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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『処刑前の子どもたち』

迅たちは神殿がある街へと向かった。


街へ入った瞬間、空気がよどんでいるのを感じた。


人々は声を潜め、道の端を急ぐように歩き、

誰もが“何か”を恐れている。


風が吹いても埃一つ舞わない、妙な静けさの街だ。


フォルがピクリと耳を立てた。


「フォル、何か聞こえるのか?」


迅が身を屈めて問うと、

フォルは鼻を鳴らし、南の方角をじっと見つめた。


その時──

薄暗い路地から、囁くような声が聞こえてきた。


「……また今日も子どもが連れていかれたらしい」


「神殿の“判定”だろ? 逆らえねえよ」


「でも、あの子が悪いなんて……絶対に……」


人々は不安と諦念を混ぜた顔で通り過ぎる。


迅は眉をひそめ、ルシェラとフォルに目を向けた。


「……ルシェラ、行こう。つかめる手がかりは少しでも拾っておくべきだ」


「……どうせ、また人間の醜い騒ぎでしょう」


言葉とは裏腹に、ルシェラは歩みを止めない。

その瞳は、切れそうで切れない細い糸のように揺れていた。


──街の中心、古ぼけた井戸のそば。


老婆がひっそりと腰掛け、震える声で話してくれた。


「……二ヶ月前からだよ。

 神殿の兵が“悪判定の子どもたち”を次々と連れていくんだ。

 泣き叫んでも、親が抗議しても……誰も助けてくれない」


迅は静かに問う。


「その判定、本当に正しいと思いますか?」


老婆は力なく首を振った。


「……あたしは信じないよ。

 悪事なんてしない子ばかりだった。

 なのに……連れていかれた子は、もう戻らない」


ルシェラの手がわずかに震える。


「……戻らないって、どういう意味?」


老婆は口をつぐんだ。

その沈黙が、何より残酷な答えだった。


フォルが低く唸る。


「フォルが何か感じてる……?」


迅がそっと背中に触れると、

フォルは首を傾げ、街の北側──神殿の方向を向いた。


その目が告げている。


──あそこに“泣いている声”がある。


迅は立ち上がった。


「……行こう、ルシェラ。」


ルシェラは硬い声で答える。


「勝手にすれば。

 ……でも、やるなら最後までやりなさい。中途半端は嫌い」


迅は小さく笑った。


「もちろん」


──歩き出そうとしたその矢先、

背後から小さな影が飛び出してきた。


「待って! お兄ちゃんお姉ちゃん!!」


幼い少女だ。ボロボロのワンピースを着て、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら訴える。


「お願い! 弟を助けて!

 昨日、神殿に連れて行かれたの!!

 悪いことなんて何もしてないのに……!」


少女の手は、震えながら迅の服をつかんでいた。


迅はしゃがみ込み、優しく目線を合わせる。


「弟さんの名前は?」


「ヒバル……まだ六歳なの……」


その瞬間だった。


フォルが少女に近づき、そっと鼻先を少女の手に押し当てる。

泣き声に反応したように。


少女は驚き、だが次の瞬間──ふっと表情が和らいだ。


「……ありがとう、白い狼さん……」


ルシェラはその光景を見て、目をそらした。


少女が顔を上げ、ルシェラを見た。


ほんの一瞬、怯えが走る。

だがすぐに──少女は必死に勇気を振り絞った表情をつくった。


「……お姉ちゃんも、弟を助けてくれるの?」


ルシェラは息を止めた。


自分に“助けを求める眼差し”を向けてくる人間など、

いなかった。


返事ができないルシェラに、迅が静かに言う。


「ルシェラは……優しいよ。

 だからきっと、ヒバルを救ってくれる」


ルシェラの心が揺れる。


胸の奥に、暖かくて、苦しくて、

どうしようもなく切ない何かが広がった。


「……っ、勝手に決めないでよ……」


そう言いながらも、声は震えていた。


迅は立ち上がり、少女の頭に手を置いた。


「大丈夫。必ず助ける。

 神殿がどう言おうと、真実は俺が見つけるから」


少女は涙で光る目で、何度も何度も頷いた。


フォルが吠える。

夜の帳が静かに落ち始める。


迅は剣の柄に手をかけた。


「よし──まずは神殿の場所を探る。

 ルシェラ、フォル、行くぞ」


ルシェラはふわりと銀髪を揺らし、迅の隣に立つ。


「……勝手にすればって言ったでしょう。

 でも……あなたが行くなら、私も行く」


その声は、決意と、わずかな温度を帯びていた。


こうして、

“処刑前の子どもたち”を救うための戦いが幕を開ける。


迅たちは薄闇の街を抜け、

静かに神殿の影へと向かっていった。

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