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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『森の魔物と少女』

山あいの街を後にした翌日。

迅とルシェラは、森へ向かう細道をゆっくり進んでいた。


木漏れ日が差し込み、鳥のさえずりが響く──

だが、森の奥にはわずかな“濁り”が混ざっている。


迅は耳を澄ませながら言った。


「やっぱり……最近、この辺りで魔物が増えてるみたいだ」


「どうでもいいわ。魔物は魔物。

 人間よりは……まだまし」


ルシェラの銀髪が、機嫌の悪さを示すようにふわり揺れた。


(だいぶ荒れてるな……)


昨日、少年に泣きながら謝罪されたときのこと。


ルシェラは言葉では「どうでもいい」と言っていたが──

その銀のまつ毛が微かに震えていたのを、迅は見逃していなかった。


そんな彼女の変化を、どう扱えばいいのか。

迅は迷いながらも、歩みを進める。



森の奥へ入った時──


「きゃあああああ!!」


甲高い少女の悲鳴が響いた。


迅は即座に走り出し、

ルシェラも無言で後を追う。


木々の開けた場所で、

小さな少女が魔物に追われていた。


魔物は狼に似ているが、

黒い霧のような瘴気をまとい、赤い目を光らせている。


迅が叫ぶ。


「君! こっちに!」


少女は泣きじゃくりながらも、必死に迅の方へ走る。


しかし──魔物の爪が、少女の背に触れようとした瞬間。


「……うるさいわね」


冷たい声とともに、

銀色の影が少女の横を通り抜けた。


ルシェラだ。


彼女の周囲に黒い空気が揺れ、

赤の瞳が薄く光る。


次の瞬間──

魔物の体が“音もなく”消し飛んだ。


まるで風が吹き抜けただけのように、

灰すら残らず霧散したのだ。


少女は立ち尽くし、

ルシェラを見上げた。


「……え?」


ルシェラは不機嫌そうに銀髪を払う。


少女は震えながら尋ねる。


「あ、あの……助けてくれたの……?」


「違う。

 私はあなたを助けたわけじゃない。

 魔物が進路にいたから、邪魔だっただけ」


少女はぽかんと口を開いた。


「怪我はない? よかった……」


少女は迅に抱きついて泣き出した。


「ひぐっ……こわかった……」


迅は少女の背を優しく撫で、

涙を拭ってあげながら言う。


「もう大丈夫だよ。怖かったね」


ルシェラはその光景に、どこか居心地悪そうにそっぽを向いた。


(また……人間の“涙”)


昨日見た少年の涙。

今目の前で泣いている少女の涙。


そのたびに胸がズキッと痛む理由が分からない。


少女は泣きながら、ルシェラの方を振り返った。


「おねえちゃん……ありがとう……!」


ルシェラの体が一瞬だけ硬直する。


まるでその一言が、

心の奥深くに投げ込まれた石のように響いた。


「……私は……別に……」


少女は涙を拭きながら笑った。


「でも……助けてくれたのは本当だよ?

 おねえちゃん、すごかった……!」


ルシェラの紫の瞳がゆっくり揺れる。


迅は静かに彼女を見つめる。


(ルシェラ……)


ルシェラは深く息を吐き、

少女から目をそらした。


「……勝手に感謝するのは自由よ」


けれどその声は、

いつもの冷たさとは少し違った。


少女は迅に抱きついたまま震える。


「パパとママを探してたら……迷っちゃって……

 魔物が出てきて……」


迅は少女を安心させるように笑った。


「じゃあ一緒に探そう。

 家族が心配してるはずだからね」


少女は大きく頷いた。


ルシェラはその様子を見ながら、

胸の奥が温かくなるのを感じていた。


(……私は、何をしてるの?

 どうして……こんなことを何度も……)


自分でも理由がわからない。


ただ──

少女が泣きながら言った「ありがとう」という一言。


その言葉だけが、

胸の奥にいつまでも残り続けていた。



少女を送り届けた後、

再び森の道を歩き始めた二人。


迅はルシェラの横顔を盗み見た。


「……さっきの、ありがとうな」


「……何のこと?」


「少女を助けてくれたこと」


ルシェラは少しだけ歩幅を速め、

表情を隠すように前を向いた。


「勘違いしないで。

 私は……ただ自分の道を塞がれたくなかっただけ」


その声はいつもより少し、弱かった。


迅は優しく笑う。


(それでいい。

 理由なんてどうでもいい。

 ルシェラが“人を助けた”という事実が大事なんだ)


そして──

ルシェラの銀髪は、

これまでより少しだけ柔らかく揺れていた。

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