第8話 神界特別配信
街が静まり返っていた。
巨大スクリーンに映る、
自分の顔。
しかも微妙に盛れてない。
「いや角度どうにかならなかったのか!?」
『そこ!?』
『新人メンタル強いな』
『現実逃避で草』
アルトは叫んだ。
「なんなんだよ特別配信って!?」
周囲の視線が一気に集まる。
ざわざわと街がざわめく。
「観測神案件だ……」
「マジかよ」
「新人なのに?」
「死ぬぞ、あれ……」
アルトの顔が引きつる。
「嫌な情報しか聞こえねぇ」
その時。
コメント欄に、
見慣れないマーク付きの文字が流れた。
【公式神界ニュース】
『“奈落特別配信”は、
観測神が直々に選定する超高難度企画です』
『過去平均生存率:8%』
「低っっっ!!」
『歴代神回量産企画』
『毎回死人出る』
『数字はめちゃくちゃ伸びる』
「その代わりが重すぎる!!」
ガルムが青ざめた顔で後退する。
「お、おい……冗談だろ」
さっきまでの敵意が消えていた。
代わりにあるのは、
露骨な恐怖。
「観測神に目を付けられたのかよ、お前……」
アルトは眉をひそめる。
「そんなヤバいのか?」
ガルムが乾いた笑みを浮かべた。
「“面白くなかった奴”は、
二度と戻ってこない」
空気が冷えた。
コメント欄も、
少し静かになる。
『…………』
『言うなよそれ』
『新人にはまだ早い』
アルトの背筋に、
嫌な汗が流れる。
「戻ってこないって……」
その時だった。
【女神ルナ=ミリスが入室しました】
コメント欄の空気が変わる。
『ルナ様!!』
『来た』
『絶対見に来ると思った』
そして。
珍しく、
即コメントが流れた。
『断って』
アルトが止まる。
「……え?」
『その配信、受けちゃダメ』
今までのルナと違う。
ふざけてない。
本気だった。
アルトは思わず聞き返す。
「断れるのか?」
一瞬。
コメント欄が止まった。
『…………』
『あ』
『そこ知らないのか』
次の瞬間。
【観測神より通知】
【拒否権はありません】
「ないのかよ!!」
『知ってた』
『観測神だからなぁ』
『理不尽ゲー』
ルナのコメントが乱れる。
『だから嫌だったのに』
『なんでこんな早く』
『まだ準備も――』
途中で止まる。
アルトはその文字を見つめた。
「……お前」
気づく。
この女神。
本気で焦っている。
その時。
空中スクリーンが変わった。
【特別配信開始まで:00:59:58】
カウントダウン。
街中がどよめく。
『一時間後か』
『観測神、ガチだな』
『新人伝説になるぞ』
「なりたくねぇよ!」
アルトは頭を抱えた。
だが。
次の瞬間。
視界の端に、
小さな通知が出る。
【神界フォロワー数:10,000達成】
「増えすぎだろ!?」
『特別配信バフ』
『神界中が見に来てる』
『今一番ホットな新人』
「嫌なバズり方してんなぁ!?」
その時だった。
路地裏の奥。
小さな声が聞こえる。
「……逃げる?」
さっきの回復術師の少女だった。
栗色の髪。
不安そうな目。
「街の外なら……
少しは――」
【逃亡行為を検知した場合、
神界加護を停止します】
通知が無慈悲に出た。
「監視社会すぎるだろ!?」
『草』
『観測神は全部見てる』
『逃げ配信は伸びるけどな』
「伸ばすな!!」
アルトは壁に頭を打ちつけた。
最悪だ。
本当に。
だが。
ふと。
スクリーンの自分と目が合う。
今、
神界中が見ている。
笑ってる神もいる。
期待してる神もいる。
そして。
ルナだけは、
本気で止めようとしている。
アルトはゆっくり息を吐いた。
「……一個だけ聞く」
コメント欄を見る。
「その特別配信、
クリアしたらランキング上がるのか?」
一瞬。
コメント欄が静止した。
次の瞬間。
『うおおおおおお!!』
『新人!?』
『行く気!?』
『メンタルどうなってんだ!?』
【予想順位変動】
《圏外 → 73位予測》
アルトの目が止まる。
73位。
100位以内。
帰還権。
ルナのコメントが流れる。
『……やめて』
短い文字。
でも。
それが妙に刺さった。
アルトは少し黙る。
そして。
苦笑した。
「悪い」
空を見上げる。
巨大スクリーン。
神界。
観測神。
全部クソだ。
でも。
「帰りたいんだよ、俺」
その瞬間。
コメント欄が爆発した。
【神界同時接続数:3,102柱】
『うおおおおおお!!』
『神回の匂い』
『主人公してる』
『新人、本物か?』
その中で。
黒いコメントだけが、
静かに流れた。
【良い表情です】




