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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『罪のない罪人』


街に入った瞬間、迅は違和感を抱いた。


「……空気が重いな。まるで、誰もが誰かを疑ってるようだ」


通りを歩く人々は互いに目を合わせず、

噂話だけが異様に大きく響いている。


「“悪人が増えた”んだとさ……」

「いや、あいつが怪しいって噂だぞ」

「私もそう聞いたわ。だったら間違いないよね」


根拠は薄い。


それでも“みんなが言うから” というだけで、

誰かが悪と決まっていく。


ルシェラは眉をひそめた。


「……愚かね。

 自分の頭で考えずに、他人の言葉で罪を決めるなんて」


フォルが低く唸る。

この街全体に漂う“猜疑と恐怖”の匂いが気に障っているのだろう。


そのとき、衛兵が叫んだ。


「犯人を連れてこい!」


群衆が一斉にざわつく。

広場へ引き立てられる男がいた。


粗末な服、痩せた体。

恐怖で震える青年だった。


「ち、違うんだ……俺はやってない! 本当だ!」


だが誰も耳を貸さない。


「決まってるだろ? 最近この街で噂されてた“怪しい男”ってこいつだ」

「この前も怪しい動きをしていたって話だしな」


迅はその言葉にピクリと反応した。


そこへ衛兵が大声で宣告する。


「盗品の隠匿、および暴行の罪!

 処罰は明朝に決定する!」


ルシェラは低い声で呟いた。


「……あれだけの人間が『罪だ』と言えば、罪になる。

 神の光より、人の影のほうが強い場合もあるのね」


迅は青年を見つめ、ゆっくり歩み寄った。


「少しだけ、話を聞かせてくれないか?」


青年は怯えた目を向ける。


「た、助けてくれるのか……?

 でも、俺を信じたって……あなたまで疑われる……」


「平気だよ」


迅は穏やかに言う。


「俺は誰かの噂じゃなく、“君自身”を見に来たんだ」


その言葉に、かすかに青年の瞳がうるんだ。


フォルもそっと青年の手を舐める。

人間を見抜く力がある彼は、すでに“白”だとわかっているのだ。


迅は青年の目を真正面から見た。


「《善悪判定》」


微かな光が青年の胸元に宿る。

迅の感じ取った“本質”は──


「……君は“冤罪”だ、君は盗品の隠匿に関わっていない」


青年が泣き崩れた。


「……俺何もしてないんだ、悪くないんだ……!」


しかし周りの人々はざわめく。


「でも噂が……」

「衛兵が言ってたし……」

「みんなそう思ってたんだぞ!」


ルシェラの瞳が鋭く光る。


「あなた達、自分の頭で考えられないの?」


一瞬、空気が凍りつく。

その声は低く、しかし痛いほど真っ直ぐだった。


「噂で他人を傷つけて、

 自分は安全な場所にいるつもり?

 ……臆病者」


住民たちは顔を背けた。


迅が青年へ問う。


「君が疑われた理由、心当たりは?」


「……最近、この近くで盗難が多くて……

 俺みたいなよそ者が犯人だって……それだけで……」


迅はうなずき、周囲を見渡した。


「犯行が続いてるのなら、

 本当の犯人が“まだこの街にいる”ってことだよな」


ルシェラが翼を揺らし、冷たく言った。


「じゃあ、探しましょう。

 “本当の罪人”を──」


その一言に、街の空気が震えた。


数時間後──


迅はある家の裏手で、盗品が隠されている倉庫を見つけた。

その家の主は、噂を先導していた男だった。


男は蒼白になって叫ぶ。


「ち、違うんだ! 俺は……!

 みんなが“怪しい”って言ったから、それに乗っただけで──!」


迅は静かに言った。


「“みんなが言ってたから” じゃなくて、

 “あなたがそう思いたかったから” だよ」


男は崩れ落ちた。


住民たちは青年に向き合う。


「すまなかった……」

「本当に……ごめん……!」


青年は涙をぬぐいながら言った。


「……俺も、怖かった。

 でも……信じてくれた人がいて、救われた」


ルシェラはその涙を見つめていた。


迅が隣に立つ。


「ルシェラ」


「……なに?」


「人って、弱いけど……

 弱いからこそ、誰かの優しさで変われるんだ」


ルシェラは少しだけ目を伏せた。


「……わからない。

 でも……あなたがそう言うなら……

 少しは信じてみてもいい」


フォルが尻尾を振り、二人の間に鼻先を寄せた。


街に、少しだけ光が戻る。

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