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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『山道の野党』

街を追放された翌朝。

薄い霧が立ち込める山道を、迅とルシェラは並んで歩いていた。


空は曇り、木々のざわめきだけが耳に届く。

ルシェラは無言のまま、ただ前を見ている。


「重い空だな……雨、降るかもしれない」


迅が言うと、ルシェラは淡く眉をひそめた。


ルシェラはあまり反応を示さない。

その心が閉じているのは分かっていた。


(まだ……昨日のことを引きずってるんだ)


ギルドで向けられた“恐怖”。

それは、ルシェラの心に確かに爪痕を残していた。


そんな静かな空気を裂くように──


「きゃあああああっ!!」


山道の先から女の悲鳴が響いた。


迅は同時に駆け出した。


坂を下りきった先で、馬車が横倒しになり、

三人の野盗が刃物を構えていた。


「金を置いていけ! 逆らえば殺す!」


護衛らしき男は倒れ、馬が暴れている。

馬車の陰に、若い女性と老人が必死で隠れていた。



迅はゆっくりと野盗たちの前に出る。


「やめておけ。これ以上の暴力は必要ない」


野盗は嘲笑した。


「はぁ? 誰だお前?何言って──」


その瞬間だった。


迅の足元が揺らぎ、次の瞬間には敵の背後。

拳で軽く突いただけで、三人とも膝から崩れ落ちた。


野盗たちは呻きながら倒れ、動けなくなった。


「……た、助かった……」


馬車の陰から老人がゆっくり顔を出す。

女性も震えながら声を絞り出した。


「ほ、本当に……ありがとう……」


迅は微笑み、手を差し伸べた。


「もう大丈夫。怪我はない?」


「はい……あなたのおかげで……!」


その時、遅れてルシェラが歩いてきた。


銀髪、金色と紫の瞳。

冷たい気配をまとった美しい少女。


だが──彼女が一歩近づいた瞬間だった。


女性が悲鳴をあげた。


「やっ……悪魔族……!?」


老人も震えながら後ずさる。


「ひぃッ……! 助けてもらったのに……なんで……なんで悪魔がここに……!」


二人は荷物を放り出して、山道の奥へと走り去ってしまった。


迅は急いで声をかけようとしたが、

ルシェラが静かに制した。


「追わなくていいわ。いいの。……もう、慣れてる」


ルシェラは淡々と言った。

だが、胸元をそっと押さえるその指が微かに震えていた。


迅は横に立ち、彼女の顔を覗く。


「ルシェラ……」


「分かってるの。私は“災厄の象徴”…人は私を恐れる。

 近づけば逃げる。私が何をしなくても……」


彼女の声には、静かな哀しみが滲んでいた。


「昨日もそうだった。

 あなたの仲間も……私を見て、動けなくなって……

 人間はみんな、同じ目で私を見る」


風が吹き、ルシェラの銀髪を揺らした。


「怖がられるのが、当然なんだわ。それが、“私”だから」


言葉は冷静だったが、

その奥にある孤独は、あまりにも深かった。


迅は少しだけ空を見上げ、ゆっくり告げる。


「……でも、俺は違う」


ルシェラは驚いたように目を向けた。


「怖くなんかない。

 むしろ──君がいてくれてよかったと思ってる」


幼い少女のように揺れる瞳。

彼女の中の氷が、ほんの少し溶けた気がした。


「……あなたは、本当に変な人間ね」


「よく言われる」


迅は笑った。

ルシェラはわずかに視線をそらし、つぶやいた。


「……でも、ありがとう。迅」


その言葉は届きにくいほど小さかったが、

確かに“感謝”の形をしていた。


野盗から奪われた馬車は壊れていたが、

老人の荷物の中に、旅の情報がいくつかあった。


迅は地図を拾い上げる。


「次の街まで歩くしかないな。

 でも……途中に小さな村があるみたいだ」


「そう・・・」


二人は再び山道を歩き出した。

霧は晴れ、淡く陽光が差し始める。


旅は、まだ始まったばかりだ。

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