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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『白き沈黙』

 氷晶の聖域に、轟音が満ちていた。


 フェルドランが吠えるたび、空気そのものがひび割れたように揺れる。

 凍気の奔流が床を引き裂き、氷の柱が次々と生まれては砕け散る。


「ガルド、左から来るッ!」


「分かってる!!」


 巨狼の爪が振り下ろされる。

 ガルドは獣人解放で筋肉を膨張させ、両腕で受け止めた。


 ――ゴッッ!!


 衝撃だけで足元の氷床が砕け、ガルドの脚がめり込みそうになる。


「ぐ、ぐおおおおおおおッ!!!!!」


 耐える。

 だが、王の一撃は一瞬で骨を砕くほど重い。


 リリィが叫ぶ。

「《バーニング・スパーク》!!!」


 炎の槍がフェルドランの側面を貫いた。

 だが――


「ま、また凍らされてる……!」


 炎が触れた瞬間、蒼い凍気に包まれ氷片となって砕けた。


「フェルドランの凍気……普通の魔獣のそれじゃない……!」


 ルーナが風障壁を広げながら声を上げる。


「魔法そのものを“無”にする……!」


 巨狼が上空へ跳び上がった。

 氷晶の天井にぶつかるほど高く――そして急降下する。


「迅ッ! 避けろ!!」


 ガルドが叫ぶ。

 迅は反射的にステップを踏んで横に飛ぶ。


 直後、王の巨体が地面を叩きつけた。


 ――ドォォォォォォン!!!


 聖域全体が揺れ、氷壁が崩れ、吹雪が内部に流れ込む。


「ひっ……!」


 リリィが体勢を崩す。


「リリィ、後ろへ!!」


 迅が掴んで引き寄せ、牙の一撃を紙一重でかわす。


 フェルドランの瞳が迅を捉えた。


 その瞳には怒りだけではなく――

 深い悲しみ が宿っていた。


(……なぜ、そんな目を……)


 問いかける余裕もなく、王は息を吸い込む。

 次の瞬間、口腔から蒼白の光が漏れ――


「来る!! 全員伏せろ!!」


 フェルドランのブレスが放たれた。


 吹雪ではない。

 氷そのものを生む壊滅の奔流。


 ルーナは全魔力を注ぎ、風壁を展開する。


 風壁がブレスを受け止め――

 だが、そのまま砕け散った。


「きゃあああああああッ!!」


「ルーナ!!」


 風壁を超えた残滓が四人を包み、

 氷の棘が服を裂き、肌を切り裂く。


 迅は視界が白く染まる中、歯を食いしばった。


「俺たちを……倒す……ためじゃない……」


 フェルドランは、攻撃の合間に

 “何かを守る方向”へ必ず身を向けていた。


(……あの奥に、守りたいものがあるんだ……だから……)


「だったら――」


 迅は、握る剣に力を込めた。


「その守りたい想い……俺が受け止める!!」


 吹雪の中を、迅は駆けた。


 王はその動きに反応し、巨爪を振るう。

 迅は紙一重でかわし、氷の床を滑るように転がり、

 王の胸元の下へ潜り込む。


 ガルドが吠える。


「迅ッ! 合わせるぞ!!」


 獣人解放のガルドがフェルドランの脚に組み付き、

 リリィが最後の魔力を振り絞って炎を放つ。


「お願い……届いて……!

 《フレアリング・ロード》ッ!!」


 燃え上がる炎がフェルドランの顔を照らす。

 その影に、迅が跳んだ。


「うおおおおおおおおおッ!!」


 渾身の一撃を、

 王の胸元へ――

 光が漏れている“傷口”へ――

 振り下ろした。


 ――ガキィィィィィィン!!!


 金属とも氷ともつかない鋭い音が響いた。


 そして、


 フェルドランの動きが止まった。


 ゆっくりと――

 その巨体が地に伏せていく。


 怒りは消えていた。

 黄金の瞳は、穏やかな色を取り戻していた。


「……やった……の?」


 リリィが息を呑む。


「いや……これは……」


 迅は言葉を失った。


 フェルドランの身体が変化を始めていた。

 蒼白い光が体を満たし、輪郭が揺らぎ――

 雪の粒となって空へ舞い上がる。


 まるで、長い戦いを終えて眠りにつくように。


「……鎮魂……だわ」


 ルーナの声が震えた。


「人よ……」


 光の中から、確かに声がした。


「汝らの焔が……大地を焼くなら……

 雪は……もう戻らぬ……」


 それは怒りの言葉ではなかった。

 守護者としての、最後の警告。

 そして――哀しみ。


「フェルドラン……」


 迅は膝をつき、地面に手をついた。

 涙ではなく、息が震えた。


「守りたかったんだな……最後まで……」


 リリィは涙を流し、ルーナは祈るように風を吹かせた。

 ガルドは拳を握りしめ、目を閉じた。


 光が完全に消えると、

 氷の聖域には深い静寂だけが残った。


 吹雪は止み、

 白い雪片がゆっくりと降り積もる。


 まるで――

 王の魂が凍土を撫でているかのように。


「……行こう」


 迅は静かに立ち上がった。


「この地が……何を守ってきたのか、確かめに」


 仲間たちは頷き、歩き出す。


 氷狼王フェルドランが消えた聖域に、

 白く、静かな風だけが吹いていた――。

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