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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『神殿の地下牢』

神殿は、街の北端に静かにそびえていた。


白い石で組まれた外壁は一見すると清廉で、

夜の月明かりを受けて静かに輝いている。

だが、その佇まいはどこか“閉じて”いた。


祈りの場であるはずの場所に、

人を拒む空気が漂っている。


フォルが低く喉を鳴らした。


「……ここだな」


迅は小さく頷き、神殿の裏手へと回り込む。


表の門は固く閉ざされ、

兵が巡回している気配があったが、

裏手にはほとんど人影がない。


「地下に続く気配があるわ」


ルシェラが壁に手を当て、静かに言う。

微かだが、魔力の流れが下へ沈んでいる。


迅は短く答えた。


「……行こう」


二人と一匹は、崩れかけた石段を下り、

神殿の地下へと足を踏み入れた。


──空気が、重い。


湿った石の匂い。

かすかな鉄の臭い。

そして……押し殺された、複数の呼吸音。


「……人が、いる」


ルシェラの声が低くなる。


地下牢だった。


細い通路の両側に、

鉄格子の並ぶ小部屋が連なっている。

その中には──


大人。

老人。

そして、子ども。


皆、痩せ細り、怯えた目でこちらを見ていた。


「……神殿が、こんなことを……」


迅の拳が無意識に強く握られる。


一人の男が、鉄格子越しに震える声で話しかけてきた。


「……旅人さん……?

 お願いだ……俺たちは悪くない……

 “判定”で黒寄りだと言われただけなんだ……!」


別の牢から、少女の泣き声が聞こえる。


「お母さん……帰りたい……」


ルシェラは一歩前に出かけて、足を止めた。

目の前の光景が、胸の奥を強く締めつける。


迅は深く息を吸い、静かに言った。


「……一人ずつ、確かめる」


胸元に手を当てる。


淡い光が広がり、

迅のスキルが起動する。


「《善悪判定》──対象、収容者」


最初に視線を向けたのは、

先ほど声をかけてきた中年の男。


光が揺らぎ、情報が流れ込む。


──【判定:悪ではない】

──【本質:家族を守ろうとした結果の衝突/恐怖】


迅の表情が強張る。


「……冤罪だ」


次の牢。

老婆。


──【判定:悪ではない】

──【本質:祈り/喪失/孫への想い】

──【判定理由:近隣住民の告発(根拠なし)】


その隣。

まだ幼い少年。


──【判定:悪ではない】

──【本質:無垢/恐怖/母の記憶】

──【偽装理由:年齢による“将来リスク”】


迅は歯を食いしばった。


「……全部、嘘だ」


次々と判定を重ねるたび、

“悪”と呼ばれた理由が、いかに杜撰で、

いかに人の都合で作られたものかがあらわになる。


「恐れているから」

「不安だから」

「皆がそう言ったから」


それだけで、

人は“悪”にされ、ここに放り込まれていた。


ルシェラは黙って、

檻の中の子どもたちを見つめている。


一人の小さな少年が、

おずおずと彼女を見上げた。


「……おねえちゃん……

 ぼく……悪い子……?」


ルシェラの胸が、きゅっと縮む。


答えられない。

言葉が、喉につかえる。


代わりに迅が、はっきりと言った。


「違う。

 君は悪くない」


少年の目が、大きく見開かれる。


「……ほんと……?」


迅は頷く。


「俺が確かめた。

 君は、悪じゃない」


その瞬間、

少年の目から涙が溢れた。


「……よかった……!」


その泣き声を聞いた瞬間、

ルシェラの中で、何かが小さく震えた。


(……この子たちを……

 このままには、できない……)


地下牢の奥で、

鉄の扉が軋む音が響く。


「誰だ、そこにいるのは」


神殿兵だ。


迅はゆっくりと立ち上がり、

静かに剣の柄に手をかけた。


「……囚われている人たちは、全員冤罪だ。

 ここは、牢獄じゃない」


兵は鼻で笑う。


「神殿の判定に逆らう気か?

 記録に黒とあれば、それが全てだ」


迅は冷たく答えた。


「違う。

 “記録”が嘘をついている」


兵が剣を抜く。


「なら……お前も同罪だ!」


その瞬間、フォルが低く吠え、

通路の奥から足音が増えた。


迅は振り返り、

檻の中の人々を見渡した。


「……必ず、ここから出す。

 全員だ」


その声には、迷いがなかった。


地下牢に、緊張が張り詰める。


闇の底で、

小さな希望の灯が、確かに揺れていた。

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