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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『守る者の背中』


朝の王都は、いつも通りに動いていた。


市場では商人が声を張り上げ、

巡回兵は規則正しく歩き、

人々は目を伏せながら、それぞれの場所へ向かう。


――何も、起きていないように見える。


だが、中央広場に設けられた簡易の処刑台だけが、

その“日常”から浮いていた。


縄。

柱。

立ち並ぶ兵。


そして、その前に並ばされている数人の市民。


「……公開処刑」


アレクは、群衆の端から処刑台を見つめていた。


罪状は読み上げられていない。

ただ、「反逆の疑い」とだけ告げられた者たち。


ルシェラは黙って、処刑台の周囲を見渡す。

子どもはいない。

だが、家族はいる。


母親が、歯を食いしばり、

老人が、祈るように手を握っている。


守られていない。

誰も。


「……行く」


アレクが言った。


迅が一瞬だけ視線を向ける。


処刑台の前。


執行官が、冷たい声で宣言する。


「王の名の下に――」


「待て」


その声が、広場に響いた。


ざわめき。

兵たちが、一斉に振り向く。


アレクが、群衆を割って前に出る。


外套を脱ぎ、王子の印章を示す。


「その執行を、止めろ」


執行官の顔が引きつる。


「な……殿下?」


兵たちの動きが、止まる。


「これは、正式な命令です」

「王の名において――」


「王の名を出すな」


アレクは、強く言った。


「その言葉で、人を殺すな」


沈黙。


執行官は、声を荒げる。


「殿下、これは王命です!」

「反逆者を見逃せば、秩序が――」


「秩序?」


アレクは一歩、前に出た。


「この国の秩序とは、声を上げた者を縛り首にすることか」


兵たちの視線が揺れる。


その時、執行官が叫んだ。


「王の名に背くのですか!」


その言葉は、刃だった。


兵の一人が、無意識に槍を構える。

だが、次の瞬間――


「動くな」


低く、だがよく通る声。


迅だった。


一歩前に出る。

剣は抜かない。


ただ、存在だけで圧をかける。


「一歩でも前に出れば、全員倒れる」


それは脅しではない。

事実だった。


兵たちが、息を呑む。


ルシェラは、処刑台と市民の間に立つ。


魔力も見せない。

ただ、静かに。


「……この先に行かせない」


その一言で、空気が変わる。


兵たちは理解した。

ここから先は、“民間人を巻き込めない”。


執行官が、震える声で言う。


「殿下……これは、命令違反です」


「違う」


アレクは、処刑台の前に立つ。


「これは、確認だ」


「この者たちは、本当に罪を犯したのか」


「判定は――」


「神殿の判定だろう」


アレクは遮る。


「だが、俺は聞いていない」

「証拠も、理由も」


執行官は言葉を失う。


兵たちの間に、ざわめきが走る。


アレクは、縄を掴み、

一人目の市民の拘束を解いた。


息を呑む音。


「……殿下!?」


「責任は、俺が取る」


その一言が、広場に落ちる。


二人目。

三人目。


兵の一人が、ついに声を上げた。


「……王に、どう説明するのですか」


アレクは、その兵をまっすぐ見た。


「俺が行く」


「俺の名で、説明する」


それは、

人として前に立つ宣言だった。


兵は、視線を伏せた。


誰も、止めなかった。


解放された市民たちは、

しばらく、状況を理解できずにいた。


やがて、一人が震える声で言う。


「……助かった、のか」


ルシェラが、静かに頷く。


「ええ」

「もう、ここにはいない方がいい」


迅が、素早く周囲を確認する。


「逃げ道は確保した」

「今なら、まだ間に合う」


市民たちは、互いに支え合いながら、

群衆の中へ消えていく。


その背中を、アレクは見送った。


(……これが、最初の一歩)


執行官は、歯を食いしばりながら言う。


「殿下……覚悟は、おありですね」


「ある」


短く、はっきりと。


「この国が間違っているなら」

「正すのは、王家の役目だ」


執行官は、何も言えなかった。


広場を離れた後。


細い路地で、三人は足を止める。


アレクは、深く息を吐いた。


「……震えた」


「当然だ」


迅が言う。


「初めてだ」

「“守るために、前に立つ”のは」


ルシェラが、静かに続ける。


「でも、逃げなかった」


アレクは、小さく笑った。


「逃げたら……誰も、守れないからな」


フォルが、尻尾を揺らす。


その仕草が、奇妙に温かかった。


「……見ていたと思う」


迅が言う。


「兵も」

「市民も」


アレクは、王都の方を振り返る。


「なら、いい」


たった一度の行動。

だが、それは確実に残る。


“王の名”よりも強いものがあると、

誰かが、初めて示したのだから。


守られなかった人々は、

今日、初めて守られた。


それは、反乱ではない。

選択の始まりだった。

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