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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『不穏な影』

気は上層とはまるで別物になった。


 冷たく、鋭く、どこか針のように肌を刺す。


「ここから先は気を抜くなよ」


 グレンが前で大剣を構え、周囲を見回す。


 その声に、迅は自然と喉を鳴らした。

 緊張はある。それでも、仲間がいるという安心の方が大きい。


「来るぞ!」


 影のような魔獣が天井から落ちてくる。

 ガルドが拳で迎撃し、リリィが火球を放つ。

 ルーナが風の刃を飛ばし、迅も剣で追撃した。


 連携は乱れない。


「いい動きじゃねえか、お前ら」


 グレンが余裕の笑みを見せる。



 通路を抜け、広い空間に出た。


「少し休もう」


 グレンが灯りの魔石を置くと、青白い光が岩肌を照らす。


「迅、水いる?」


「うん、ありがとう」


 リリィに渡された水筒を飲みながら、迅は深く息をつく。


 その間、ラードは周囲の壁に手を当てていた。


「壁の魔力、だいぶ濃いな……

 下層って感じがする」


 淡々とした声。

 それは、どこの冒険者でもするような、

 ただの環境確認にしか聞こえなかった。


「何か問題?」


 迅が何気なく尋ねる。


「いや、別に。

 この階層は魔力が高いから、変な流れがあるだけさ」


 そう言って肩をすくめるその姿には、

 特別な意図など欠片もないように見えた。


 実際、迅もリリィもガルドも、何も感じ取れなかった。


 ただ一人――ルーナだけが、視線をゆっくりと宙に上げた。


「……風が、落ち着かない」


「え? なんか言った?」


 リリィが振り返る。


「ううん。なんでもないわ」


 ルーナは微笑んだ。


 だがその瞳の奥には、ほんのわずかな翳り。


(……気のせいだといいんだけど)


 精霊族の耳にだけ触れるような、

 小さな、小さな“ざわめき”。

 それは道を照らす炎の揺らぎにも、風の筋にも似ていた。


 ただ、それだけ。



「よし、進むぞ!」


 再び歩き出す一行。


 敵の強さは確実に増していたが、

 六人の連携はむしろ磨かれていた。


「迅、左!」


「わかってる!」


 迅が影を叩き、ガルドが壁際へ押し込み、

 リリィがとどめの火球を叩き込む。


「フッ……いいじゃないか」


 グレンが満足げに笑う。


 その笑みは、どこからどう見ても“信頼に足るリーダー”だった。



 階段の入り口に立ったとき、

 ルーナがふっと振り返った。


「……迅。気をつけてね」


「え、うん。ありがとう?」


 迅は首をかしげた。


「なんで急に?」


 ガルドが笑う。


「……ただの勘よ」


 ルーナはそれだけ言った。


 風が、ほんの一瞬止んだ気がした。



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