『不穏な影』
聖王国レイフォード──
大理石の白い城壁が陽光を受け、黄金のように輝いている。
しかし城内に流れる空気は、
その光とは正反対に冷え切っていた。
王アレクシオン三世が治めるこの国は、
平和が保たれているようで、実際は
“恐れによる支配” で形を保っている。
王城の会議室。
重厚な扉が開き、
国王アレクシオンが姿を見せると
その場の空気がさらに張り詰めた。
「……報告を聞かせよ」
深い声が響く。
軍務大臣、近衛騎士団長、諜報司令が並び、
一人が震える手で書類を差し出した。
「陛下。
本日、ギルド支部より緊急報告が届きました。
街に“上位と思われる悪魔族”が出現したとのことです」
会議室がざわついた。
「上位……? 本当にか?」
「はい。
複数の目撃者が“人型で長い銀髪の悪魔”を確認した、と」
国王の眉がわずかに動く。
「その悪魔は何をした?」
「……街の冒険者を圧倒し、
ギルド長をも震え上がらせたとのこと。
同行していた若い男は追放処分にされたそうです」
近衛団長が苛立ちを抑えきれず言い放つ。
「悪魔と共に現れる人間──
これは洗脳か、あるいは裏切り者です!」
「その可能性は高いでしょうな」
軍務大臣が頷く。
「街レベルでは判断がつかず、
ギルド側も“危険度不明の脅威”として王国へ報告してきたようです」
国王はゆっくり椅子へ腰を下ろした。
「……悪魔族とは、長い間沈黙していたはずだ。
なぜ今になって姿を現す?」
誰も答えられなかった。
だが“恐れ”は確かに広がっていた。
国王アレクシオンの声が落ちる。
「悪魔の脅威を放置すれば、民心は乱れる。
敵が姿を見せたからには──王が討たねばならん」
その口調には
民を守るためではなく、支配を強化するための意思
がにじんでいた。
「近衛を中心に“悪魔討伐隊”を即刻編成せよ」
「ははっ!」
近衛団長が胸に拳を当てる。
「銀髪の悪魔──
その者を発見し次第、討伐あるいは拘束いたします。
同行していた人間も“共犯者”として処分対象とします」
国王は満足げに目を細めた。
「よい。
民を不安にさせる影は、早期に刈り取れ」
軍務大臣が補足する。
「噂によれば……悪魔は女の姿をしていたとか」
「女だろうと関係ない。
悪魔ならば悪だ」
国王の決意は冷たく、疑う余地もない。
諜報司令が別の文書を広げた。
「また、目撃証言には続きがありまして……
“悪魔を庇い、肩を並べて歩く青年がいた”とのこと。
剣士風の男で、街のギルドでは有能と見られていたようです」
近衛団長が鼻を鳴らす。
「有能かどうかは関係ない。
悪魔と共に行動する者は──危険思想の持ち主だ」
国王は静かに頷いた。
「討伐隊は、悪魔と青年の両名を追え。
生死は問わない」
重く、冷たい命令が下される。
その瞬間、
迅とルシェラの運命が、聖王国と正式に敵対する道へ進んだ。
会議が終わる頃、
国王は窓の外の夜空を見上げてつぶやいた。
「銀髪の悪魔か……
本当に存在するとはな」
そこに
憐れみも畏れもない。
あるのはただ──
支配者としての“排除すべき影”を見る目だけ。
その夜、王城の塔から、
討伐隊出立の号鐘が鳴り響いた。
湖畔で静かに過ごしていた迅とルシェラへ、
まだ届かない不穏な音。
だが確実に、
二人への包囲網は動き出していた。




