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みるきー先輩

続きです!読んでください!

「え……? 美玲先輩のこと知ってる……」

驚きのあまり、俺の口からぽろりと疑問が漏れる。美玲先輩は「部員は私1人」と言っていたはずだ。それにこの子は美玲先輩のことを親しげに呼び捨てにしている。


「美玲先輩の先輩……ですか……?」

俺がそう呟くと、彼女の整った眉がピクッと跳ねた。小柄な身体をさらに小さく折り曲げるようにしてジロジロと俺を睨みつけてくる。


「何でそんなに自信なさげなのよ。君、今私のこと、美玲より年下の子供か何かだと思ったでしょ。ねえ」

「あ、いや、その……雰囲気とかで同級生かあるいは……」

「はあ!? 私、これでも文学部4年!美玲より2つ上の立派な先輩なんですけど!子供扱いすんな!」

「4年生……!?すみません……!」

彼女はぷくーっと不満そうに両頬を膨らませ、ツカツカと俺に歩み寄ってくると、腰に手を当てて見上げるように睨んできた。怒っている姿すらどこかマスコットのようで可愛いけれど、漂う先輩オーラと、ちょっとした威圧感に俺は再びたじろぐしかなかった。


「ちょっと!また小さいとか思ったでしょ!目の動きでバレバレなんだから!」

「あ、いや、そんなことは……!」

ずいずいと距離を詰めてくる4年生の先輩に、俺が完全に壁際まで追い詰められた、その時だった。


「――お待たせ衣織くん! 学生課でちょっと手続きが長引いちゃって……って、えええ!?」

勢いよく部室のドアが開いた。両手にコンビニの大きな袋を下げた美玲先輩が部屋の中の光景を見るなり、文字通り飛び上がらんばかりに驚愕の声を上げる。


「何でいるんですか、みるきー先輩!?」

美玲先輩は驚きと、それから何故かものすごい焦りを含んだ表情で、俺たちの間に割り込んできた。


「みるきー……先輩?」

俺がその独特な響きの名前を口にすると、4年生の先輩は「その恥ずかしい呼び方やめろって言ってるでしょ!」と美玲先輩をペシッと叩いた。


「いいじゃん、みるきー先輩。宮尾瑠姫みやおるき略してみるきーですよ?あ、衣織くん、この人はね――」

「自己紹介くらい自分でできるわよ! ……コホン。私は宮尾瑠姫みやおるき。文学部の4年で、一応、この天文部の『前・部長』」

みるきー先輩はふんっと小さく胸を張った。


「え、前部長……ってことは美玲先輩が言ってた『半年前くらいに引退した先輩たち』の1人、ですか?」

「そうそう。多忙を理由に私を1人残してフェードアウトした、戦犯の一人ってわけ」

「フェードアウトなんて人聞きの悪いこと言わないでよ! 就活が本当に修羅場だったの!」

美玲先輩の言葉にみるきー先輩が抗議の声を上げる。


「最近はこうしてたまには様子見に差し入れ持ってきてあげてるじゃない!」

みるきー先輩は机の上の高級そうなシュークリームの箱を指差した。それから、じろりと俺の方に視線を戻す。


「それより美玲。本当に新入部員を捕まえたのね。よかったじゃない、あんなに毎日泣きついてきてたのに」

みるきー先輩はシュークリームの箱から視線を外し、腕を組んで俺をじろじろと見つめながら言った。


「そうなんですよ〜! 昨日の夜、私が大ピンチのところに彗星のごとく現れてくれたんです! まさに星の巡り合わせ!」

美玲先輩は我が事のように嬉しそうに胸を張った。昨日、俺の言葉に喜んでくれた時の笑顔がそのまま弾けたような明るさだ。


「ふーん……」

みるきー先輩は俺の前に回り込むと、つま先から頭のてっぺんまで、値踏みするような鋭い視線を向けた。小柄なのにその眼力には思わず背筋が伸びてしまうような迫力がある。


「まぁ、見たところ真面目そうだし、美玲のあの無茶苦茶なテンションに引いてない時点で合格点かな。……でも本当にいいの? 君」

「え?」

みるきー先輩は少しだけ意地の悪そうな、でもどこか試すような笑みを浮かべた。


「美玲はこう見えて、星のことになると周りが見えなくなるタイプよ? これからこの子の我儘に付き合うの、相当骨が折れると思うけど?」

「ちょっと、みるきー先輩!せっかく入ってくれたのに変な脅し文句言わないでください!」

美玲先輩が慌てて抗議する。俺は一瞬、昨日の嵐のような出会いと、今朝の自問自答を思い出した。確かに美玲先輩は距離感が近くて、危なっかしくて、台風みたいな人だ。でも後ろの席からただ世界を眺めていた俺に、上を向くことを教えてくれた人でもある。


