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星空のアルカナ  作者: 綴り手のツヅ
愛された星空
3/10

空色の少女

 あれから、父さんまたは母さんがいる場でのみブーストの練習を続けて大体二週間。

 ようやく体に思考が追い付いてきた。

 なんとか壁とかにぶつけるまえにブレーキかけられるようになったし、出したいパワーの調整もできるようになった。

 おそらく、ブーストを使っている状態なら100メートルは5秒くらいで走れる気がする。


 そして、ブーストを使った状態で父さんとの組手が始まった。

 近接戦闘は覚えておいて損はないと言われ、少し前から体術を練習している。

 父さんが教える体術は地球の合気道に近いもので、魔力の流れを読んでカウンターや受け流すことが得意な柔の武術。

 アルカナ家に伝わる武術らしい。

 まぁ、母さん曰くアルカナ家は父さんの代から貴族になったらしいので伝統というには歴史が浅く、実質父さんのオリジナル流派とのこと。


 父さんのことを知る度に疑問に思うのだが、父さんって本当に何者なんだろう。

 戦闘はプロ並みで、魔道具を作り出せるほど器用で何気に知恵もある。

 もはやなんでもありな人だが、父親だというのだから安心感がすごい。

 そんな父さんを尊敬しないわけがない。


 まぁ、そんな父さんに完膚なきまでボコボコにされたところだけど。

 いやさ、あれなに?

 隠れて練習した一点集中瞬間ブーストで攻撃のインパクトの威力を高めた拳を手のひらで受け流されて吹き飛ばされたんだけど。

 すぐに体勢を立て直したあとに放った蹴りは直撃したのに微動だにしないどころか俺の足のほうが痺れたし。

 そのとき山をイメージしたわ。

 不動の山を。

 で、次の瞬間には地面に叩きつけられてKO。

 ガチで勝てるイメージが沸かない。


「ぶくぶくぶく」

「こら、行儀が悪いぞステラ」


 屋敷からすこし離れた場所にある温泉で不貞腐れていたらお叱りが飛んできた。

 大人しく湯から口を離してジト目で父さんを見つめる。


「ステラは将来は何をしたい?」


 そういえばといった様子で父さんが聞いてくる。

 二か月後に七歳になり、この前から魔法と武術を習い始めたということもあって父親として気になるのかもしれない。


「そう言われても何も思いつかないよ」


 正直、本当になりたいものが思いつかない。

 魔法も体術もせっかくだからという理由で学んでいるだけでその専門職に就きたいとかは思わない。

 強いて言うなら冒険者や旅人とかになって世界を見て回りたいくらいだが、当然死の危険がある。

 前世のこともあって早死にだけは勘弁なので保留にしている。


「そっか」


 父さんは何かしらの職業を勧めることをしなかった。

 余計な詮索をしないところは普通にありがたい。


「夢を決めるのはまだまだ先でもいいし、どんな夢であれ俺とルナは否定しない。好きに生きるんだぞステラ」

「うん!」

「少し話は変わるが、学園に興味はないか?」

「学園かぁ」


 あ、やっぱりあるのね学園。


「正直、勧めたくはないが世界を知るのにうってつけの場所だからな」

「なんで勧めたくないの?」


 どういうことなんだ?

 前世の常識を持ってくるわけではないけど普通は学校に行くのを勧めるものだと思うけど、違うのか?

