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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『湖畔の大樹』

森を抜けた先、湖があった。


日の光が水面に散らばり、銀の粒のように揺れている。

風は心地よく、世界がひとときの静けさを許したかのようだった。


「……いい場所だな」


迅がそう呟くと、

ルシェラは答えず湖をじっと見つめていた。


表情はいつもより柔らかい。

けれど、その瞳は遠い過去のどこかを見つめていた。



湖の奥、一本の大樹が立っていた。


幹は太く、枝は空へ伸び、

まるで湖を守るように影を落としている。


ルシェラはその木の前で歩みを止めた。


「……覚えているわ」


迅が驚いて横顔を見る。


「ここ……来たことがあるのか?」


ルシェラはゆっくりと頷いた。


「ええ。

 あの人と……一緒に」


その語尾には、かすかな震えがあった。


迅は胸がざわつく。


「あの人って……?」


ルシェラは静かに幹へ手を置いた。


「セリウスよ。

 あなたが戦った……前の調停者」


迅は息を呑んだ。

だが、反論もしない。彼女の声に耳を傾けた。


「セリウスは……変な人だったわ。

 世界を敵に回しても、笑っていられるような人」


風が銀髪を揺らす。


「この湖に来たのは……たった一度きり。

 そのとき、セリウスが言ったの。

 “いつか大きな木になって、誰かの休む場所になれ” って」


ルシェラは幹を撫でる。


「そして……二人で、この種を植えたわ」


迅は大樹を見上げた。


(ルシェラと……セリウスが……)


「……そっか。

 すごく大きく育ったんだな」


「ええ……驚いたわ」


ルシェラはわずかに微笑んだ。

ほんの少し、幼い頃の面影が見えるような笑みだった。


「セリウスは……私が何者でも、怖がらなかった。

 “君は君のままでいい”って……

 当たり前のように言った人だった」


言葉は優しい記憶とともに空へ溶けていく。


迅は黙ってルシェラの横に立ち、

同じ木に触れた。


「ルシェラにとって……大切な場所なんだな」


「……ええ。

 思い出が、まだ……ここだけは痛まないの」


その一言が

どれほど重い意味を持つか、迅には分かった。


彼女の孤独の中で、

傷ついていない記憶が“わずかにここだけ”残っている──。


迅は静かに言う。


「また来よう。

 旅の途中で……何度でも」


ルシェラの瞳が揺れる。


驚き、困惑し、

そしてほんの少しだけ……救われるような色。


「……あなたって、本当に……変な人間ね」


「褒め言葉だと思っとく」


ルシェラはくすりともせず、

しかし確かに、頬の力が少し抜けていた。


風が吹き、大樹が枝を揺らす。

その音は、まるで──

かつてこの木を植えた二人を、そっと祝福しているようだった。


「……また来るわ、セリウス」


ルシェラがそっと呟く。


大樹は静かに、優しく揺れた。

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