

牙を見せ、

低く唸っている。



アレクは、剣を構えたまま、叫ぶ。


「今日は、ここまでだ!」


王軍も、王子軍も、動きを止める。


だが、もう戻れない。


「この国は――」

「選び直せる」


アレクは、兵にも、市民にも向けて言った。


「俺は、逃げない」

「王子として、前に立つ」


市民は、まだ動かない。

怖いからだ。


だが――

見ている。


それで、十分だった。


王子軍は、旗を掲げた。


それは、戦争の旗ではない。

選択の旗だ。


王都の空に、初めて亀裂が走る。


均衡は、完全に崩れた。

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