『リリィ隊、追跡開始』
ギルドの朝は、いつもより静かだった。
先日の、迅が“悪魔族と共に追放された”という噂が、
街中に広がったからだ。
リリィはギルドの扉を乱暴に押し開けた。
「……迅を探しに行く!」
宣言のような声に、
ガルドとルーナが同時に跳ねるように立ち上がる。
「お、おいリリィ!? 本気かよ!」
「気持ちはわかるけど……危険すぎるわよ!」
リリィは肩を震わせながら振り返った。
目には眠れなかった証拠の赤みが残っている。
「……迅があんな顔で出ていくなんて、絶対おかしい。
悪魔族といたのも……何か理由があるはず。
私は……迅を信じたい!」
溢れそうな涙をこらえながら、
リリィは胸に手を当てた。
その時だった──
「だったら、俺も行く」
ギルドの入口から、低い声が響いた。
白髪の男──ヴァロスが立っていた。
訓練用の木剣ではなく、
長年使い込んだ本物の剣を腰に提げて。
「ヴァロスさん……!」
ガルドが驚く。
ヴァロスはゆっくり歩き、
リリィの前で止まった。
「迅に剣を教えたのは俺だ。
あいつがどんな奴で、何を大事にしてるか……よく知ってる」
その表情はいつになく柔らかい。
「迅は……弱者を見捨てることだけは絶対にしねぇ。
あいつが悪いことをするなんて……ありえない」
リリィの胸が熱くなる。
(やっぱり……迅を知ってる人は、誰も疑ってない……)
ヴァロスは続けた。
「それに……あいつは無茶をする。
誰かを守ろうとして、すぐ自分の命を投げ出す。
あのまま悪魔族と二人きりで放っておいたら……絶対に危ない」
ルーナが息を呑んだ。
「……確かに。
迅って、……どこか危なっかしいのよね」
ガルドも頷く。
「昔、遺跡の魔犬からリリィ守るためにボロボロなってたよな……」
リリィは顔を伏せた。
(迅は……いつも誰かを守る側で、自分を誰かに預けようとしない。
だから今度は……私が迅を守る番だ)
拳をぎゅっと握る。
「行こう! 今すぐ!」
その強い言葉に、ヴァロスが微笑む。
「言うと思ったよ」
ギルドの外へ向かう途中、
ルーナが声をかけた。
「ねぇリリィ……
迅はどうして悪魔族と一緒にいたのかしら?」
リリィは足を止め、
朝の光の中でそっと目を閉じた。
「わからない……けど迅は……
いつも本気で、誰かのために動いてる」
ギルドをでた迅の背中。
震える声でリリィの名前を呼んだあの表情。
そして、彼の後ろに立つ銀髪の悪魔族を守るような立ち振る舞い。
「たとえ相手が悪魔族でも、迅はきっと……理由を聞いて、守ろうとする。
そんな人だから……信じたいって思えるの」
ルーナは思わず微笑んだ。
「……リリィ、ずっと見てきたのね。迅のこと」
ガルドは照れ隠しのように鼻を鳴らす。
「お、おう……まあなんだ……
迅はいい奴だ。そこは間違いねぇよ」
ヴァロスは三人のやり取りを見て、
ゆっくりと街の出口を見つめる。
「……迅。
お前を独りで行かせねぇぞ」
彼の声は、どこか父親のように優しかった。
四人は山道へ向かい、歩き始めた。
リリィの胸の中には、不安も、恐怖もある。
でも──
それ以上に、大きな決意が芽生えていた。
(迅……私たちは必ず追いつくから。
あなたを一人にしないって、決めたんだから)
風が吹き、
リリィの髪が揺れる。
そして、四人の影は山道へと吸い込まれていった。




