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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『奪われた子供』


盗賊──ではなく、追放された元村人たちとの和解から一夜が明けた。


焚火の煤がまだ空に薄く漂う朝。迅は妙な息苦しさに気づいた。


「……泣き声?」


フォルが耳を立て、東の小屋へ向かって走る。

迅とルシェラもそれを追った。


そこには、大柄な男──盗賊長グラドが、地面に膝をつきながら泣き崩れていた。

普段の豪胆さは影も形もない。


「グラドさん、何が──」


グラドは嗚咽しながら、絞り出すように言った。


「……息子が……神殿の討伐隊に……連れていかれた……!」


迅は息を呑む。

ルシェラの瞳がすっと細くなる。


グラドは拳を地面に叩きつけた。


「あいつら……『盗賊の子は悪だ』なんて勝手に決めつけやがった!

 “黒寄りの判定が出た”と言いやがった。あんなの嘘だ……

 あの子が誰より優しいって俺が一番知ってる!!」


迅はすぐにフォルへ目を向けた。

フォルは鼻を鳴らして東の森を指し示す。


「……まだ近い。追えば間に合う!」


迅は立ち上がり、グラドの肩を叩いた。


「必ず、取り返します。息子さんを信じていてください」


グラドは震える声でうなずいた。


「……頼む……あの子まで失ったら……俺はもう立っていられねぇ……!」


ルシェラは沈黙していた。

しかし、その拳がほんの少しだけ震えているのに迅は気づいた。


────────────────────────────


◆ ◆ ◆ 討伐隊追跡


森は濃い霧に覆われ、視界が悪い。


だがフォルは迷わず先頭を走る。


風に混じる“子どもの涙の匂い”を追っているのだ。


やがて、馬車の軋む音が聞こえた。


討伐隊の一人が馬車の中へ怒鳴りつける。


「黙れ! お前は“悪に育つ芽”だ!

 処分して街の災いを断つ!」


「ちがうっ! 僕、悪くない! 」


子どもの泣き声が森に響いた。

その瞬間、ルシェラの肩がビクリと震える。


(……泣き声……嫌い……)


迅が一歩踏み出し、馬車の前に立った。


「その子を解放してください!」


兵士たちは一斉に剣を抜いた。


「何者だ!?」


「この子は“黒寄りの判定”を受けた!

 神殿の決定に逆らうつもりか!」


迅ははっきりと言った。


「彼は“白”です。悪ではない。

 あなたたちの“思い込み”が判定を濁らせただけです!」


兵士たちの表情が一斉に冷たくなった。


「何を根拠に……?」

「お前の言葉など信じられるものか!」

「そもそも魔族を連れている時点で信用できん!」


当然だ。


迅の判定は他人には見えない。

彼が“本質を見抜く能力”を持つと知る者はいない。


兵士長は怒声を上げた。


「この者ら、討伐対象とみなす! 突撃!」


迅は剣を抜かず前に飛び込んだ。


「やめろ、下がれ!」


兵士の一人が剣を振りかざす。

迅はその腕を掴み、体を回転させて投げる。


「ぐっ……!」


「誰も殺したくない! 退いてください!」


もう一人が背後から斬りかかる。

迅は足を払って転ばせ、腹に軽い打撃を入れて気絶させた。


(殺さずに……動きを止める!)


フォルがすばやく走り、

矢を放とうとした兵士を体当たりで無力化。


迅は次々に襲いかかる兵士を“殺さず落とす”。

それだけで討伐隊は恐怖に飲まれ始めた。


「な、なんだこいつ……本当に人間か!?」


「魔族の加護を受けているに違いない!!」


そのとき。


一人の兵士が少年に剣を向けた。


少年の泣き声が上がった。


「たすけて……っ! !」


ルシェラの瞳が揺れる。


(……やめて……)


バンッ!!


馬車の上に落雷のような衝撃が走った。

ルシェラが放った、極限まで抑えた“威圧”。

誰も傷つけていない。だが足がすくむほどの圧力。


討伐隊が一斉に青ざめた。


「ひっ……! 悪魔族が……!」


「こ、殺される……!」


兵士長だけが叫ぶ。


「退くぞ! 整わぬままでは勝てん!」


討伐隊は総崩れとなり、森の奥へ撤退した。


迅はすぐに馬車の籠を壊し、少年を抱き上げる。


「もう大丈夫だ。怖かったな……!」


少年は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら迅にしがみついた。


「お父さんに……会いたい……っ」


その言葉に、ルシェラの胸がズキリと痛んだ。

かつて自分が叫び続けた願いと同じだったから。


(……会いたい……

 なのに私は……誰にも会えなかった……)


迅はその表情の変化を見逃さなかった。

だが何も言わず、少年の手をそっと握る。


────────────────────────────


◆ ◆ ◆ グラドのもとへ還る


集落に戻ると、グラドは傷だらけの体で立ち上がった。


「……息子……息子は……!」


迅は少年をゆっくりと前に出した。


「父ちゃん……!」


「う……うおおおおおおお!!」


抱きしめ合う音が焚火のはぜる音より大きかった。


村人たちも涙ぐむ。


「よかった……!」

「生きてた……!」


ルシェラは少し離れた場所で、その景色を見つめていた。

少年が泣くたび胸が締めつけられる。


迅が隣に立つ。


「怒ったんだね。子どもが泣くの見て」


ルシェラはそっぽを向き、髪を払った。


「べつに。

 ただ……泣く声が……嫌いなだけよ。昔から」


フォルがそっとルシェラの手に鼻先を寄せた。

その温かさに、ルシェラはほんの少しだけ肩の力を抜いた。


「……もういいわ。戻りましょう、迅」


少年は遠くからルシェラに頭を下げた。


「ありがとう……悪魔のお姉ちゃん……」


ルシェラはふっと目を細めた。


迅は静かに呟いた。


「ルシェラ……君は、優しいよ」


ルシェラは答えなかった。

ただ、夕陽に照らされた瞳が少しだけ柔らかくなっていた。

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