 理由を求められた父さんはなんて言えばいいのかって感じで苦い表情をしている。


「しきたりやらなんやらが死ぬほど面倒」

「あぁ~」


 確かに父さんなら嫌がりそうだ。

 オリジナルの体術を編み出したとはいっても、なんとなく父さんは型にハマらない自由なタイプだ。

 使えるものはなんでも使ったり、臨機応変に対応できる父さんにとって縛られるのは嫌なんだろう。


「おまけに近づいてくる奴らは金目当てか名声目的、体目的がほとんど……辟易するぞ?特にステラの状況ならな」


 さきほども説明したが、アルカナ家は父さんが爵位を受け取り貴族になっている。

 その異例な事態を称える者もいれば面白くないと不満な者もいて、良くも悪くも有名なのだ。

 それに一応は貴族なので金はある。


「だから勧められないんだよなぁ…それより冒険者になって迷宮とかで実践を積むのがいいんだが……」

「それはちょっと……」

「死ぬ危険性があるうえに俺に頼り切りになるからそれもできない……やっぱり学園に通ってみるか?」


 父さんと迷宮探索となったら俺自身のレベルアップが望めない。

 強すぎるし。

 父さん、魔力だけでそこらへんの魔物は倒せるもん。


「あれ、そういえばステラ……お前、友達いたか?」

「…………あ」


 思い返せば、俺は家から出て他人と関わったことがほとんどない。

 何度か母さんの買い物に付き添った程度で、同年代の子供と関わったことがない。

 オーラを覚えた頃からずっと庭でブーストを練習していたから、遊ぶことをしていなかった。

 当然、そんな俺に友達が出来るわけがないよね……


「すまんステラ…お前が魔法を教えてほしいって言われて嬉しくて熱中してそういうことを完全に忘れてた……そうだよな。お前くらいの年齢なら馬鹿をして遊んでいるよな」


 珍しく父さんの背中が小さい。


「よし、さっそくだ!明日の稽古は中止して、町に出かけてこい!」

「ええぇぇ!?」






 と、いうわけで。

 話を聞いた母さんにノリノリで化粧もされたし高そうな服も着せられた。

 父さんからも遊ぶための代金として金貨を五枚お小遣いとして持たされた。

 ちなみに金貨五枚は地球換算だと約五十万だ。

 いや、六歳の子供になんて大金を持たせるんだよ父さん。

 母さんもTHE貴族みたいな服を着せるのやめてくれ。

 友達を作るのが目的なのにこれじゃかしこまるだけだって。

 とにかく速攻で服屋に入ってちょうどいい服を買って着替えた。


 というわけでやってきました!町!

 ヨーロッパみたいな建物がならび、道に沿うように露店からは焼き串のいい匂いやアクセサリーの輝きがある。

 大人たちも子供たちもまるで祭りのように騒いでいて、とても賑やかな場所だ。

 うん、めちゃくちゃ焼き串食べたい。


 ちなみに町の名前はアルタイル領にあるアルシャインという名前の町。

 その町で俺は友達を作らないといけない。

 いやどうやって?

 前世では流行を話題にして関わりに行けたけど、こっちの世界の流行なんてわからない。

 実質引きこもり状態だった俺が子供たちと話ができる話題ってなんだ!?


 一旦考えるのはやめよう。

 焼き串を一本頼んで、適当な場所でのんびりしよう。


「まいどあり~」


 はい。買ってきました焼き串。

 晩御飯が入らなくなるかもだけど、気にせず贅沢に3本+2本。

 なんか母さんにいつも世話になっているからと2本おまけしてもらった。

 嬉しいは嬉しいが露店のおっちゃん!今じゃない!


「うっま」


 ベンチに座って一口頬張る。

 口の中に特製の旨辛のたれと肉汁があふれだし、旨味が頬を刺激する。

 その旨味は熱で更に高い次元の旨味に昇華されており、実に満足する味だ。

 そして、なんといっても肉のこの厚さ!

 噛み応え抜群でちょうどいい硬さ!

 噛めば噛むほど肉汁が沸いてきてたまらない!


「なにあの子、とっても美味しそうに食べてる!かわいい!」

「そ、そんなに美味しいのかな……」

「買いに行ってみよ!」


 この時、焼き串に夢中になっていた俺は気づく術はなかったのだが、美味しそうに食べる俺を通行人が見てさっきの焼き串の露店に人が殺到したらしい。


「ふぅ、ごちそうさま」


 とても満足できる味でした。

 地球の味がたまに恋しくなるけど、こっちはこっちで悪くない味で満腹だ。

 なんか人通りが激しかった気がするけど、まぁいいか。

 それにしても流石に6歳の体じゃぎりぎり3本で限界だ。

 無駄にはしたくないけど、どうしても食べる気にはならない。

 こんなときのために氷属性の魔法でも覚えておくべきだったな。


「…………ジュルリ」


 どうしようか。

 いま気づいたけど、右後ろの建物の影から誰かに見られている。

 前までなら気づかなかったけど、父さんとの稽古でそういった気配を感じれるようになってそこで子供が俺を見ているのが分かった。

 うーむ。

 視線的には俺というより、持っている焼き串のほうに注がれている気がする。


 おそらく同年代くらいの子だし、あげる代わりに友達になってと誘うべきだろうか?

