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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『Dランク冒険者』

 模擬戦から一夜が明けたギルドは、どこかざわついていた。


 酒場ではいつものように冒険者たちが騒ぎ、依頼掲示板の前には行列ができている。


 ――だが、その空気の中で、昨夜の戦いの話があちこちで囁かれていた。


「なあ聞いたか? グレンとジンが互角だったってよ」


「まさか、あの“ゴミスキル”が……?」


「嘘じゃねぇぞ。俺、現場で見てた」


 それは驚きと、半信半疑と、ほんの少しの興奮が混ざった声だった。

 昨日まで迅を笑っていた冒険者たちの口からも、その名が出ていた。



「迅さん。ギルドマスターがお呼びです」


 カウンターの奥から受付嬢のエマが顔をのぞかせた。


 柔らかな金色の髪に優しい笑顔――最初に登録した日のことがふと頭をよぎる。


「昨日の件……ね」


 りりぃは目を細めて、少しだけいたずらっぽく笑った。


「行ってきなさい。ちょっと……良い話かもよ?」


 迅はうなずき、ギルドの奥へ向かう。


 その背中に、リリィ・ガルド・ルーナの三人がさりげなく視線を送っていた。


 ギルドマスター室。


 重厚な扉をくぐると、木製の机に肘をついた男がいた。


 白髪交じりの髭を蓄えた壮年の男――ギルドマスターのハロルドだ。


「よく来たな、迅」


「呼ばれたので」


「……あの模擬戦、見ていたぞ」


 ハロルドの目が細くなる。

 老いた眼差しの奥に、職人のような鋭さが宿っていた。


「グレンと互角に剣を交えるとは思わなかった。少なくとも、登録当初の“お前”からは想像できん」


「……修行してきたので」


「ふっ……だろうな。あれは一朝一夕で身につく剣じゃねぇ」


 ハロルドはゆっくりと立ち上がり、机の引き出しからひとつの銀色のバッジを取り出した。


 刻印された紋章は、冒険者ランク「D」。


「――昇格だ。迅」


「……え?」


「模擬戦の記録とギルドの評価委員の判断だ。

 Cランクとまではいかんが、Dランクの実力は充分あると判断された」


 銀色のバッジが、机の上にコトンと置かれる。


 最初に登録したときとは、まるで違う重みを感じた。



「Dランクになると、中級クエストの上位まで受注が可能になる」


 ハロルドは指で地図を指し示しながら続ける。


「遠征や小規模討伐隊への参加も視野に入る。……責任も増えるがな」


「責任……」


「お前には、それを背負う覚悟があるように見える」


 ハロルドはゆっくりと口元をほころばせた。


 最初に登録したときの嘲笑や疑いの視線ではない。


 ――「一人の冒険者」として向けられるまなざしだった。


「受け取れ。お前の力で勝ち取った証だ」


 迅は手を伸ばし、そのバッジを握りしめた。

 冷たい金属の感触が、心に深く刻まれる。


「……ありがとうございます」



 ギルドを出ると、リナと仲間たちが入口で待っていた。

 リリィが真っ先に駆け寄ってくる。


「迅っ! どうだったの?」


「……ほら」


 迅が銀色のバッジを見せると、リリィの目がぱっと輝いた。


「わぁ……Dランク! ほんとに昇格したんだ!」


「やったじゃねぇか!」


 ガルドが豪快に背中を叩き、ルーナが静かに微笑んだ。


「これで……中級の上も受けられる」


「つまり――次の冒険は、今までよりずっと危険で、ずっと先に進めるってことだね」


 リリィの声は弾んでいた。


 彼女だけでなく、三人とも心の底から誇らしげな顔をしている。



「……なぁ、みんな」


 少し照れながら、迅はぽつりと口を開いた。


「ありがとう。ここまで来れたの、みんなのおかげだ」


「バカ言うな」


 ガルドが鼻で笑う。


「お前が立ち上がったからだろ」


「そう。……あの日、あのまま逃げてたら、今日のあなたはいなかった」


 ルーナの言葉に、リリィがこくこくとうなずいた。

 胸の奥に、あの日ヴァロスに言われた言葉が蘇る。


――「剣は勝つためじゃねぇ。守るためのもんだ」


 迅はぎゅっとバッジを握りしめ、前を向いた。


「……よし。次の冒険、行こう」


「「「おうっ!!」」」


 ギルドの喧騒の中、四人の声が重なった。


 あの日とは違う。


 嘲笑ではなく、期待と敬意の視線が彼らの背中に注がれていた。

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