『冬の狩り』
ギルドの扉を押し開けると、外の冷たい風が吹き込んだ。
街は冬の入り口に差しかかり、屋根にうっすら雪が積もっている。
暖炉の熱が心地よいギルドの中で、掲示板の前はいつも以上に混雑していた。
冬季限定の狩猟クエストが増える時期だ。
「……これ」
リリィが指差した依頼書には、雪山地帯での“雪狼”討伐とあった。
推奨人数は3〜4名。
装備が整っていれば、今の4人でも十分にこなせるレベルだ。
「雪狼って……確か、連携が速い魔物だよな」
ガルドが依頼書を覗き込みながら低く呟く。
雪狼は寒冷地帯に生息する魔物で、群れを組み、連携で獲物を追い詰める。
一体一体の力はそこまで強くないが、油断すれば一瞬で囲まれる厄介な敵だ。
「……ちょうどいい」
迅は静かにそう言った。
あの炎の洞窟で自分の無力さを突きつけられ、仲間に支えられた。
今度は――今度こそ、自分の足で踏ん張る番だと思っていた。
「よし、受けよう。行こうか」
「了解!」
「寒いのは苦手……でも、頑張る」
「よし、決まりだな」
受付嬢エマに依頼書を差し出すと、いつものように柔らかく微笑まれた。
「雪狼の討伐ですね。雪山は冷え込みが厳しいです。……くれぐれも、油断しないように」
その声に、4人は力強く頷いた。
雪山の麓にたどり着くと、空気が一変した。
吐く息は白く、足元は深い雪に覆われている。
風は刺すように冷たく、体温を容赦なく奪っていった。
「……寒っ! なにこれ、寒さの暴力ってやつじゃん!」
リリィが肩を震わせる。
ルーナがふわりと手を掲げると、やさしい風が4人を包み、冷気を少しだけやわらげた。
「……風で、寒さを緩和する。長くはもたないけど……少しだけ」
「助かる……!」
ガルドは一歩進みながら、雪を踏みしめる音を確かめていた。
「足跡……群れだ。5体か、6体。近い」
雪狼は素早い。先制を許せば一気に不利になる。
迅たちは無言で視線を交わし、自然と戦闘態勢に入った。
森の切れ間。
雪の上に影が滑るように走ったかと思うと、狼の遠吠えが響き渡った。
次の瞬間、白銀の毛並みをした雪狼の群れが木々の合間から飛び出してきた。
「前は俺と迅で抑える!」
「了解!」
ガルドと迅が並んで前に出た。
雪の地面は滑りやすいが、迅は何度も訓練を重ねた身体で踏ん張る。
迫り来る雪狼の牙を受け止め、ガルドの斧が閃いた。
「《ファイア・ショット》!」
リリィの炎弾が空を切る――冷気に少し弱まるが、それでも威力は十分だ。
ルーナの風が弾道を補正し、狼の背後を狙い撃った。
「二体、落とした!」
ガルドが叫ぶ。
迅は横合いから突進してきた雪狼の爪を、ぎりぎりで受け流した。
足元が滑って転びそうになる――が、踏みとどまった。
(……ここで倒れたら、あのときと同じだ)
短剣を逆手に握り、狼の脇腹に深く突き立てる。
冷たい血が雪に飛び散った。
「よし!」
残りの雪狼が包囲を狭める。
だが今の迅たちは、炎の洞窟の頃とは違った。
「風、左!」
「……《風刃》!」
ルーナの風が狼たちの足元を切り裂き、動きを止める。
その一瞬でガルドが斧を振り抜き、リリィが連続魔法を叩き込む。
迅もまた、横から突き込み、逃げ場を与えなかった。
群れの連携を上回る、4人の呼吸。
それはもう「たまたまうまくいった連携」ではなく、意識して噛み合った“戦い”だった。
「終わりだッ!」
ガルドの斧が最後の雪狼を打ち倒し、血しぶきが白銀の雪に咲いた。
戦いが終わると、4人は雪の上に座り込んだ。
吐く息が白く空に溶けていく。
「はぁ……寒い……でも、勝ったね」
「前より……連携が速くなってた」
「お前も動き、悪くなかったぞ」
ガルドがぼそりと呟く。
それは彼なりの最大級の褒め言葉だった。
迅は小さく笑って、息を吐いた。
「……ありがと」
【経験値ボーナス獲得】
【レベル:7 → 8】
あの炎の洞窟で感じた“無力感”は、もうない。
まだ強くはなれていない。
けれど――少しだけ、自分の居場所があると感じられた。
「さて……街に戻るか」
帰り道、雪が静かに降り始めていた。
白い森の向こうに、かすかな煙が上がっているのが見える。
「……あれ?」
リリィが目を細めた。
煙は山の斜面の奥、雪に埋もれるように建つ集落の方角から立ち上っていた。
「……集落?」
ガルドの表情が一瞬、固まった。
彼の目の奥に、一瞬、懐かしさと緊張がよぎる。
「行ってみよう」
迅の声に、ガルドは静かに頷いた。
4人は雪を踏みしめ、その小さな里へと足を進めていく。




