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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『迷いの森の聖獣』

迷いの森──


昼でも薄暗く、木々が絡むように伸び、

生き物たちの気配が囁き声のように漂う場所。


迅とルシェラは、森の入口で足を止めた。


「この森……普通じゃないわね」


ルシェラが眉をひそめる。

風が生き物のように逆巻き、空気そのものが震えている。


「うん。

 “何か大きな力”が動いてる……そんな感じがする」


迅は森の奥に視線を向けた。

その先から、微かに“うめき声”が聞こえた。


──ぐるる……ッ……!


「魔物の声じゃないわね」


「助けを求めてる……?」


二人は慎重に森の奥へ進む。


枝葉がざわつき、影が揺れ、

何かが導くように彼らの足を進ませた。


やがて視界が開き、

大木の根元に“それ”はいた。


大きな白い狼。

しかしただの狼ではない。


毛並みは淡い光を帯び、

額には月のような紋様。


背には傷が走り、深くえぐれていた。


「……聖獣ね」


ルシェラの声に、迅も驚いたように息を飲む。


「どう見ても“高位の聖獣”……

 けれど、どうしてこんな森に?」


その瞬間、聖獣が薄く目を開いた。


──ガアァ……ッ!


怒りと警戒が混ざった声。

視線はルシェラに向いている。


(……魔族の気配を感じてる?)


迅はすぐに前に出た。


「待って! 敵じゃない!」


聖獣は苦しそうに息を吐いた。

体から魔力が漏れ、傷口が黒く腐食している。


「……呪いね。

 この傷、“神殿の術式”に似ているわ」


「誰かに狙われたのかもしれない」


迅は聖獣に近づこうとする──

その瞬間、聖獣が怒りで牙を剝いた。


──グルルルッ!!


「迅、危ない!」


だが迅は腕を上げ、静かに言った。


「大丈夫。

 怒ってるのは……痛いからだ」


そして、そっと聖獣と目を合わせる。


「……怖かったよな。

 痛くて、苦しくて、誰にも助けを求められなくて──

 でも、俺たちは敵じゃない」


聖獣がわずかに吠えた。

まるで返事のように。


ルシェラは目を細める。


「……本当に、不思議な人間ね。

 聖獣に気持ちが通じるなんて」


迅はにっこり笑った。


「どうしたら治せるのだろう」


傷から黒い瘴気が溢れ、

迅を拒むように暴れ出す。


「これは……古代の呪法の残滓ね」


ルシェラが片手を前に出す。


「私がやるわ」


瞬間、黒い瘴気が彼女を敵と認識したように逆流する。


──ギャアアアッ!!


聖獣が苦しみ、森全体が揺れる。


迅が叫ぶ。


「ルシェラ! これ以上は──!」


「平気よ。

 私は“呪い”になら慣れているもの」


声は淡々としていたが、

瞳は深く沈んでいた。


迅は胸の奥が痛くなる。


ルシェラが指先を振ると、

黒い瘴気が一気に霧散した。


風の音が止み、

森が静寂を取り戻す。


聖獣は力尽きたように地面へ伏したが、

苦しみは完全に消えていた。


そして──

ゆっくり、ゆっくりと頭を上げ、

ルシェラの前に歩み寄る。


「……え?」


白い狼はルシェラの手に鼻先を寄せ、

その黒い瞳を細めた。


迅が驚く。


「……懐いてる?」


ルシェラは戸惑いを隠せない。


「な、なによ……

 私は別にあなたを助けたわけじゃ──

 呪いが目障りだったから消しただけよ……!」


しかし聖獣はぴたりと彼女の横から離れない。


迅が吹き出しそうになる。


「気に入られたみたいだな」


「……知らない!

 勝手にしなさい!!」


言いながらも、

ルシェラはそっと手を差し出した。


聖獣はその手に静かに額を寄せる。


(……あったかい)


そのぬくもりが、

凍りついていた心に触れた。


迅はふと、空を見上げる。


「よし。

 しばらく一緒に旅をしよう。

 この子にも、行き場が必要だ」


「名前は、そうだな……

フォルにしよう!!」


聖獣が嬉しそうに尾を振った。


ルシェラはわずかに頬を赤らめながら、

そっぽを向いて言った。


「勘違いしないで。

 ついてくるって言うなら止めないだけよ」


迅はにっこり笑った。


「うん、それで十分だよ」


こうして──

聖獣フォルは、

迅とルシェラの旅の仲間となった。

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