『小さな足跡、小さな涙』
旅路は乾いた風が吹き抜けていた。
リリィ、ルーナ、ガルド、そしてヴァロス──
四人は迅の行方を追い、
東の街道を進んでいた。
「迅……どこにいるの……?」
リリィが空を見上げる。
心は焦りと不安に揺れていた。
(あの日、迅は……
“悪魔族”と一緒にいた。
でも、理由も告げずに行ってしまって……)
ヴァロスが前を歩きながら言った。
「足跡を追うなら、街を回るのが一番だ。
何か手がかりが掴めるかもしれねぇ」
ガルドが鼻で笑う。
「あいつ、色んな街で人助けでもしてるんじゃねえか……」
ルーナはそっと笑う。
「……放っておけない人よね、迅って」
その言葉に、リリィの胸が少しだけ温かくなった。
────────────────────────────
やがて四人は、
数日前に迅とルシェラが訪れた街に入った。
以前は重たい空気に満ちていた街並みが、
どこか明るくなっていた。
街の人たちが話しているのが聞こえる。
「冤罪の件、解決してよかったな」
「若い旅人が助けてくれたんだって」
「しかも悪魔族の女まで一緒に……?」
ヴァロスの眉がぴくりと動いた。
「……間違いない。迅のことだ」
リリィの鼓動が早くなる。
(やっぱり……迅は人を助けて旅をしている……
悪魔族と一緒でも……“悪いこと”なんてしていない……)
その時、街角で遊んでいた子供が近寄ってきた。
あの少年。
父親の冤罪を晴らしてもらった、あの子だ。
「おねーちゃんたち、旅人さん……?」
「そうだよ!!」
リリィは優しく微笑む。
「少し、聞きたいことがあって。
この街を助けてくれた旅人の話……教えてくれる?」
少年はぱぁっと表情を明るくした。
「うんっ! その人ね、すごかったんだよ!」
少年は勢いよく語り始めた。
「みんながお父さんを悪いって言うのに、
助けてくれたんだ……!
それに……」
少年は崩れた瓦礫の方を見た。
「悪魔族のお姉ちゃん……
最初は怖かったけど……すごく優しかったんだ」
リリィたちは息を呑む。
「あの時ね、瓦礫が落ちてきて……
僕に当たりそうだったの。
そしたら──
“悪魔のお姉ちゃんが、助けてくれた”んだよ!」
ルーナが目を丸くする。
「悪魔族が……人間を守ったの?」
少年は力強くうなずいた。
「うん!
僕……悪者は悪魔族だって、お姉ちゃんにひどいこと言っちゃって……
でも許してくれた!!」
ヴァロスがポツリと言う。
「悪魔族が……そんな行動をするなど……
昔では考えられん。
迅に何か……影響されたのかもしれんな」
リリィは胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
(……悪い存在じゃない?
迅は……そんな人を信じて一緒に旅をしているの?)
ガルドが腕を組む。
「オレさぁ……
あの銀髪の悪魔族、てっきり迅を利用してるのかと思ってたけど……
話を聞く限り、そんな風にも見えねえな」
少年は続ける。
「それにね……旅人のお兄ちゃん……
すっごく優しかった。
僕の涙を拭いてくれて……
“お父さんを信じていい”って言ってくれた」
リリィの目が潤む。
(……やっぱり迅は、変わってない……
むしろ、もっと優しく……もっと強く……)
ヴァロスがリリィの肩に手を置く。
「どうする? リリィ。
迅を“追う”のか、それとも──」
リリィは顔を上げた。
迷いを断ち切るように、強い瞳で言う。
「……追います。
迅は……きっと理由があって、私たちから離れた。
でも、私は信じたい。
どれだけ離れても……迅が悪い人になるはずないって」
ルーナもうなずいた。
「私も行くわ。迅は……仲間だもの」
ガルドも拳を鳴らす。
「へっ、最初からそのつもりだぜ」
ヴァロスは静かに言った。
「……よし。
“迅が残した足跡”を追う旅を続けよう。
あいつはきっと、真っ直ぐ進んでいる」
少年がリリィに小さな花を渡した。
「お姉ちゃん……これ。
旅人のお兄ちゃんにも……渡してあげて。
“ありがとう”を伝えたいの」
リリィはそっとその花を胸に抱いた。
「……うん、必ず渡すね」
こうして──
リリィ隊は再び迅を追う旅へ歩き出した。
その背には、
小さな少年が見送る声が響く。
「旅人のお兄ちゃんやお姉ちゃんに、また会いたいな……!」
その声が風に乗り、東へと流れていった。




