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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『王子の選択』

剣が収められたあとの沈黙は、戦闘中よりも重かった。


通りの中央。

倒れたままの兵たちは、動かず、声も出さない。

住人たちは遠巻きに様子をうかがい、誰も近づこうとしない。


アレク・レイフォードは、迅の正面に立っていた。


剣は鞘にある。

だが、覚悟は抜き身のままだ。


「……改めて名乗ろう」


彼は一度、背筋を正した。


「アレク・レイフォード。

 聖王国第一王子だ」


その名に、ざわりと空気が揺れる。

だが迅は表情を変えない。


「迅だ」


それだけ。


身分も称号も、今は関係ない。


アレクは一瞬、言葉を探し、

そしてはっきりと言った。


「……謝罪する、申し訳なかった。」


討伐隊の兵が、息を呑む。


「俺は、君たちを試した。

 討伐という名目で、戦いを仕掛けた」


視線が、迅からルシェラへ移る。


「それは……卑怯なやり方だった」


ルシェラは答えない。

だが、視線を逸らしもしない。


アレクは続けた。


「だが、その結果――分かった」


一拍、置く。


「君は、討伐対象ではない」


はっきりとした宣言。


「悪魔族であるかどうかではなく、

 “何をしてきたか”で判断するなら――

 君は、裁かれる側ではない」


ルシェラの指先が、わずかに動いた。


誰かが。

人間が。

自分を“敵ではない”と口にした。


迅は静かに問う。


「それで、終わりか?」


アレクは首を振る。


「終わらない」


その声は、強い。


「……俺は、王子だ。

 聖王国の現実を、知っている」


アレクは通りの両脇を見た。

整えられた表通り。

その向こうにある、貧困と沈黙。


「国王は独裁者だ。

 だが、最初から暴君だったわけじゃない」


迅は黙って聞く。


「恐怖によって秩序を保てば、

 国は壊れないと信じた。

 神殿と結び、善悪を制度にした」


アレクの声に、苦みが混じる。


「……だが、その制度は歪んだ」


神殿は判定を独占し、

権力者はそれを利用し、

民は声を上げる術を失った。


「不満はある。

 だが、反抗すれば“悪”と判定される」


それは、処刑よりも恐ろしい。


「誰も、正義を口にできなくなった」


迅の胸に、街で見た光景が重なる。

声を出さない人々。

諦めた目。


「……王を倒す必要がある」


アレクは、はっきりと言った。


「殺す、という意味じゃない。

 だが――

 今の王を、このままにしておくことはできない」


王子としての言葉ではない。

一人の人間としての決意だ。


「俺一人では、無理だ」


その言葉を、アレクは噛みしめるように言った。


「兵は王に忠誠を誓っている。

 神殿も同じだ。

 正面から刃を向ければ、内乱になる」


迅は、そこで初めて口を開いた。


「……だから、俺たちか」


アレクは頷く。


「あなたは、殺さずに制圧できる。

 善悪を、制度ではなく“本質”で見る」


その目は、真剣だった。


「国を救うには――

 王を“倒す力”が必要だ」


沈黙。


迅はすぐに答えなかった。

軽く頷けばいい話ではない。


国を壊す話だ。

そして、再構築する話だ。


ルシェラは、そのやり取りを静かに見ていた。


自分たちで。

王を。

制度を。

壊す覚悟を、語っている。


外から壊すのではない。

内部から、選択として。


「迅」


ルシェラが、低く呼ぶ。


迅は彼女を見る。


「……この人間は、本気よ」


感情は、まだ少ない。

だが、確信がある。


迅は、アレクに視線を戻した。


「分かった」


短い言葉。


だが、その重みは大きい。


「俺は、王を殺さない。

 だが――

 歪んだものを、元に戻す手助けはする」


アレクの目が、わずかに見開かれる。


「……いいのか」


「簡単な話じゃない」


迅は言う。


「でも、放っておけば、

 また誰かが泣く」


アレクは、深く頭を下げた。


王子としてではない。

一人の人間として。


「……感謝する」


ルシェラは、その姿を見つめていた。


(……人間も)


変われるのかもしれない。


自分たちの手で。

壊す覚悟を持つなら。


フォルが、静かに尻尾を揺らした。

空気が、ほんの少しだけ和らぐ。


――ここから先は、

戦いではない。


選択の話だ。


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