第6話 初めての街、初めてのアンチ
地下湖は、静かだった。
巨大魚は岩場に半分乗り上げたまま動かない。
アルトはその横で、
大の字になって倒れていた。
「……死ぬ……」
『生きてる』
『新人丈夫だな』
『耐久型主人公か?』
「なりたくてなってねぇよ……」
全身が痛い。
腕も脚もガクガクだった。
だが。
【奈落魚 討伐成功】
【経験加護を獲得しました】
【神界トレンド3位にランクイン】
「トレンド!?」
『伸びてる』
『今神界で話題』
『奈落新人』
『落下系配信者』
「ジャンル分けすんな!!」
アルトはふらつきながら立ち上がる。
その時だった。
地下湖の奥。
暗闇の向こうに、
小さな灯りが見えた。
「……出口?」
『あー』
『街側だ』
『ようやく人里』
『新人卒業編』
「長かったわ!!」
アルトは重い身体を引きずりながら歩き出した。
しばらく進むと、
洞窟の出口が見える。
その先。
夜だった。
「…………」
アルトは思わず立ち止まる。
崖の下。
巨大な街が広がっていた。
灯り。
石造りの建物。
橋。
煙突。
そして空中に浮かぶ、
巨大な半透明スクリーン。
そこには。
【神界急上昇配信】
1位 《剣聖レオン VS 深淵竜》
2位 《聖女セシリア涙の謝罪配信》
3位 《奈落落下新人、生存中》
「俺ぇ!?」
『トレンド入りおめ』
『新人で3位は異常』
『伸びすぎ』
「いや待て待て待て」
アルトはスクリーンを見上げた。
そこには、
さっき自分が巨大魚に噛まれそうになってる映像が流れている。
しかも。
【切り抜き:『帰りたいからだよ!!』】
とかタイトルまで付いてる。
「やめろぉぉぉぉ!!」
『草』
『タイトル職人優秀』
『感情回だったな』
「勝手に感動回にすんな!」
街の人々が、
ちらちらアルトを見る。
ざわついている。
「あれ、奈落新人じゃね?」
「マジで?」
「配信で見たぞ」
「思ったより普通だな」
「普通で悪かったな!?」
アルトが叫ぶと、
通行人が少し引いた。
『リアルでコメント返ししてて草』
『新人、配信脳になってきたな』
「なってねぇよ!!」
その時。
腹が鳴った。
グゥゥゥゥ……。
アルトは静止した。
「…………」
『草』
『生活感』
『飯回きた』
「飯……」
そういえば、
この世界に来てから何も食べてない。
限界だった。
するとコメント欄に、
一つの店名が大量に流れ始めた。
『赤猫亭』
『新人はあそこ行け』
『飯うまい』
『女将が怖いけど』
「レビューサイトみたいになってんな……」
アルトは半信半疑で街を歩く。
すると。
路地裏から声が聞こえた。
「だから言っただろ!
もっと危険な配信やれって!」
「で、でも……!」
若い男女だった。
男は鎧姿。
女は回復術師っぽい格好。
だが空気が悪い。
男が苛立ったように叫ぶ。
「視聴数が落ちてんだよ!!
このままじゃスポンサー神切られるだろ!」
アルトが足を止める。
『あー』
『配信崩壊組』
『最近多い』
『きついな』
女が震えた声で言う。
「でも、前の配信で死にかけて……」
「だから何だよ!
死にかけた方が数字伸びるだろ!」
空気が冷えた。
アルトの顔から、
少しだけ笑いが消える。
『…………』
『新人』
『その顔やめろ』
男はさらに怒鳴った。
「つまんねぇ配信してたら、
誰にも見られなくなるんだぞ!?」
その言葉。
アルトの中で、
何かが引っかかった。
誰にも見られない。
その感覚を、
アルトは知っている。
男が女の腕を乱暴に掴む。
「次はもっと派手に――」
「やめろ」
アルトが口を開いていた。
男が振り返る。
「あ?」
アルトは少しだけ眉をひそめた。
「嫌がってんだろ」
男が鼻で笑う。
「……誰だお前」
『うわ』
『絡まれた』
『新人、それ触るの危ない』
男がアルトを見て、
目を見開いた。
「あ?」
そして。
空中スクリーンを見る。
今も流れている。
【奈落落下新人、生存中】
男の顔が歪んだ。
「……お前かよ。
最近バズってる新人」
空気が変わる。
『あ』
『アンチだ』
『新人、初アンチおめ』
『配信者の洗礼』
男は吐き捨てるように笑った。
「運が良かっただけの素人が、
調子乗ってんじゃねぇよ」




