表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/100

『少年の涙』


瓦礫の散らばる細道を抜けると、

村の外れに建てられた小さな処刑場が見えた。


黒い杭が四本、簡易的に打ち込まれ、

その中心に縄で拘束された男が座らされている。


男は痩せており、両手に煤がついていた。

だがその表情は、どこか優しげな影を落としている。


少年は震える声で叫んだ。


「お父さん!!」


男──少年の父は顔を上げ、目を見開いた。


「リオ……来るな! 危ない!!」


その叫びと同時に、四人の衛兵が剣を構えて前へ出た。


「止まれ! こいつは《悪判定》だ!

 魔物と通じ、村を壊そうとした罪で処刑が決まっている!」


迅は少年を庇いながら前に出た。


「その判定が誤りじゃないか──

 俺が確かめる」


衛兵たちは一瞬ざわついた。


「確かめる……? 何を言っている!」


「悪魔族を連れて何を企んでいる!」


背後で、ルシェラの銀髪が静かに揺れた。

だが彼女は何も言わず、ただ遠くから見ている。


迅は一歩前に踏み出した。


「《善悪判定》」


淡い光が迅の瞳に宿る。

拘束された男の周囲に、薄い青い霧のような“情報”が浮かび上がった。


恐怖、後悔、家族への愛──

その根底に、悪意は微塵もない。


「……この人は“悪くない”。

 悪判定は誤りだ」


少年が息を詰めた。


「だ……だよね!? だよね迅さん!!」


しかし衛兵は剣先を向けたまま叫ぶ。


「お前の判定など関係ない!

 神の判定は絶対だ!

 命令に従わなければ我々が処罰される!」


迅は眉をひそめた。


(……そうきたか)


街の人々も気づき、ざわめきが大きくなる。


「衛兵さん……! お願い、父を助けて……!」


少年の声は震え、涙が浮かび始めていた。


だが衛兵は冷たく言い放つ。


「悪いが……これは処刑だ」


剣が振り下ろされようとした、その瞬間──


迅の姿が掻き消えた。


金属音が重なる。

瞬きの間に、迅は衛兵三人を地面に叩き伏せていた。


最後の一人が驚愕したまま剣を振るう。


迅はその攻撃を片手で受け止める。


「誤判定のまま処刑なんて、あっていいはずがない」


その言葉の直後だった。


──ガラガラガッ!


処刑場横の崩れた建物の屋根から、大きな瓦礫が落ちてきた。


直撃地点は

──少年の真上。


「リオ!!」


迅が振り返るより早く、瓦礫が落ちる。


少年は恐怖で足をすくませ、動けなかった。


その時。


「チッ……」


銀の閃光が風を切った。


ルシェラだった。


彼女は飛ぶように少年へ迫り──

落ちてきた巨大な瓦礫を、右手ひと振りで粉砕した。


轟音とともに、瓦礫は粉塵となって砕け散る。


少年は目を見開き、呆然とした。


ルシェラは淡々と髪を払った。


「勘違いしないで。

 ……私に落ちてきたから、仕方なく壊しただけよ」


少年は震えた声で言う。


「……でも……助けてくれた……」


「違う。私はあなたを助けたんじゃない。

 “瓦礫を壊しただけ”」


赤の瞳は冷たく見えた。

だが、その指先はわずかに震えている。


迅は瓦礫の粉塵が収まるのを待ち、少年の側へ駆け寄った。


「怪我はない?」


少年は首を振った。

涙がぽろぽろと零れ始める。


「……お父さんも、ぼくも……

 悪くないって……言ってくれて……

 それで……それで……」


涙が地面に落ちる。

それを見て、ルシェラの胸が強く締めつけられた。


少年はルシェラを見上げた。


「ご、ごめんなさい……!

 さっき、ぼく……ひどいこと言って……!

 悪魔族なんて……言って……!

 本当は……怖かっただけで……!」


ルシェラの呼吸がわずかに乱れた。


少年の涙。

謝罪。

恐怖と後悔と必死の想い。


そのすべてが、彼女の胸を刺す。


「……もういいわ。別に気にしてない」


そう言うルシェラの声は、

初めて──

“拒絶ではなく、迷い”を帯びていた。


少年はさらに涙を流し、頭を下げた。


「助けてくれて……ありがとう……っ」


その言葉に、ルシェラの銀髪が一瞬だけ震えた。


彼女は顔をそらしたが、

その頬がほんのり赤く染まっているのを、迅は確かに見た。



衛兵たちは倒れ、迅は父親の縄をほどいた。


「本当に……助けてくださったのですね……。

 息子を……どうか……息子だけは……」


「大丈夫。あなたも息子も、誰も処刑させない」


迅はしっかりと答えた。


父親は深く頭を下げ、少年はその胸に飛び込んだ。


「お父さん……うわぁぁぁん……!」


その涙を見ながら、

ルシェラはゆっくりと目を伏せた。


胸の奥で、

冷たかった心臓が少しだけ温かくなる。


自分でも気づかないほど

ほんの小さな変化が──そこには確かにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