表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/96

『解放の朝』

地下牢に、朝の光が差し込んでいた。


石段の上、崩れた壁の隙間から、

細い光の筋がゆっくりと広がっていく。


それは祈りではなく、裁きでもなく、

ただ“朝が来た”という事実そのものだった。


「……外、明るい……」


誰かが、そう呟いた。


長い夜が終わったのだと、

ようやく実感が追いついた声だった。


迅は鍵の外れた檻を一つずつ開け、

人々を地上へと導いていく。


「慌てなくていい。

 もう、追ってくる者はいない」


その声は穏やかだったが、

地下牢にいた誰もが知っていた。


この青年が、

命を賭して道を切り開いたことを。


人々は外へ出ると、

朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、

膝をつき、泣いた。


「……生きてる……」

「外だ……外の空だ……」


子どもたちは、

最初は恐る恐るだった。


石段を上り、

地上の光を見て、

それでもまだ不安そうに振り返る。


その視線の先に――

ルシェラがいた。


地下牢の入口、

少し離れた場所に立ち、

朝の光を背にして。


銀髪が淡く照らされ、

紫の瞳は静かに伏せられている。


彼女は、

戦いの後も何も語らなかった。


誇ることも、

慰めることも、

自分からはしなかった。


ただ、

そこに立っていた。


「……」


最初に動いたのは、

六歳ほどの小さな男の子だった。


地下牢で、

泣きながらルシェラの背に隠れていた子。


一歩。

また一歩。


周囲の大人たちが息を呑む。


(……悪魔族に近づいて、大丈夫なのか)


そんな迷いが、

ほんの一瞬、空気をよぎる。


だが――


男の子は、

ルシェラの前まで来ると、

ぎゅっと服の裾を掴んだ。


「……あのね」


小さな声。


ルシェラの肩が、わずかに揺れる。


「……ありがとう。

 さっき……守ってくれて……」


ルシェラは、すぐに顔を上げられなかった。


喉の奥に、

言葉にならないものが詰まる。


(……違う)

(私は、たまたま……)


そう言おうとして、

でも――


その後ろから、

別の小さな手が伸びた。


「ぼくも……」

「こわかったけど……だいじょうぶだった……」

「おねえちゃんが、いたから……」


次々と、

子どもたちが集まってくる。


服の裾。

指先。

腕。


抱きつく、というより――縋りつくように。


ルシェラの体が、完全に固まった。


「……ちょ、ちょっと……」


拒もうとして、

拒めない。


振りほどこうとして、

できない。


胸の奥が、

熱くなって、痛くなって、

どうしていいかわからない。


触れられることは“恐怖”だった。

近づかれることは“討伐”の前触れだった。


なのに――


今、

子どもたちは泣きながら、

彼女を信じて抱きついている。


「……っ」


ルシェラの指先が、震えた。


ゆっくりと、

戸惑いながら――


一人の子どもの背中に、

そっと手を置いた。


「……もう、大丈夫よ」


声が、かすれる。


「もう……誰も、連れていかない」


その瞬間だった。


子どもたちの泣き声が、

堰を切ったように大きくなる。


「こわかった……!」

「かえりたかった……!」

「おかあさぁん……!」


大人たちが駆け寄り、

子どもを抱きしめ、

何度も頭を下げる。


「ありがとうございます……!」

「命の恩人です……!」


ルシェラは、

頭を下げられることにも慣れていない。


「……や、やめて。

 私は……」


そこで、

言葉が止まった。


“何でもない”

“偶然”

“通りすがり”


――それを言えば、

この温度を否定してしまう気がした。


迅は少し離れたところで、

その光景を見ていた。


何も言わない。

ただ、静かに。


(……よかったな、ルシェラ)


彼女は、

もう“恐れられる存在”だけではない。


“必要とされた”

その最初の朝だった。


太陽が、

街の屋根を越えて昇る。


光が、

ルシェラと子どもたちを包む。


彼女はまだ、戸惑っている。

まだ、慣れていない。

まだ、自分を信じきれていない。


それでも――


受け取った。


その事実だけで、

この朝は十分だった。


ルシェラは、

小さく息を吐き、

迅の方を見た。


「……ねえ、迅」


「うん」


「……こういうの、

 どうすればいいの?」


迅は少しだけ笑った。


「……今のままで、いい」


ルシェラは、

少しだけ目を細めた。


解放の朝。


涙と、光と、

新しい一歩が、

確かにそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