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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『追放の夜明け』

ダンジョンの出口近くの道を迅とルシェラは静かに歩いていた。

地上へ出た途端、冷たい風が吹き抜ける。夜が明ける直前の薄闇。空気の濁りが、街の不穏を告げていた。


「……行くか、ルシェラ」


「ええ」


ルシェラは感情をほとんど見せない。けれど、わずかな殺気だけが肌を刺す。

その横顔に、迅は小さく息を吐いた。


(このままじゃいけない。けど──今はまず、寄り添うことしか)


二人が街への坂道を降り始めた、その時だった。


「…………は?」


前方で、複数の松明が揺れた。

グレンのパーティー──彼らがちょうどダンジョン方面へ向かってくるところだった。


「じ、迅……? ま、まさか……生きて……?」


グレンの声は震えていた。

だが、それは“心配”ではなかった。

迅には分かる。彼が張り巡らせた“殺意”と“焦り”の残滓が、まだ空気に残っている。


──そして、迅のスキル《善悪判定》が静かに発動する。


瞬間、グレンの身体から立ち昇る黒い靄のような“意図”が可視化された。


「……罠。

 俺を……殺すつもりだったんだな」


グレンの顔色が一瞬で蒼白になる。


「ち、違う! 誤解だ迅! お、俺は……!」


「言い訳はいらない。

 俺は、全部見えてる」


迅の声は静かだった。怒りも、悲しみもなく。

ただ、事実だけを告げる調停者の声。


ルシェラが一歩、前に出る。

風がざわりと震える。


「誰この男?あなたを裏切ったの?殺す?」


その声は甘く、だが底冷えするほど冷酷だった。

グレンたちは、一瞬で逃げ腰になる。


迅はルシェラに手を上げて制した。


「……殺さないよ。ただ、連れていく」


「どうして? 殺されそうになったのでしょ……」


「だからこそだ。

 裁くのは俺じゃない。

 真実はギルドに示す。それで十分だ」


ルシェラはつまらなそうに肩をすくめた。


「本当に……あなたを理解できない」


それでも、彼女は引いた。

迅の“選択”を否定しなくなりつつある──それが、彼女自身も気づいていない変化だった。


グレンは口を開く暇もなく、迅が踏み込み──


「ぐっ……!?」


気づけば大地に押さえつけられていた。

その動きは速すぎて、誰も追えない。


グレンの仲間が武器を構える。


「ひ、ひるむな!相手は迅だぞ!」


その瞬間、空間が揺れた。

圧倒的な力が、彼らの動きを止める。


「……やめておいたほうがいい。

 今までの俺ではないよ」


淡々と言う迅の姿に、グレンたちは恐怖で膝を折った。


戦闘は数十秒で終わった。

迅の圧倒的な制圧。

ルシェラは、最初から最後まで腕を組んだまま微動だにしなかった。


「行こう。ギルドで話す」


迅はグレンたちを引きずり、街へ歩き出した。


──────


ギルドに到着すると、夜明け前だというのに冒険者たちでざわついていた。

迅の姿を見つけた途端、空気が揺れる。


「……迅!? 本当に……!」


リリィが駆け寄り、涙をにじませた。

ガルドもルーナも、信じられないという眼差し。


「生きてて……よかった……っ!」


リリィが胸に飛び込もうとした、その時。


──空気が凍りついた。


ギルド全体が、一瞬で“死の気配”に沈む。


原因はただ一人。

迅の後ろに立つ、黒衣の少女──ルシェラ。


彼女は表情を変えず、ただ静かに冒険者たちを見回しただけ。

だが、その瞳の奥には、憎悪が凝縮されていた。


「な、何……この気配……!?」

「う、動けない……!」


ギルド中が硬直する。

リリィも、涙のまま固まった。


迅はルシェラに声をかける。


「……ルシェラ。力を抑えて」


「抑えてるわ。これでも」


その言葉に、リリィたちの顔が青ざめる。

(これで抑えてる……?)


ギルド長が震えながら姿を現した。


「じ、迅……この悪魔族は……なんだ……!」


迅はグレンを前に押し出す。


「彼が俺を罠にかけた。証拠は俺が示す。

 でも──その前に」


ギルド長は震える声で告げた。


「迅、お前は……街を出ろ。

 悪魔族と行動する者を……この街は、守れん」


リリィが叫ぶ。


「待って! 迅はそんな──!」


だが、迅は静かに微笑んだ。


「いいんだ、リリィ。

 今は……そういう流れなんだろう」


リリィは涙を止められなかった。

ガルドは拳を握り、ルーナは唇をかみ目を伏せた。


迅は扉へ向かう。

ルシェラが、その横に並ぶ。


「行くのね、迅」


「あぁ。

 ここから……俺たちの旅が始まるんだ」


扉をくぐる直前、リリィの震える声が背中に届いた。


「ぜったい……また会えるよね……?」


迅は振り返らなかった。

ただ、右手を軽く上げた。


「もちろん。また必ず」


二人の影が、夜明けの街へ消えていった。


この瞬間から──

世界は、迅とルシェラを“危険な存在”として認識し始める。


そして二人の旅が始まる。

国家との全面衝突へと向かう、長い長い道のりが。

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