 でもそれって物で釣っているし、よくないような……

 とはいえ焼き串の方もこのままにはできないし……

 仕方ないか。


「えっと、そこの君」

「!?」

「僕はもうお腹いっぱいだから、代わりに食べてくれない?」

「!」コクコク


 あまり喋らない子なのかな?

 隠れていた子はおずおずと物陰から姿を現して俺の隣にまでやってくる。

 フードをかぶっているのでうまく顔が見えないが、空のような綺麗な長めな髪と体つき的に女の子だとわかる。

 いや、決して事案じゃないからな!

 6歳の子供がお腹を空かせた女の子にご飯を分けてるだけだからな!


「いただきます」


 女の子は礼儀正しく手を合わせて挨拶をして、焼き串にかぶりついた。

 さて、これからどうしよう。

 お金はたんまりというかありあまってるけど、お金で友達を買うのは胸糞悪いし後々その子達の人生を狂わせてしまうかもしれない。

 当然だけど、幼い頃からお金の魅力に取り憑かせるわけにはいかないのだ。

 責任とりたくないし、強請られるのもいやだし。

 できるなら対等な関係を築きたい。


 この子はどうだろう?

 いまはこの子しかいないので、様子を見るために隣の子を覗いてみる。

 いっや丁寧だな。

 手で串を持って食べているのに、妙に所作が綺麗で上品に見える。

 どこかのお嬢様だったりするのだろうか?


 ん?

 急に女の子が食べるのを止めて俯いた。

 どうしたんだ?


「あ、あの」

「?」

「み、みられるの…恥ずかしい、です」


 かわいい。


「わかった。というか俺はこのままどっかに行くよ。ばいb」

「だめ!いて!」

「う、うん……」


 え、なにこの状況。

 一瞬見えた服装の装飾と彼女の所作から、貴族またはその関係者だろう女の子に離れないでと捕まり

 腕を組まれて座らされている。

 妙な体勢だというのに彼女はたれをこぼすことなく器用に焼き串を食べている。

 密着してることもあって彼女の体温と柔らかさが直に伝わってくる。


 いやいやいや!なにも考えるな!

 女の子にその邪な考えは失礼すぎる!


 あ、お願い!

 通行人の皆さん!その微笑ましいものを見る温かい目で見ないで!?

 この子が食べているところを見られて恥ずかしがったように俺も恥ずかしくなってくるんだけど!!

 顔あっつ!


「ごちそうさまでした」


 そんなこんなで女の子が残りの焼き串を食べきるまでとにかく素数を数えていましたはい。

 途中途中わからなくなって暗算で1とその数以外に割り切れないか確かめたりしたわ。


 一旦それはもう置いておいて、当初の目的を果たすとしよう。

 きっと友達になってくれるはずだ

 まずは自己紹介だ。

 彼女も貴族っぽいけど、とりあえず俺のことは貴族であることを隠しておこう。


「えっと、遅れたけど俺の名前はステラ。よろしく」

「私は『シエル』。よろしくお願いします」


 シエルか。

 確かフランス語で空って意味だったっけ。

 空みたいに綺麗な髪にピッタリの名前だ。


「…………」

「…………」


 沈黙。

 き、きまずい…

 互いに喋る内容がないんだろう。

 俺は何を話そうか視線があっちこっちに行ってるけど、シエルの方はじっと俺のことを見ている。

 魔法について話してみるか?

 それは話が唐突すぎて引かれそうだ。


 友達ってどうやって作るんだっけ。

 前世ではなんとなく自然にできていた気がするけど、改めて考えると全然わからない。

 焼き串を分けたあとって何話すんだ?

