父の背中
魔法。
だいたいのイメージは前世の世界と大差はない。
といってもすべてフィクションの中での話だけども。
こっちの世界での魔法は基本的に『攻撃魔法』と『汎用魔法』の2種類に分かれている。
『攻撃魔法』はそのままの意味で、対象を攻撃するために用いられる。
『汎用魔法』は攻撃以外の用途で使われる魔法が分類される。
攻撃魔法はドラ〇エとかのRPGでみられる直接攻撃する魔法のイメージと合致している。
基本の火、水、風、土の4属性とそれらから派生される、氷や雷の派生属性をまとめて攻撃魔法に分類される。
そして、汎用魔法のほうはいわゆる便利な魔法ばっかり。
例えば、身体能力を強化する魔法や空を飛ぶ魔法。
父さんの錬成魔法や母さんが得意な回復魔法、結界魔法などがすべて汎用魔法に分類されている。
そして、当然だが魔法を使うには魔力が必要だ。
魔力量は世間一般では15歳までで成長が止まるらしく、それ以降は例外を除いて何をしても増えない。
で、だ。
どうやって魔力量を増やすのか?が気になるところ。
父さん曰く、筋肉と同じだって。
傷ついた筋肉が修復されてより強靭になるように、魔力を使い切ることで増やすらしい。
その説明を聞いた時に思った「魔法はもっと神秘的なものじゃないの?」と思った。
だって、もっとこう……血筋だったり才能とか星の巡りとか。
そんな筋トレみたいな理屈と誰が思うのか。
ちなみに一番効率的なのがそのまま身体能力強化魔法の練習にもなる魔力を纏う技術「オーラ」。
実際にやってみるととんでもなくキツイ。
ひたすらにキツイ。
魔力を纏うだけだというのに常に全身から力が抜けていく感覚がする。
無限マラソンをしているみたいだ。
おまけにイメージをし続けないとすぐに霧散してしまう。
父さんはそれが完璧だ。
素人目だけど、父さんがそれを極めているのがよくわかる。
なぜ、それが分かるのかというと、父さん……魔力を纏うどころか魔力だけで岩をみじん切りにした。
それを目の当たりにした俺の感想は、どこぞの悪徳魔法少女スカウトのようになったとだけいっておこう。
そう、「わけがわからないよ」と。
説明では、魔力を伸ばして剣の形にし、それを複数作って鞭のように振り下ろしただけ。
もう一度言うが、わけがわからない。
なんなら母さんも苦笑いしていたし、多分できるのは父さんくらいなのかもしれない。
とりあえず、俺に定められた目標は手刀でいいから岩を割ること。
まだ理解できる範疇だけど、やっぱり理解できない。
ちなみにそれくらいならできます!と目の前で母さんが岩を軽々粉砕した。
オーラさえ体得すれば、この世界なら誰でも超人になれるようだ。
それはそれとして、四歳の頃の俺が魔法を使うまでの道のりはオーラを体得することから始まった。
そして現在。
六歳になった俺は、完璧ってほどではないがオーラを体得した。
身体能力も体得の過程で鍛えられ、100メートルを10秒以内に走れるようになったし軽いジャンプで4メートルは跳べる。
もちろん、岩を真っ二つには”できなかった”。
いや、真っ二つはできなかっただけで粉々にはできる。
父さんみたいに斬ることが異常なだけで……
ちなみに、オーラの体得の間に魔力の量は、同じ領地の15歳の子供の3倍くらいには増えてもいる。
地味に才能があったらしい。
正確には潜在能力が高かったようだ。
このまま成長すれば最終的には俺を迫る、もしくは追い越すかもしれないと診断した父さんが嬉しそうに笑っていた。
最初に練習する魔法は身体能力強化魔法「ブースト」。
戦闘では近接でも後衛でも重宝する魔法だ。
とはいえ、オーラを体得している今、それほど難しい魔法ではない。
オーラで漂わせた魔力をだいたい同じ割合で全身に纏うだけで成功する。
イメージ的には、靴を履いている状態がオーラで靴ひもをしっかり結んだ状態がブーストって感じだ。
