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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『圧倒的な差』

 夜の訓練場は、まるで戦場のような緊張感に包まれていた。


 冷たい風が砂を巻き上げ、木製の柵がぎしりと鳴る。


 冒険者たちが集まり、円を描くように二人を囲んでいた。


「おい、グレンが本気を出すのか?」

「まさか、相手は新人だぞ」

「でも、あの目……遊びじゃねぇな」


 観客たちのざわめきが、夜気に溶けていく。


 中央に立つグレンは、涼しい顔をしていた。


 長身に合わせて作られた上質な剣を軽く肩に乗せ、その身のこなしに一切の隙がない。


 対する迅は、剣を握る手にうっすらと汗が滲んでいた。


「怖いか?」


 グレンが薄く笑った。

 その声には余裕と、見下ろすような冷たさが混ざっている。


「……怖いよ。でも、逃げない」


 迅ははっきりとそう言い、構えを取った。

 グレンの眉がわずかに動いた。


「ハッ……面白ぇ。新人のくせに口だけは立派だな」


「口だけじゃねぇ。俺は――仲間を侮辱する奴は許さない」


 リリィたちの顔が頭に浮かぶ。

 あの酒場で、グレンが吐き捨てた言葉。


> 「大したことねぇ雑魚パーティーだな。女と精霊と獣の寄せ集めか?」


 あの瞬間、胸の奥でなにかが焼けるように熱くなった。

 その炎は今も、消えていない。


「始めっ!!」


 合図と同時に、グレンの姿が掻き消えた。

 速い――風のようだった。


 次の瞬間、金属の衝突音が鳴る。


 迅はとっさに剣を上げ、防御に徹した。


 だが、衝撃は重かった。


 足元が滑り、砂が飛び散る。


「――ちっ!」


 剣を弾かれ、体勢が崩れる。


 グレンの剣が迷いなく肩口に突き込まれ――寸前で止まった。


「終わりだ」


 静かな声。

 観客からどよめきが起こる。


「……まだ、終わってない!」


 迅は地を蹴って距離をとり、息を荒げながら剣を構え直した。

 足は震えている。それでも、立ち上がった。



「なぁ、お前……自分がどれだけ無謀なことしてるかわかってんのか?」


「わかってるよ。でも――それでもやる!」


 グレンが一瞬、つまらなそうに笑った。


 次の瞬間、矢のような突進。


 剣と剣がぶつかるたび、迅の腕が痺れ、息が削れていく。


 まるで壁に挑んでいるようだった。


 どれだけ斬り込んでも、届かない。


 受けても、弾かれる。


 グレンの一撃一撃が、明確に“格”の差を突きつけてきた。


(――強い。これが……グレンの力……)


 肺が焼ける。腕が重い。


 それでも、目を逸らすことはなかった。


「……もうやめとけ」


 グレンが淡々と呟く。


「お前、強くなったつもりか? ゴミスキル持ちの雑魚が」


 その一言が、胸の奥に突き刺さった。


 笑い声があがる。周囲の冒険者の視線も、冷たい。


 リリィが唇を噛みしめ、ルーナの手が震えていた。


 ガルドは斧を握りしめ、立ち上がりかける。


「……ゴミって言うな」


「は?」


「俺の仲間を、俺の力を、バカにすんなッ!!」


 喉の奥から、叫びが突き上がった。


 次の瞬間、再び剣を握る。


 ボロボロの体で、それでも――もう一度踏み込んだ。


 その姿に、グレンの瞳がほんの少しだけ細まる。


 最初の余裕が、わずかに消えていた。



「バカが……!」


 剣が交錯する。


 砂が舞い、風が巻き起こる。


 グレンの一撃を、迅は踏ん張って受け止めた。


 腕が裂けるように痛い。それでも剣を落とさなかった。


 観客席から息を呑む音が聞こえた。


 誰もが予想していなかった。


 ――“倒れない”新人。


 グレンがわずかに剣を引いた。


 その動きに、戦士としての本能がにじむ。


 最後の一撃が振り下ろされ、迅は地面に叩きつけられた。


 血がにじみ、呼吸が苦しい。


 でも、その目は――一度も逸らさなかった。


「やめろ、グレン!」


 リリィが叫ぶ。


 グレンはふっと剣を引いた。


「……今日はここまでだ」


 勝負は一瞬で決していた。


 しかし――“何もできなかった”迅の姿に、誰もがただの負けではない何かを感じていた。


「おい……あいつ……」


「……まだ、立とうとしてる」


 地面に膝をつきながら、迅はふらつきながら立ち上がった。


 剣を支えに、震える足で。


 その瞳は、まっすぐグレンを見据えていた。


 ――俺は負けた。でも、心までは折れない。


 その光を、誰よりも先に捉えた者がいた。



 観客の輪の少し外側――


 粗末な外套を羽織った、年嵩の男が腕を組みながら静かに立っていた。


 灰色の瞳は、剣士のような鋭さを帯びている。


 その目は、倒れてもなお立ち上がろうとする迅に釘付けになっていた。


「……おもしれぇ目してやがる」


 男はぽつりと呟いた。


 周囲の誰も、その存在に気づいていない。


 ただ、その目だけが“強さ”と“可能性”を見抜いていた。


 その夜、迅は初めて“強さ”の壁に叩きつけられた。


 だが同時に、その意志は誰よりも強く燃えていた。


 ――それは、誰かの心に火を灯すほどに。

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