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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『師との出会い』


 夜の訓練場は、すっかり静まり返っていた。


 人々のざわめきが消え、観客も帰った後。


 残っているのは、傷だらけで膝をついた迅と、冷たい夜風だけだった。


 右腕には鈍い痛みが残り、剣は手から滑り落ちている。


 けれど、地面に突っ伏すことはなかった。


 拳を握りしめ、ただ前を見ていた。


(強くなりたい。……あの差を、埋めたい)


 リリィたちはギルドで回復の手配をしている。


 ガルドとルーナも、声をかけようとしたが、迅の目を見て引き下がった。


 ――今は、何も言わなくていい。そんな空気だった。


 ふと、背後から足音がした。


 砂を踏みしめる、ゆっくりとした重い足音。


「……いい目だ」


 しわがれた低い声だった。


 振り向くと、外套を羽織った男が立っていた。


 灰色の瞳。深く刻まれた皺。


 腰には、鞘に収まった一本の剣。


「……あんた、誰だ」


「ただの酔っ払いだよ」


 男はふっと笑った。


 その笑い方には、不思議な温度があった。嘲笑でも哀れみでもない――ただ、見極めるような目。


「……さっきの試合、見てた。面白かったぜ。ボロボロになっても、目が死んでなかった」


「……勝てなかった」


「当たり前だ。お前とグレンじゃ、力量が違いすぎる」


 その一言に、胸の奥がちくりと痛んだ。

 けれど、迅はうつむくことなく、まっすぐ男を見返した。


「……それでも、負けっぱなしはイヤだ」


 男の目が細くなった。


 風が吹き、外套の裾が揺れる。


 まるでその一言を“待っていた”ような顔だった。


「いいな。そういう目は、簡単には手に入らねぇ。剣を握る奴にとって、何よりも大事なもんだ」


 男はゆっくりと歩み寄り、迅の前に立った。

 その存在は大きく、ただそこに立っているだけで“剣士”だとわかる迫力があった。


「名前は?」


「……迅」


「迅、か。いい名前だ。……俺はヴァロス。昔は“剣鬼”とか呼ばれてたか」


「剣……鬼?」


 ヴァロスは肩をすくめ、軽く笑う。


「まぁ、今はただの飲んだくれだ。だが――剣を教えるくらいは、まだできる」


「……俺に?」


「他に誰がいる?」


 ヴァロスは迅の目をじっと見つめる。


 その視線は重い。けれど、なぜか怖くなかった。


 まるで、自分の心の奥を全部見透かされたような感覚だった。


「俺はな……“才能のない剣士”が一番好きなんだ」


「……は?」


「才能のある奴は、ちょっと負けると諦める。

 でも、才能のねぇ奴は、何度も立ち上がる。……それが剣を握るってことだ」


 その言葉が、まっすぐ胸の奥に突き刺さった。


 ヴァロスは腰の剣を抜くと、地面に突き立てた。


 鋼が砂を裂き、夜の空気が震える。


「教えてやるよ。……“立ち上がる剣”ってやつをな」


 夜風が吹き抜けた。


 剣と剣士と、ひとりの少年。


 この夜が、迅の剣の道の“始まり”になることを、このときまだ誰も知らない。




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