『反逆の盗賊長』
冤罪を解決した迅たちは、次の街に向かって歩みを進めていた。
険しい岩山を抜けた先に、
風の流れが急に変わった。
フォルが耳を立て、低く唸る。
「……敵の気配?」
迅が剣に手を添えると──
矢が一本、地面に突き刺さった。
「動くな!」
岩陰から十数人の盗賊が現れる。
皆ボロ布のような鎧を纏い、傷だらけの顔。
だが、その目には妙な光があった。
「旅人か……悪いが、この先は通さねぇ。命が惜しいなら戻れ」
ルシェラは冷たい声で言い返した。
「盗賊風情が道を塞ぐつもり?
邪魔なら払うわよ」
殺気が走る──はずだった。
しかし、その刹那。
フォルが突然前に出て、
低く、だが敵意のない唸り声を放った。
盗賊たちがざわめく。
盗賊の中心にいる大柄な男が一歩前へ。
「……来た道を戻るなら危害を加えるつもりはない。」
褐色の肌、鋭い眼光。
腕には何重もの傷跡。
“悪党の風貌”としては申し分ない。
だが迅は違和感を覚えた。
(……この男、嘘の匂いがしない)
盗賊長の男はじっと迅を見据えた。
「お前たち。……何しにここへ来た?」
迅は素直に答えた。
「通りすがりだよ。
ただ、困ってる人がいれば助けたいだけだ」
盗賊たちは嘲笑した。
「はっ! 嘘をつくな!」
「どうせ俺たちを討伐しに来たんだろ?」
だが盗賊長だけは笑わなかった。
「……その言葉、嘘じゃねぇな」
迅は静かに歩み寄り、盗賊長の目を見つめる。
「あなた……“善”ですね」
盗賊たち全員が凍りついた。
盗賊長は驚きに目を見開く。
「……何?」
「あんたの目は人を護ってる目だよ。
それに、この山道には罠が多かったけど、
“人を殺す罠”は一つもなかった」
盗賊長は息を吐いた。
「……チッ、見抜く奴がいるとはな」
ルシェラが前に出て言う。
「どういうこと?
あなた達は街道を荒らす“盗賊”ではないの?。」
盗賊長は苦い表情で岩に腰を下ろした。
「……俺たちは盗賊じゃねぇよ。
昔は村人だった。
だが神殿の“神判定”で村長が悪扱いされて、村全体が危険視されたんだ」
迅は息を呑む。
「……神判定……」
盗賊長は悔しそうに拳を握った。
「俺たちは追放され、住む場所も食料も奪われた。
生きるために“盗賊のフリ”をするしかなかっただけだ」
ルシェラは眉を寄せる。
「じゃあ……嘘で塗り固められた“偽の悪”ってわけね」
盗賊長はルシェラの方を見た。
「お前は……魔族か?
本当に悪いのは“恐怖した連中の方”じゃねぇのかって思う時もある」
その言葉にルシェラの瞳が揺れた。
(……魔族だから悪い、と言われ続けてきた自分と同じ)
迅は盗賊長へ歩み寄った。
「あなたたちを救いたい。
誤解を解いて、元の生活に戻れるように」
盗賊長は鼻で笑った。
「……馬鹿な奴だな。
そんな簡単に戻れるわけねぇだろ」
迅は微笑んだ。
「簡単じゃなくても、やってみる価値はあるよ」
盗賊長の顔に、しばらく消えていた“人の色”が戻った。
「……名前を聞いておこうか、旅の青年」
「迅。そして──」
ルシェラとフォルを振り返る。
「ルシェラとフォルだ。」
盗賊長は立ち上がり、手を差し出した。
「俺はグラド。
盗賊“長”なんて呼ばれてるが、
ただの不器用な村の兄貴分だ」
迅はその手をしっかり握った。
「よろしく、グラドさん」
ルシェラは腕を組んだまま、呟く。
「……悪に見えても事情がある、か。
人間は本当に面倒ね」
フォルがワン、と鳴く。
その声は、まるで──
“それでも信じてもいいんだよ”
と言っているようだった。




