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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『討伐隊』


湖を離れ、森道を歩いていた迅とルシェラ。

静かだった風が、ふとざわりと揺れた。


気配が……変わる。


「……迅」


ルシェラの紫の瞳が細められる。

その先、森の影から数十人の兵が姿を現した。


銀色の甲冑をまとい、統率の取れた動き。

胸には聖王国の紋章──王直属の討伐部隊。


中央に立つのは、威厳ある近衛騎士団長の男だった。


「……ようやく見つけた。

 銀髪の悪魔よ」


兵たちが一斉に剣を構え、空気が張り詰める。


迅は即座に一歩前に出て、両手を広げた。


「待ってくれ!

 彼女は悪い悪魔なんかじゃない!」


近衛団長は表情一つ変えない。


「問答は不要。

 悪魔と行動する者は、悪魔と同罪とみなす。

 包囲を狭めよ」


「聞く気がないのか!」


怒鳴る迅の前で、兵たちの靴音が地を踏み鳴らした。

冷たい規律と殺意が迫ってくる。


ルシェラは無言で迅の背にいる。

ただその瞳は、深い闇と怒りの前兆を湛えていた。



「やめろ!彼女を傷つけるつもりなら──

 俺が相手をする!」


迅が叫ぶが、剣を抜く気配はない。


近衛団長が冷たく言う。


「ならば悪魔もろとも処罰する。

 かかれ!!」


その一声で、兵たちが一斉に襲いかかった。



「くっ!」


迅は剣の柄に手をかけ……

しかし抜かない。


代わりに地を蹴った。


身体が風のように動く。


兵の剣をすり抜け、腕を払えば骨の軋む音と共に落馬。

蹴りで別の兵の盾を弾き飛ばす。


「な、なんだこの動きは……!?」


「剣を抜いていないだと!?」


迅は叫ぶ。


「俺は、人を傷つけたくないんだ!!」


拳が兵の鳩尾に入り、

別の兵を軽く投げ飛ばす。


だが迅の表情は苦しげだった。


(やめてくれ……

 本当は戦いたくないんだ……!)



しかし、圧倒的な動きにも限界がある。


一人の兵が背後から回り込み、

迅の腕を掠めた。


血が地に落ちる。


「ッ……!」


その瞬間だった。


空気が変わり、森の風が止まった。


ルシェラの髪がふわりと逆立つ。


赤の瞳が、深淵のように冷たく光った。


「……迅に触れたのは誰?」


声は氷の刃のように鋭く、

ただの一言なのに兵たちの膝が震えた。


威圧が“ほんの少し”だけ解き放たれた。


大地がびり、と震える。


兵の鎧がひび割れ、

空気が押しつぶされるように重くなる。


「……なんだ、この圧……!!」


「足が……動かない……!」


近衛団長だけが辛うじて耐えていたが、

額には汗が滲んでいる。


迅は慌ててルシェラの腕を掴んだ。


「ルシェラ!

 いい、もうやめてくれ!!」


ルシェラは迅の傷口を見つめ、

怒りに染まった瞳をゆっくり閉じた。


「……あなたが言うなら、従うわ」


威圧が収まり、兵たちが一斉にその場に崩れ落ちる。



近衛団長は震える声で指示を飛ばした。


「全隊──撤退!

 この悪魔……規格外だ!

 一度城へ戻り、体勢を立て直せ!」


兵たちは武器を拾う余裕もなく撤退していく。


その背を見て、迅は静かに息を吐いた。


「……最悪の誤解をされてるな」


ルシェラは迅の傷に触れようとして、

しかし途中で手を止めた。


「……あなたは本当に、愚かね」


「え?」


「人間相手に剣も抜かず……

 そんなだから、傷つくのよ」


怒ったような、悲しんだような声だった。


迅は少しだけ笑った。


「守りたいからさ。

 そのために剣を抜くべき相手なんて……そう多くない」


ルシェラは何も言わなかった。

ただ、その横顔はどこか苦しげだった。


(どうして……

 この人間は、こんなにも……)


風が吹き、森がざわりと揺れる。


討伐隊は去った。

だが──


聖王国との対立は、もう避けられない。

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