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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『ルシェラの拒絶』

山道を抜けた先に、小さな村が広がっていた。

石造りの塀に囲まれたその村は、物音も人声も穏やかだった。


「穏やかで良い村のようだな」


迅が軽く息をつくと、

隣を歩くルシェラの銀髪が風に揺れ、淡い光を散らした。


だが彼女の表情は相変わらず硬い。


村へ入った途端──

二人に鋭い視線が投げられた。


特にルシェラへ向けられる視線は、決して好意ではない。

“恐怖”と“警戒”。

それが混ざった空気が周囲に広がる。


(……ここもか)


迅は胸の奥が少しだけ痛んだ。



市場へ入ると、住民たちは商品を並べながらも、

ちらちらと二人を観察していた。


「ねぇ見て、あれ……」


「悪魔族じゃ……?」


「近づくな」


そんな声がひっそり漏れる。


ルシェラは何も言わなかった。

だが、銀の髪越しに見える横顔は冷えた空のように無表情だった。


その時──


「……あっ……!」


細い声が耳に入る。


迅が振り返ると、

瓦礫の山の前で、小さな少年が座り込んでいた。


木片や壊れた壺が散乱するその場所は、何かの事故跡らしい。


少年の服は真っ黒に汚れていたが、怪我はないようだ。


迅がそっと声をかけた。


「大丈夫? そこ、危ないよ」


少年は迅の顔を見上げ、ほっとしたように息を漏らす。

だが──ルシェラが近づいた瞬間、


少年の顔色が変わった。


「……悪魔族……!!」


震える声。

恐怖に歪んだ瞳。


街の大人たちがざわつき始める。


少年は瓦礫の陰に隠れながら叫んだ。


「ぼ、ぼくのお父さんを捕まえに来たの!?

 神殿の人が言ってたんだ……“悪判定は悪魔族を呼ぶ”って……!」


ルシェラの紫の瞳がわずかに揺れた。


だが少年は続けた。


「ぼくのお父さんは悪くない!

 悪いのは、お父さんを“悪者”にしたやつらだ!!

 お前みたいな……悪魔だ!!」


その言葉は、刃のように鋭くルシェラの心へ突き刺さった。


風が止まり、銀髪が硬直したように揺れを止める。


迅は少年の横に膝をつく。


「君のお父さんは……悪者じゃないんだな?」


少年は必死に首を振った。


「違う!

 ぼくはずっと信じてる!

 お父さんみたいに優しい人が、人を傷つけたりしない……!」


迅は小さく息を吸い込み、言った。


「……なら、助けに行こう。

 お父さんを“本当に悪かどうか”俺が判定する」


少年の涙で濡れた目が見開かれる。


「……ほんとうに……?」


「あぁ。俺が行くよ」


だが──迅の言葉を遮るように、

冷たい声が落ちた。


「……勝手に決めないで」


ルシェラだった。


少年がさらに怯え、瓦礫の後ろに隠れる。


ルシェラは少年を見ようともしない。

ただ、迅に向かって静かに告げる。


「どうして……そこまでして助けようとするの?」


迅は少し戸惑った表情で、ルシェラを見た。


「どうしてって……困ってるからだよ。

 誤判定なら、救うべきだ」


ルシェラの顔に影が落ちる。


「その“助ける”って言葉……私には、理解できない」


村の人々の視線が集まる中、

ルシェラの銀髪がざわりと揺れ、風に舞った。


「人間は嘘をつく。裏切る。

 自分の都合で“善悪”をねじ曲げる。

 ……何度も見てきた。

 そんな存在を、どうして助けるの?」


迅は静かに口を開いた。


「全部の人がそうじゃない。

 この子みたいに、信じてる人もいる」


少年は震えながら迅の手の影に隠れたまま、

ルシェラを見ていた。


その視線に、ルシェラの指が微かに震える。


「……信じる?

 何を根拠に?

 私は……信じた結果、すべてを失ったのよ」


一瞬、彼女の目に深い闇が宿った。

“災厄の悪魔”と呼ばれた過去が、そこに滲み出た気がした。


「私は、人間も他の種族も──信じない」


彼女は背を向けた。

その銀髪が尾を引くように光を散りばめながら。


迅が呼び止めようとしたとき──


「……ルシェラ」


彼の声を遮るように、ルシェラが言った。


「迅……人間を助けるのは勝手にしたらいい。

 でも、私は関わらない。

 私は……傷つきたくない」


その言葉は、強い拒絶だった。


しかし同時に、誰よりも脆い“本音”でもあった。


迅はゆっくりとうなずく。


「……わかった。でも、俺は助ける。

 君が拒絶しても、それは変わらない」


ルシェラの肩が一瞬だけ震えた。


その背中には、誰にも触れさせない孤独が広がっていた。


迅は少年に手を差し伸べた。


「行こう。君のお父さんのところへ」


少年は迷いながらも、震える手で迅の手を握った。


ルシェラは歩き出す二人を黙って見送った。


ただ、誰にも気づかれないように──

自分の胸にそっと触れた。


(……なぜ?

 どうして……胸が痛むの……?)


その痛みこそ、

彼女の変化の始まりだった。

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