 そんな俺を、シエルはじっと見ていた。

 なんだろう。

 俺、変な顔でもしてるのか?


 ちなみにこの後に友達になってほしいと素直にお願いしたけど盛大に噛んでしまった。

 緊張しすぎた!

 いひゃい……






ーーーーー


 不思議な少年だと思った。


 月光を反射するような銀の髪に蒼穹のごとく澄んだ瞳。

 着ている服も派手な装飾はないが清潔感がよくわかり、おそらく裕福な家庭またはこの土地の領主の関係者なのが推測できる。

 そんなステラと名乗った少年は、自分と同じくらいの年齢だろうに妙な落ち着きがあった。

 いや、いまは私が黙っているせいで気まずそうにしているしあわあわしている。

 よくよく考えればおかしい気もする。

 偏見まじりではあるがこのぐらいの男の子は生意気を言って相手との距離感を計れず気まずいと思うことはあまりないだろう。

 そんなこともあいまって、この少年は不思議だった。


 それに、何も音も立ててないし完璧に隠れていたはずなのになぜステラは気づけたのだろうか。

 ちょっと焼き串が美味しそうで涎がでてしまったのは認めるけど……

 剣士になるために鍛えているのかもしれないと考えるが、その手には剣だこはなくて綺麗な手だった。

 でも、恥ずかしかったが腕を組んだ時にステラの体が年不相応にがっしりしていることに驚いた。

 少し過剰な表現にはなるけど、まるで大木に抱き着いたように感じてとても安心した。


 正直、ステラのことが気になっていた。

 一緒にいて落ち着く同年代の男の子は初めてだ。

 焼き串を躊躇いなくくれた優しさと、容姿のかっこよさにこの時に一目惚れに近い興味を持っていたのかもしれない。


 私がステラのことをぼーっと見ていたら、彼が口を開いた。

 どうやら町には友達を作るために来ているらしく、最初の友達になってくれないかとお願いされた。

 噛んだけど。

 断る理由もなかったのですぐに了承した。

 彼は喜んでくれた。

 その嬉しそうな表情を見て、心に痛みを感じる。


 気づいている。

 きっとステラは私がローブをかぶって髪を隠し、着ている服が高級品で何か事情がある少女だってことを。

 気づいたうえでステラは知らんぷりをしてくれて、友達になってと誘ってくれている。

 やっぱり不思議な少年だ。


 そして、私たちは夕暮れになるまで町の中で遊んだ。

 ステラは母親の買い出しに付き合ったことで主要な馬車は知ってるらしく慣れた足取りで町を案内してくれて、いろんな景色を見せてくれた。

 ここのパン屋のバターロールはとっても美味しいんだ!と私を気遣ってあえて多めに注文して持たせてくれたし、図書館で私の一番好きな事実をもとにした英雄譚などの色んな本を読んでくれた。

 他にも釣りの方法や木登りを教えてくれて、特別に魔法を見せてくれた。

 あまり珍しいわけではないけど無詠唱で魔法を使ったときは流石に驚いたけど。


 町の人も彼に対する態度は特別温かかった。

 挨拶は必ずしていたし、私が一緒にいるのを見てステラに彼女ができた!と大人たちが盛り上がっていた。

 必死に訂正するステラを見て、そういう可愛い一面もあるんだと私も笑ってしまった。

 おそらく生まれ持っての才能なんだろう。

 彼自身の人柄や雰囲気に誰しも魅了されて愛される才能。いわゆるカリスマに近いのかもしれないものがステラにはある。


 そんな彼との時間は本当にあっという間だった。

 名残惜しくはあったけど、彼を引き留めるのも悪く今日は別れた。

 そう、あくまでも今日は。

 約束してくれたのだ。

 また、明日遊ぼうって。

 それだけで私は救われた気がした。


 だから、今は彼が持たせてくれたパンでも食べていつもの場所で夜を過ごそう。


 ふふ、なんだか今日の夜はいつもよりもなんというか


「寂しくない…」


 星の温かい光があるからかな?

 そう思いながら空を見上げる。


 この時の私はまだ知らない。

 ステラとの出会いが私のすべての人生を変えることを。

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