第7話 「つまらない奴」は消えていく
路地裏の空気が冷えた。
男はアルトを睨みながら舌打ちする。
「最近よぉ、
お前みたいなのが一番ウザいんだよ」
『うわ典型』
『古参気取り』
『嫉妬民きた』
『神界まとめで見たことある顔だな』
アルトは眉をひそめた。
「……誰だお前」
男の額に青筋が浮く。
「俺を知らねぇのか?
《疾風のガルム》だぞ」
『あー』
『元ランキング勢』
『落ちた人』
『今80位くらい?』
男――ガルムの顔が歪む。
その反応だけで、
十分だった。
「……チッ」
アルトは少しだけ理解する。
この世界では、
ランキングが“価値”だ。
強さも。
人気も。
存在感も。
全部。
ガルムは吐き捨てるように笑った。
「お前みたいな新人が、
ちょっとバズったくらいで調子乗んな」
『新人逃げろ』
『こいつ今荒れてる』
『配信伸びなくてピリついてる』
アルトは思わずツッコむ。
「コメント欄が解説動画みたいになってんぞ」
「……は?」
ガルムが怪訝な顔をする。
その瞬間。
アルトは気づいた。
見えていない。
コメント欄が。
「え?」
『あ』
『知らなかったか』
『普通は見えない』
『神界適応持ちだけ』
アルトは固まる。
「……いや待て。
みんな見えてるわけじゃないのか?」
『見えない』
『音声だけの奴もいる』
『加護次第』
『お前かなり特殊』
アルトの背筋に、
少しだけ寒気が走る。
今まで普通だと思っていた。
だが違う。
自分は、
神々の“反応”を直接見れている。
それってつまり――
「……俺、思ったよりヤバい?」
『今さら?』
『新人かわいい』
『自覚遅い』
「かわいくねぇよ」
ガルムが苛立ったように叫ぶ。
「さっきから一人でブツブツ何言ってんだ!」
「え、いや……」
言えない。
“神のコメント読んでます”とは。
絶対ヤバい奴だ。
いや実際ヤバいが。
その時だった。
後ろで震えていた女の子が、
小さく声を出した。
「……あの」
回復術師の少女。
栗色の髪。
怯えた目。
「その人、助けてくれただけで……」
ガルムが舌打ちする。
「黙ってろ」
ビクッ、と少女が肩を震わせた。
アルトの顔から、
少しだけ表情が消える。
『新人』
『その顔』
『また地雷踏むぞ』
アルトはゆっくり口を開いた。
「……お前さ」
「ぁ?」
「嫌がってる奴に無理やり危険配信させて、
何がしたいんだよ」
ガルムの顔が歪む。
「数字だよ」
即答だった。
「配信ってのはな、
見られなくなったら終わりなんだ」
その目。
妙に必死だった。
「ランキングが落ちれば、
スポンサー神は離れる。
加護も減る。
視聴数も落ちる」
ガルムは拳を握る。
「そうなったら……
誰も俺を見なくなる」
路地裏が静まる。
アルトは、
その言葉を否定できなかった。
少し前までの自分も、
似たようなものだったから。
誰にも見られない。
必要とされない。
数字にもならない。
ガルムが笑う。
壊れたみたいに。
「だから危険配信でも何でもやるしかねぇんだよ」
『…………』
『きつい』
『現実だな』
『これが配信者』
アルトは少し黙る。
そして。
「……それでも」
ガルムを見る。
「嫌がってる奴巻き込むのは違うだろ」
沈黙。
ガルムの顔が怒りで歪む。
「……新人が」
殺気。
空気が変わる。
『うわ』
『始まる?』
『街中はまずいぞ』
ガルムの腰の剣に手が伸びる。
その瞬間。
空が光った。
【神界緊急速報】
巨大スクリーンが、
街の上空に展開される。
街中の人間が足を止めた。
「……なんだ?」
次の瞬間。
黒い文字が浮かぶ。
【観測神より告知】
コメント欄が凍りついた。
『は?』
『まさか』
『早すぎる』
アルトの背筋を、
嫌な汗が流れる。
【今夜、“奈落特別配信”を開始します】
ざわめき。
街中が静まり返る。
【対象配信者】
そして。
ゆっくりと。
巨大スクリーンに、
アルトの顔が映った。
「…………は?」
『うわぁ』
『新人終わった』
『観測神のおもちゃにされた』
黒い文字が、
最後に表示される。
【――視聴率を、期待しています】




