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レベル1の冒険者が世界の調停者になる  作者: pacifian
第1章 『レベルドロップ編』

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『酒場の視線』

 街へ戻ったギルドは、いつも以上に賑わっていた。


 雪狼のボス討伐――それは小さな田舎の街にとって、十分に大きなニュースだった。


「おい、聞いたか? 雪狼の王を倒した奴らがいるらしい」


「らしいじゃねぇよ、もう噂になってる。四人の新人パーティーだってさ」


 ギルドの扉を開いた途端、そんなざわめきが耳に入った。


 その視線のいくつかが、自然と迅たちの方に向けられる。


「……おい、見ろよ。あいつらだ」


 誰かが声を上げると、あちこちから視線が集まった。


 誇らしさと、少しの居心地の悪さが混ざった空気が流れる。


「うわ、すごい……みんな見てる」


 リリィがそわそわと髪をいじる。


 ガルドは腕を組んだまま「気にすんな」と短く言ったが、その口元はわずかに引き締まっていた。


 ルーナは静かに空気の流れを読み、薄く眉を寄せる。


 ――そして、その時だった。


「へぇ……これが噂の“雪狼の英雄パーティー”ってやつか?」


 酒場の奥から、ひときわ目立つ声が響いた。


 視線の先には、金色の髪を後ろに流し、軽く椅子にもたれた青年がいた。


 整った顔立ちと余裕の笑み――だがその目は、笑っていなかった。


「……グレン」


 リリィが小さく呟く。


 ギルドのトップパーティー《グレン隊》のリーダー。


 熟練の冒険者として、若い者たちの憧れと畏怖を集める存在だ。


 彼の後ろには、三人の仲間が控えていた。


 盾使いバルド、魔槍使いシェリス、そして詠唱士ラード。


 どの装備も上級品で、戦場をいくつもくぐり抜けてきたことを物語っていた。


「ずいぶんと騒がれてるじゃないか。……新人のくせによ」


 グレンが軽くワイングラスを揺らす。


 まるで遊び半分のような余裕。


 けれど、その言葉のひとつひとつには“力の差”を前提とした圧力があった。



「別に、騒いでるのは俺たちじゃない」


 迅は静かに言った。

 グレンはその言葉を聞くと、ゆっくりと立ち上がった。


「……面白いな。口の利き方も覚えたばっかのヒヨッコのくせに」


「大したことねぇ雑魚パーティーだな。女と精霊と獣の寄せ集めか?」


 近づいてくる。


 一歩ごとに、周囲の空気が張りつめていく。

 彼の周囲の空気には、強者特有の“当たり前の自信”が漂っていた。


「おいグレン、やめとけよ」

「ヒヨッコいじめか?」


 仲間たちの軽口。

 しかしそれもまた、彼らがこの場を“遊び”として見ていることの証拠だった。



「俺たちは、ただ依頼をこなしただけだ」


「……そうかよ。じゃあ――実力を、見せてみろよ」


 グレンの声が、低く、よく通った。


 彼の視線が、まっすぐ迅を射抜く。


 その瞬間、周囲がざわめいた。


 まるで“これから起こること”を全員が理解しているような空気だった。


「ちょっと待って!」


 リリィが慌てて一歩前に出る。


 しかしグレンは、彼女の存在をまるで無視したかのように視線を逸らさない。


「……やめとけ、迅」


 ガルドの声が低く響いた。


 彼もまた、わかっている。


 ――この差は、まだ大きいと。


 それでも――迅は目を逸らさなかった。


「……いいぜ」


 静かな声だった。


 誰もが意外そうに息を呑む。


 グレンの口元に、余裕の笑みが浮かんだ。


「ほぉ……勇気だけはあるみてぇだな」


「ギルドの裏の訓練場だ。すぐに始めようぜ」


 そう言い残して、グレンは背を向けた。


 仲間たちが嘲笑を浮かべながらついていく。


 ギルドの酒場は一気にざわめきに包まれた。


 誰もがこの対決を見たいと思っていた。


 圧倒的実力差――その“見世物”を。


「……迅」


 リリィの声が小さく震える。


 ルーナは唇を噛み、ガルドは拳を強く握っていた。


 迅は深く息を吸い、拳を握った。

 胸の奥が熱く、苦しいほどに脈打っていた。


(わかってる。勝てないかもしれない。それでも――)


 あの夜、仲間がくれた言葉が胸の奥に蘇る。

 逃げる理由なんて、もうない。


「行こう」


 迅の声に、三人は黙ってうなずいた。

 彼の背中を追って、訓練場へと足を踏み出す。



 冷たい夜風の吹く訓練場。


 その中央で、二人の青年が向かい合った。


 ギルドの空気は、もう酒場の温もりではない。


 ――闘いの匂いが満ちていた。

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