「……大丈夫です」

俺はみるきー先輩の視線をまっすぐに見返した。


「俺、何も取り柄がないので、せめて機材を運ぶくらいの体力仕事なら、いくらでも先輩の我儘に付き合いますから」

一瞬、部室の空気が止まった。


「……っ」

美玲先輩が嬉しそうに両手で顔を覆う。みるきー先輩はきょとんとした後、すぐに意地悪な笑みをさらに深くした。


「へえ? 言うじゃん1年。美玲はいい拾い物したわね。……これ食べてよし」

そう言って、みるきー先輩は机の上の高級シュークリームの箱をバンッと俺の胸元に押し付けてきた。


「立河衣織です……いただきます……」

「はいどーぞ。衣織」

みるきー先輩はまるで自分の手柄のようにふんぞり返りながら、顎でシュークリームの箱をしゃくった。


「ありがとうございます。みるきー先輩……」

俺がぺこりと頭を下げてお礼を言うと、みるきー先輩の顔が途端に引きつった。


「みるきーって呼ぶな!初対面の1年生にまでそんなふざけたあだ名で呼ばれたら、先輩としての威厳がゼロになるでしょ!」

「え〜!いいじゃないですか! 可愛いです!みるきー先輩! 衣織くんもそう思うよね?」

美玲先輩がすかさず横から割り込んできて、俺の顔を覗き込んでくる。


「あ、いや、俺は……」

「衣織も困ってるじゃない! 美玲、あんたが変に変な呼び方を吹き込むから……っ」

「だって本当に可愛いんだからしょうがないですよ! ちっちゃくて可愛いみるきー先輩!」

「ちっちゃいって言うなっ!!」

再び始まった二人の先輩のわちゃわちゃとした掛け合い。みるきー先輩が小さな身体を目一杯使って美玲先輩の脇腹を小突けば、美玲先輩は「ひゃははっ、くすぐったい!」と身をよじって笑っている。


昨日までの1人でため息を吐いていた静かな日常がまるで嘘のようだ。騒がしくて、でもどこか心地いいその空間を見つめながら、俺は手元のシュークリームの箱をそっと机に置いた。


「……コホン!」

一通り暴れて息を切らしたみるきー先輩がわざとらしい咳払いを一つして、パイプ椅子にドカッと腰掛けた。美玲先輩も「ふぅ」と乱れた髪を直しながら、その隣に座る。


「……おふざけはここまで!せっかく衣織が来てくれたんだし、そろそろ本題に入りましょ」

みるきー先輩の言葉に美玲先輩の表情がキリッと引き締まった。


「了解しました!というわけで、新入部員歓迎兼、天文部復活大作戦の会議を始めます!」

美玲先輩は机の上に一枚の大きな画用紙を広げた。そこには太いマジックで『天文部・年間計画(仮)』と大きく書かれていた。


作戦会議が始まろうとしていた、まさにその時だった。

カチャリ、と今度はどこか軽薄な音を立てて部室のドアが開く。


「お疲れ〜。元気してる〜? 美玲ちゃんっ」

楽しげに響いた声の主は茶髪に緩くパーマをあてた、背の高い男だった。着崩したシャツの襟元からはシルバーのネックレスが覗いており、いかにも「大学生活を全力で謳歌しています」というオーラを全身から放っている。


(お、男が来た……!!)

俺の身体が瞬間的に硬直した。美玲先輩とみるきー先輩。二人の美少女先輩に囲まれて、内心どこか浮かれていた俺の頭に、氷水をぶっかけられたような衝撃が走る――。

ありがとうございました!

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