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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『合同パーティー』

 翌朝。

 黒淵の奈落へ向かう馬車の前に、二つのパーティーが揃って立っていた。


 迅、ルーナ、リリィ、ガルド。


 そしてグレン率いる“鉄牙の灯火”の三名――盾士バルド、魔槍使いシェリス、後衛の詠唱士ラード。


 これまで何度か揉め事を起こしてきた顔ぶれ。

 だが今日のグレンは、どこか空気が違っていた。


「……迅たち。今日はよろしく頼む」


 丁寧すぎるほどに頭を下げる。


 リリィは驚きで目を丸くし、ガルドは小声で漏らした。


「おいおい……あいつ、何を食ったんだ?」


 ルーナはグレンをじっと見つめながら、薄く目を細める。

 風が、静かに渦を巻くような気配を運んでいた。



 馬車はゆっくりと動き始めた。

 黒淵の奈落は街から半日――森を抜け、岩山を越えた先に口を開けている。


 並走する二台の馬車のうち、迅たち四人は一台目に乗り込んでいたが、

 グレンはあえて同じ馬車に乗り込んだ。


「……狭くて済まないな。だが話したいこともあってな」


 そう言って柔らかく笑うグレン。

 その笑顔は、以前の彼とはまるで別人のようだった。


「迅、氷狼王との戦い……聞いた。

 お前の判断で、多くの避難民が救われた。あれは立派なものだ」


「……ありがとう。俺だけじゃなく、みんなのおかげだ」


 迅がそう答えると、グレンは深く頷いた。


「昔の俺は、お前のことばかり敵視していた。

 だが、それも全部……俺の未熟さだったんだと思う。」


 妙に言葉が綺麗だ。

 その違和感は、ガルドが小さく唸ったほどだ。


(……妙だ)


 迅もまた、胸に小さなひっかかりを覚えていた。

 だが、“改心”したように見えるグレンを疑う自分が、どこか嫌でもあった。


 氷狼王との闘いを経て、迅の中の“信じたい”という気持ちが強くなっていたのだ。



 馬車が軋むたびに、ルーナはひそかに窓へ視線を向ける。

 そして、ふっと目を閉じた。


(……風が落ち着かない)


 その違和感は、グレンが馬車に乗った瞬間から続いている。

 危険というほど強くはないが、

 “何かが隠されている”と告げるような微かなざわめき。


 ルーナは小声で呟いた。


「迅……油断しないで」


「え?」


「今はまだ分からない。でも、何かが……変よ」


 迅は返事に詰まる。

 グレンの声が隣から聞こえてきた。


「迅。お前の力、ぜひ俺の目で見てみたい。

 氷狼王を鎮めた時、お前は何を考えていた?」


 役割を忘れたかのような穏やかな声音。

 迅は少しだけ考えてから答えた。


「……守りたかった。敵とか味方とかじゃなくて。

 怒っていたのは……氷狼王の方じゃなく、人間の方だったから」


「なるほどな……」


 グレンはどこか感慨深く目を閉じた。


 ――だが、ルーナの視線は冷えていた。

(……その言葉を聞いて、今のように笑うのは変)



 午後。

 山の影が長くなり、空気が冷え始めたころ。


「――着いたぞ、黒淵の奈落だ」


 御者の声に、馬車が止まった。


 馬車を降りた瞬間、ひやりとした空気が肌を刺す。

 岩山の裂け目の奥、巨大な黒い洞窟が口を開けていた。


 その入口には、紫色の霧が渦巻き、内部の光を飲み込んでいる。

 生命の気配が薄く、代わりに“何かが蠢く”圧力だけが漂っていた。


「ここが……」


「活性化が進んでるわね……」


 リリィとルーナが息を呑む。


 グレンは剣を抜き、深く息を吸った。


「――行こう。

 この先は、二つのパーティーで力を合わせて進む。

 皆、頼む」


 表情は清々しくさえ見える。

 その言葉を聞いたバルドやシェリスも気合を入れ直した。


 迅は、ほんのわずかに迷ったが――

 グレンの瞳を見て、心を決めた。


「……ああ。行こう」


 その瞬間、ルーナは風のざわめきが少し強まったのを感じた。


(どうか、迅が無事でありますように……)


 黒淵の奈落。

 その闇の中へ、二つのパーティーが足を踏み入れる。


 

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