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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『危険な誘い』

 氷狼王フェルドランとの戦いを終え、凍土の風の中に残った余韻は、迅の胸に深く沈んでいた。


 ヘルズリッジの町へ戻る道すがら、誰も多くを語らなかったが、四人の足取りには確かな強さが宿っていた。


 自然の怒りと、守ろうとする意思を目の当たりにした――

 その経験は、彼らの中に“戦う理由”をひとつ刻み込んでいた。


 しかし、町に戻って二日後。

 その静かな決意は、思わぬ訪問者によって揺さぶられることになる。



 ギルドの扉を押し開けると、いつになくざわついた空気が流れていた。

 受付のエマが迅たちに気づき、小走りで近寄ってくる。


「迅さん、来てくれてよかった……。今日、グレンさんが話があるって……」


「俺たちに?」


 迅が首を傾げたそのとき。


 ギルドの二階席から、静かに階段を降りてくる影があった。


 金髪の青年、鋭い目つき。

 その表情には、珍しく緊張と焦燥が滲んでいた。


 ――グレン。


 迅たちの前に立つと、彼は深く頭を下げた。


「……まず、謝りたい。今までの無礼な物言い、態度……そして、迅。

 お前の力を認めず、ただ敵愾心をぶつけていた」


「……どうしたんだ、急に」


 迅の問いかけに、グレンは唇を噛んだ。


「上級ダンジョン――“黒淵の奈落”が活性化している。

 近隣の村からの避難民も増えている。俺たちだけでは手に負えない」


 そこまで言うと、彼は拳をぎゅっと握りしめた。


「頼む。協力してくれないか。

 俺たちと合同で、ダンジョン攻略を――」


 ギルド内が一瞬で静まり返った。


 ガルドは眉をひそめ、リリィは驚いたように目を見開く。

 ルーナはじっとグレンを観察していた。


 “怒り”でも“嫉妬”でもない。

 どこか追い詰められた目をしている。


「……何が起きてる?」


 迅が尋ねると、グレンは深く息を吐き、低く答えた。


「最下層の封印が揺らいでいる。

 何が出るか分からない。

 だが、いまのまま放置すれば……村がいくつも消える」


 その声は震え、嘘をついているようには見えなかった。




 ギルドの一室。

 迅、ルーナ、リリィ、ガルドの四人が揃い、相談が始まった。


「どう思う?」


 迅の問いかけに、ガルドが腕を組んだまま答える。


「……あいつが頭を下げるなんてありえねぇ。

 それほど追い詰められてるってことだ。

 村を守るためなら、行く価値はある」


 リリィも頷く。


「避難民が出てるって言ってたし……放っておけないよ」


 一方で、ルーナは険しい顔をしていた。


「迅……気をつけて。

 グレンの言葉には嘘はない。でも、それだけじゃない」


「それだけじゃない?」


「うん。彼は“恐れている”。

 ……あなたのことを」


 迅は息を呑む。


「そんな、俺が?」


「迅が氷狼王と対峙し、あの吹雪を止めたのを見ていた者が、町にいっぱいいる。

 何かが変わったって、皆分かってる。

 グレンは……あなたを、“利用しようとしてる”可能性がある」


 リリィがはっと表情を曇らせた。


「ま、まさか罠……?」


「……断言はできない。でも、風は警告してる」


 迅はしばらく沈黙した。


 信じたい気持ちと、ルーナの言葉、


 そして氷狼王との闘いで得た“守りたいという想い”が胸の中でぶつかり合う。


「……迅」


 リリィがそっと声をかける。


「行くなら、私たちも一緒だよ」


「当たり前だ」


 ガルドも拳を鳴らす。


「罠だったら、ぶち壊してやるだけだろ」


 ルーナが静かに頷いた。


「迅の選択に従うよ。

 でも……気をつけて。何か、風がざわついている」


 迅は深く息を吸い、ゆっくり吐き出した。


「……行こう。

 危険でも、避難民がいるなら、放ってはおけない。

 罠かもしれない。でも、それでも……俺は行きたい」


 その言葉に、三人が胸を張って頷いた。




 ギルドの広間に戻ると、グレンは真剣な表情で立ち上がった。


「答えは……?」


 迅は一歩前に出る。


「参加する。

 黒淵の奈落の攻略――合同で挑もう」


 その瞬間、グレンは安堵の息を吐き、深々と頭を下げた。


「……助かる。本当に、ありがとう」


 だがその表情の奥に、

 迅の胸をざわつかせる影が一瞬だけよぎった。


 後悔か。

 期待か。

 恐怖か。

 それとも――もっと別の何か。


 迅には、それを見極めることはまだできなかった。


 ――こうして、

 次の大きな転機が静かに幕を開けた。

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