案外、習得は簡単だった。
ただし、問題があるとすれば
「うわ!?」
「おっと。大丈夫かステラ?」
「うん……頭ぶつけたせいで痛いけど、大丈夫」
頭を木にぶつけてしまった。
心配した父さんが俺の頭にすかさず回復魔法をかけて、手のひらから淡い緑色の光が漏れる。
引いていく痛みとともに、にじみ出る涙の粒をぬぐい取って大丈夫と返事する。
ブーストを使った時の最大の問題。
それは、急に高まった身体能力のコントロールができないってこと。
走るための最初の一歩が普段通りの感覚で進むと普段の五歩分進んでしまったり、単純なスピードが比にならないほど上がっているせいで認識するよりも早く移動してしまう。
また、素の身体能力が前世の地球基準だと超人レベルになってることもあって加減が難しくなっている。
さっきもその影響で踏み出した一歩目が思いのほか強く、気づけば木に衝突していた。
「うーん。こればっかりは自分の感覚を掴むしかないな」
「そうだね…少しずつ慣れていくよ」
「だが、初めてのブーストであの出力は大したものだ。それに、回復魔法をかけたとはいえそんなに痛くもないだろ?」
「そういえば確かに」
木にぶつけた部分を触ってみる。
父さんが言ったように痛みはすでに引きつつあって、たんこぶとかもできていない。
普通の状態なら、あの勢いで衝突したらたんこぶどころか血が流れてもおかしくはないのだけど。
「ブーストは防御力も上昇させてくれるんだ」
「へ~」
「あくまでも気休め程度。一応、応用技として硬化魔法があるぞ?あまり難しくはないし、覚えておいて損はない」
父さんは自らの腕を腰に掛けている剣で斬った。
普通であればボトンと落ちて地面に赤い血の池ができるところだが、ガキンッ!と人体から鳴るにはおかしい金属音を発して跳ね返した。
凄いのは凄いのだけど、前世の記憶があってかつ同年代の子供よりも賢くて敏いと思われていても一応は六歳の子供。
そんな子供にトラウマ確定の惨事を見せてしまうと考えなかったのだろうか……
いや、魔物がいる世界なのだし血には慣れておかないといけないかもしれない。
とはいえ心構えくらいはさせてほしい。
にしても躊躇いなく自分を斬ったのを見て、さすが異世界なんだなと思った。
「ブーストと硬化魔法はおいおい練習していくとして、攻撃魔法を教えてほしいんだけど。いい?」
「いいぞ。だけど……」
ぶっちゃけ一番覚えたかった攻撃魔法。
せっかくのファンタジー世界なのだから、派手な魔法を覚えて使ってみたい。
だから父さんにお願いしてみたけど、肝心の父さんは屋敷のほうを見ていた。
そのときに俺のお腹が鳴る音がして、もうお昼の時間だと気づく。
「先に腹ごしらえだな」
「うん!」
先に屋敷に向かう父さんの背中を見て思う。
まだ具体的な強さはわからないけど、的確な指導ができるぐらいの実力者であると。
そして、その背中にいつか追い越したいと。
この世界での俺ことステラの母親。
『ルーナ・アルカナ』こと、愛称『ルナ』はびっくりするほど家事が上手だ。
結婚前は良家で大切に育てられたらしいけど、両親に隠れて幼いころにメイド長に叩き込んでもらったらしい。
そのおかげでアルカナ家の屋敷は綺麗に保たれている。
そして、家事の中でも料理はずば抜けて上手い。
日本人の舌をもつ(転生したからない)俺が一瞬で屈服させられた。
恐ろしい腕前……多分お店にだせると思う。
そして、父さん。
『ノクティス・アルカナ』こと、愛称『ノクス』は母さんとめちゃくちゃに仲がいい。
今だと、母さんの料理を絶賛していて、聞いている母さんはたまらなく嬉しそうにほほ笑んでいる。
バカップルがよくやるあーんよりも、この距離感のほうがイチャイチャしている気がする。
互いが互いを信頼し、愛しているのが伝わって見ているこっちはいたたまれなさはあるものの嬉しくはある。
