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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『アレクの覚悟』

王都の夜は、昼よりも息苦しかった。


灯りは整えられ、巡回の兵は規則正しく歩いている。

秩序は保たれている。

だが、その秩序の中で、人々は声を潜めていた。


アレクは旅人風の外套を纏い、石畳を歩く。


背後には迅とルシェラがいるが、二人は一歩引いた位置を保っていた。


最初に訪れたのは、王都の奥にある大邸宅。

かつて王家の直近で政を担い、今は表舞台から退いた一族の屋敷だった。


扉を叩くと、白髪の老人が姿を現した。

背は曲がり、年齢は隠せない。

だが、その目はまだ鋭い。


「……どなたかな」


アレクはフードを外す。


「アレク・レイフォードです」


老人の瞳が揺れた。


「……殿下、このような夜更けに」


「今夜は、お話があり来ました」


アレクは一歩前に出ると、その場で深く頭を下げた。


「力を、貸していただきたい」


老人はしばらく言葉を失い、やがて苦く笑った。


「殿下……私はもう、権力も地位も持たぬ老人だ」

「王家に仕えた過去があるだけの、過去の人間だ」


「承知しています」


アレクは顔を上げない。


「ですが、あなたは知っている」

「父が王になる前のこの国も」

「そして、王になってからの変化も」


沈黙が落ちる。


老人はゆっくりと椅子に腰を下ろし、語り始めた。


「……我々は、強い国を作ろうとした」

「混乱を嫌い、迷いを恐れ、決断を急いだ」


視線を窓に向ける。


「だがいつからか、判断の基準が“正しさ”ではなく、“従うかどうか”に変わった」

「それに気づきながら……わしは、黙った」


老人の声が、少し震える。


「王家を守るためだと、自分に言い聞かせてな」


アレクは、まっすぐに言った。


「私は、王家を壊したいわけではありません」

「この国を、未来へ渡したいだけです」


老人は、アレクを見据える。


「……殿下は、父君を止める覚悟がおありか」


「あります」


即答だった。


「殺すつもりはありません」

「ですが、今のやり方は終わらせる」


長い沈黙の後、老人は深く息を吐いた。


「……ようやく、王家の中から声が上がったか」


そして、ゆっくりと頷く。


「わしは前に立てぬ」

「だが、殿下の側に“王家を知る者”がいる意味は大きい」

「知恵と名を貸しましょう」


それは、重い了承だった。


次に向かったのは、神殿の裏手にある小礼拝堂。


煌びやかさはなく、灯りも落とされている。

そこにいたのは、神殿中枢に名を連ねる神官だった。


「……殿下」

「このような場所で会うこと自体、危険です」


「分かっています」


アレクは静かに言った。


「ですが、あなたは今の神殿に疑問を抱いている」


神官の指が、無意識に震えた。


「……判定が、変わりました」

「神の意思ではなく、“都合”で決められるようになった」


唇を噛みしめる。


「異を唱えた者は、配置換えされ、やがて消える」

「神殿は、信仰の場ではなく……恐怖の装置になりつつある」


アレクは、その場で深く頭を下げた。


「それを、止めたい」


神官は、かすれた声で言う。


「それは……神殿への反逆です」


「違います」


アレクは顔を上げる。


「神を、利用する人間への反抗です」


神官は、しばらく黙り込んだ後、問う。


「殿下は、神を信じておられますか」


「信じています」


迷いのない答えだった。


「だからこそ、今の神殿を放置できない」


長い沈黙。

やがて神官は、深く頭を下げた。


「……私にできる範囲で協力します」

「神を、嘘にしたくありません」


それは、恐れを抱えた誓いだった。


最後に訪れたのは、王都外縁の詰所。


アレク率いる近衛師団の団長が、静かに待っていた。


「殿下」


彼は膝をつこうとする。


「やめてくれ」


アレクは制し、代わりに自ら頭を下げた。


「一緒に来てほしい」


団長の目が、わずかに見開かれる。


「王に刃を向けることになる」

「国を敵に回すことになる」


「分かっています」


アレクの声は低い。


「それでも、俺は一人ではできない」


団長は、しばらく黙っていた。

やがて、静かに口を開く。


「殿下」

「私は、殿下が兵を見捨てない人間だと知っています」


一拍置いて、続ける。


「王ではありません」

「あなたに、忠義を誓った」


アレクの喉が詰まる。


「……命を賭けさせることになる」


「それを一人で背負う方が、よほど酷です」


団長は、まっすぐに言った。


「殿下が前に立つなら、我々はともに戦います」


「すまない、苦労をかける」


宿への帰路、迅が言った。


「……逃げなかったな」


アレクは頷く。


「逃げたら、誰もついてこない」


ルシェラは夜空を見上げ、呟く。


「人間は……こうやって、仲間を選ぶのね」


アレクは答えず、前を見据えた。


準備は、整った。


それは策ではない。

覚悟の連なりだった。

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