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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『再戦への道』

ギルドの空気が、静まり返った。


 さっきまで響いていた酒場の笑い声が、いつの間にか消えている。


 その中心には、金髪の青年・グレンと、木剣を腰に差した迅が立っていた。


 片や王国ギルドでも名を上げる実力者。


 片や、かつて「ゴミスキル」と嘲笑された冒険者。


 数ヶ月前なら、誰もがその勝負の結果を疑わなかった。


 でも今――その場にいた全員が、なぜか“目を離せなかった”。


「おい、迅。少しはマシになったみたいだな」


 グレンは笑っていた。だがその目の奥は、まったく笑っていない。


 挑発と嘲り、そして――かすかな苛立ち。


「……さぁな」


 迅は淡々と返す。


 余計な怒りも、恨みも、もうない。


 あるのは“芯”だけだった。


 その落ち着いた態度が、逆にグレンの神経を逆撫でしたらしい。


 男の笑みが、冷たく歪んだ。


「ちょっと修行したくらいで、調子に乗ってんじゃねぇよ。お前は何も変わっちゃいねぇ。……ゴミは、ゴミのままだ」


 周囲から小さく笑い声が上がる。


 だが、その笑いに混ざって――「いや、でも雰囲気が違うな」という小さなざわめきも聞こえた。


 グレンも、それに気づいていた。


 彼の中に、あの頃とは違う“何か”がわずかに引っかかっていた。



「グレン。やめろ」


 声を上げたのはリリィだった。


 その横でガルドが拳を握りしめ、ルーナがじっとグレンを見据える。


 三人の視線には、もう怯えも諦めもなかった。


 ――迅を信じている仲間の目だ。


「へぇ、仲間も強気になったもんだな。……まさか、お前ら、“本気でこいつが俺に勝てる”なんて思ってんのか?」


 グレンは嘲笑を浮かべ、ギルド中を見回した。


 数人の冒険者が苦笑するが、それ以上の者が、無言で事の成り行きを見守っていた。


 以前と違うのは、誰も“当然グレンが勝つ”と断言しなかったことだ。



「……いいぜ」


 その静寂の中で、迅が小さく口を開いた。


「……なんだって?」


「模擬戦、やろう」


 その言葉に、空気が一瞬で張りつめた。


 リリィが息を呑み、ガルドが目を見開く。


 ルーナの表情にも驚きが浮かんだが――すぐに、ゆっくりと微笑んだ。


「……やっぱり、そう言うと思った」


 グレンは一拍置いて、鼻で笑う。


「いいじゃねぇか。今度こそ、はっきり思い知らせてやるよ。俺とお前の“差”ってやつをな」


「ちょっと待って!」


 リリィが立ち上がった。


 その瞳は真剣だった。


「迅、本気なの? ……グレンは強い。あなたも知ってるでしょ?」


「……ああ。知ってる」


 迅は静かにうなずいた。


 あの日、地面に叩きつけられた自分の姿を、忘れたことはない。


 悔しさと無力感で、握った拳が震えていたあの瞬間を――。


「でも、逃げない」


 リリィの瞳が揺れた。


 けれど、その目には――あの頃とは違う強さが宿っていた。


「……うん。そうだよね。迅、強くなったもん」


 彼女の手が小さく拳を作る。


 ガルドが「ったく、仕方ねぇな」と肩をすくめ、ルーナは目を細めた。


「……勝ち負けじゃない。これは、迅の戦いだから」


「ギルドの訓練場に来い」


 グレンが声を上げると、周囲の冒険者たちがざわめき始めた。


「おいマジか」「またやるのかよ」「今度はどうなるんだ……」


 あっという間にギルド全体がざわつき、興味と緊張が入り混じった空気になる。


 数ヶ月前とは違い、今度は「一方的な勝負」ではなく「見てみたい勝負」になっていた。


 人々の視線が集中する中、迅は静かに腰の木剣を外した。


 手に馴染んだそれは、ヴァロスと積み上げた日々の証だ。


 負けるかもしれない。


 でも――あの日の自分には、もう戻らない。


「グレン」


「なんだ?」


「俺は……もう逃げねぇ」


 木剣を握り直すと、手の震えが消えていた。


 視界はクリアで、心の芯はまっすぐだった。


「……面白ぇじゃねぇか」


 グレンが口角を上げ、背中の剣を抜く。


 その音が、静まり返ったギルドの中に響き渡った。


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