そんな二人を見ながら、俺は攻撃魔法を覚えるにあたってふと気になっていたことを質問する。
「あ、そういえば父さんと母さんの適正属性ってなに?」
適正属性というのは、簡潔に言うとゲームキャラの得意属性と苦手属性のこと。
こっちでは適正属性であれば、魔力の効率があがり、威力も上昇する、逆もしかりで適正でない属性ならば効率や威力も下がる。
攻撃魔法を覚えるうえで必須の情報だ。
ちなみに、俺は基本属性の風らしい。
「俺は土、ルナは水だな」
「へぇ~。例えば、どんな感じの属性なの?」
「ここで土は使うわけにはいかない。ルナ、頼んでもいいか?」
「もちろんです。ステラ、水属性の魔法は正直な話、攻撃力はそれほどないのですよ?」
それは前世からゲームで度々思っていた。
一瞬で滝のような大量の水を落とすならまだしも、水の球をぶつけられると水風船くらいの感覚しかなさそうなのに。
なのに、よく基本属性に水が挙げられてちょっと不思議に思っていた。
十中八九、火を消せるのは水だからという理由だろうけど。
「その分、汎用性に長けています。たとえば旅の途中でいつでも水を確保できますし、圧縮することで例外的に貫通力を持たせて攻撃もできます。他にも単純な物量でごり押しも湖を利用したり、流れを強くすることで盾にすることもできます」
分かりやすく伝えるために母さんは指の先で器用に渦を作ったり、盾の形に変えたりする。
そして指先をそのまま開いているまどに向けて圧縮した水のレーザーを撃って、さっき訓練中に俺が頭をぶつけた木に命中させた。
いや、狙撃うっま。
てか、貫通どころかそのままメキメキって倒れたんですけど。
「対して、土は応用が利かない代わりに質量のごり押しが得意な魔法だ。ただし、範囲が広すぎて実演はできないけどな」
先日、父さんの仕事に着いていったときに魔物からの攻撃を土壁で防いでいたのを見たことがある。
おそらく、土属性は攻撃以外にも結界魔法以外で唯一の防御系魔法なのだろう。
水と土は分かったのだが、俺の風はどういった評価なのだろう?
ゲームとかだと風の塊をぶっ飛ばしたり、斬撃をとばしたり、竜巻を作ったりがイメージできる。
うん、とりあえず聞いてみよう。
「じゃあ、俺の風はどうなの?」
「「基本属性の中でもっとも当たり属性」」
めちゃくちゃ食い気味に答えられた。
うそやん。
定番かつ主人公っぽい火じゃなくて風なんかい。
「風属性は範囲攻撃に優れ、鍛えれば斬撃として攻撃することができます。おまけに風ですので視認がしにくいアドバンテージと防ぐ手段が限られるのが大きな利点ですね」
「おまけに応用することができれば空を飛ぶことだって、音を極限まで抑えることもできるうえに派生属性も優れている。他属性との相性もいい属性だな」
思っていた以上に風は有用だった。
ん?
父さん、最後に何か気になることを言ってなかった?
属性の相性って。
「属性の相性?やっぱりあるの?」
「いや、攻防に対する相性じゃないんだ。魔法と魔法を組み合わせる混合魔法で風は相性がいいってこと」
「例えば、風と火の混合で炎の竜巻を作ったり、岩と組み合わせれば礫を高速で打ち出すこともできますね」
いわゆる魔法と魔法の合体ということか。
確かに、風ならほかの属性とも相性が良さそうだ。
火と水とか蒸発か消火しそうだし、水と土だとどろどろになりそうだし。
何はともあれ、当たり属性を引けたようで良かった。
ただし、逆にできることが多すぎて持て余さないか心配だ。
まぁ、そこはプロの父さんに一任すればいいか。
土が適正属性とはいえ、他の属性えお人並以上に使える人だし。
素人が難しいことに手を出すのはどの世界でもやめた方がいいだろう。
それにしても、俺の父さんはもしかしなくても世界的に見てかなりの上澄みなんじゃなかろうか。
まさか元勇者かその仲間だったり……そんなわけないか。
ただただ愛妻家な強い人間ってことにしておこう。




